第十二回 想い出を糸で繋いだ時、それは今この時だった。


 ――駆けるバスは、想い出を誘う。土地や季節は違えども……でも、誘われる。

 何せ、そこは二人だけの世界なの。……運転手と乗客のみ。二人きりの乗客だ。



 手繰る想い出、オートマチックに。


 その頃の日々野ひびのせつは、優等生というレッテルで飾られていた。清楚という表現がピッタリのお嬢様。よくあるパターンのPTA会長の娘で、習い事は日々、数多し……


 お堅いイメージがありそうだけど、そこは意外で、


梨花りかちゃん、尊敬しちゃう。上手いね、バンプラ」と、褒めに褒めて……その日、僕のお家を訪れたことをきっかけに、せっちゃんは目を輝かせつつもバンプラに興味深々。


 学校の帰りかな、僕のお家に寄る機会が多くなり、……一緒に、一緒にバンプラを作ることも回を重ねた。そこで僕は知った。――せっちゃんのもう一つの顔。優等生のレッテルの向こうにある、素の顔。お人形さんではない本当の……そう、僕だけが知っている。


 初めてとは思えないほど、

 僕の方がビックリするくらい、器用で御上手なの。



 ……でも、


 でもね、教育ママが、せっちゃんのママが許さなかったの。だから喧嘩。その果てにプチ家出して、僕のお家を訪ねてきて……あっ、そういうこと。


「あの日は、僕が誘ったんだね。

 どうしたの? って何回も訊いたけど、せっちゃんは泣いてばかりで……泣いてばかりだったから見てられなくて、『じゃあ、バンプラのスタンプラリー一緒に行こっ』って言った途端、急に笑顔になって『うん』って……こうしてバスに乗って、二人きりで」


 あの時とは、少しばかり変わったせっちゃんだけど、


「そうね、一緒なの。梨花と一緒なのも。バンプラ大好きなのも」


 と、呟きに近い言葉。――心は、あの頃と同じ。そして輝ける、今この時を。



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