第三回 その時から、紡がれている物語。


 ――そう、その時から。



 千佳ちかには恋人……ううん、まだ中学生だからBF……ボーイフレンドというべきかな。


 手を繋いで行っちゃった、晴れ着のまま。


 千佳のBFの名前は、霧島きりしま太郎たろう君という、かつては僕とお泊りした仲。洗いっこも、まるで親戚の子のような、弟のようなそんな存在だ。……僕は、千佳のようになれない。


 暫くなかったけれど、

 久しぶりに、そんな思いが過った時、


梨花りか」と、僕の名を呼ぶ声が聞こえ、すぐさま振り向く……すると、


「せ、せっちゃん?」


 ――驚きもビックリ、今ここにいることが不思議な子だ。六年生の……あっ、小学生の頃だけど、同じクラスの子。多分だけど、一番仲のいいお友達だったと思える。


「ど、どうして?」


「どうしてって、遊びに来たんじゃない。……でも、どうしたの? そんなにお洒落なんかしちゃって。晴れ着なんて着ちゃって。見ないうちに何か、女の子って感じだし」


 ジロジロ見る、僕のこと……「へえ~へえ~」って声を発しながら。


 僕が「せっちゃん」と呼ぶこの子の氏名は、日々野ひびのせつ。相変わらず派手なスタイル。まるでアメリカの国旗のようなジャンバーに、ヒョウ柄のロングスカート。ブーツ。ゆるふわウェーブの茶髪が靡く。やや釣り目の可愛い感じの子。背は、僕より少し低い。


 それでもって僕は、


「感じじゃなく女の子」と、先ずはふくれ面で……だけど「来て大丈夫だったの? 東の都って今、新型ウィルスで大変なんじゃ、どうやって帰るの?」と、訊くことになる。


「帰るって、バスで。……引っ越したの、私。中学生になってすぐ。学校もこの近くなんだよ。市立の天王てんのう中学校。同じ学年に『星野ほしの』って子がいると聞いたから、でも、不登校になって転校したって聞いたから、……でも、大丈夫そうだね、梨花」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る