本当の愛


翌日の12時、待ち合わせ場所のファミレスの前に向かっていると、俺に気づいた加瀬さんが可愛らしい笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。


「双葉先輩!来てくれたんですね!」

「今日は話があって来たんだ」

「なんですか?」

「昨日も言ったけど、彼女がいるから二人では遊べないんだよ」

「せっかく双葉先輩の好きそうな服選んだんですけど‥‥‥」


俺の何を知ってるだ!白いパーカー可愛いけどさ‼︎


「と、とにかくそういうことだから、俺は帰るぞ」

「ダメ!」


加瀬さんは俺の右腕にしがみつきいて離れなくなってしまった。


「誰かに見られたらヤバいんだって‼︎」

「甘え坊な女の子は嫌いですか?」

「嫌いじゃないけど人によるよ!」

「それじゃ、双葉先輩の好みの女性になるように頑張りますから!行きましょ!」

「離してくれ〜!」


そのまま近くのカラオケ店に連れて行かれ、個室で隣に座られてしまった。


「先に失礼しますね!」

「う、うん」


まず普通に考えて、ずっとボッチで授業受けて昼ごはん食べて、それ以外は寝たふりしてる俺を好きになるとかおかしいだろ!

加瀬さんも、俺を試すために送り込まれた人に決まってる‼︎てか歌うまっ‼︎


予想以上に加瀬さんの歌が上手くて聞き入ってしまった。


「次、双葉先輩が歌ってください!」

「俺は歌わないよ。それより加瀬さん」

「なんですか?」

「桜橋グループの人だよね」

「私は加瀬ですよ?」


俺は知っている。苗字が違っても桜橋グループの一員になれることを!川崎先生だって苗字が川崎なのに桜橋グループの人だ。


「それじゃ、どうして俺のことが好きなの?」

「いつも一人で、群れない感じとか見てて好きなんです!なのにたまに、川崎先生と仲良くしてて、嫉妬心を刺激されるというか!」


んー、そもそも本当に同じ大学の生徒なのか⁉︎それも疑問だわ‼︎


「私は、今の彼女さんみたいに寂しい思いとかさせません!今日みたいに毎日一緒にいられます!双葉先輩が望むことならなんでもしますし、双葉さんが幸せを感じてくれるためなら一生尽くします!」


はぁ〜‼︎嘘だ‼︎昨日話したばかりなのに、ここまで素直にアタックできるものなのか⁉︎

少し嬉しいって思ってしまうのが悔しいけど‼︎


「だから、私じゃダメですか?」


なんだそのあざとい上目遣い‼︎そんな誘惑に負けないぞ‼︎


「うん、ダメ」

「どうして⁉︎」

「どうしていいと思ったの⁉︎」

「大抵の男は今のでおちます!私可愛いし!」

「恋愛経験豊富なんだね〜‥‥‥」

「あっ、私!初めての恋です!」 

「絶対嘘じゃん‼︎」

「チッ」


加瀬さんはイライラしだして貧乏ゆすりを始めた。


「か、加瀬さん?」

「調子に乗るなし」

「えぇ‥‥‥」

「アンタが乗れば、キスぐらいしてあげる覚悟あったのに、あー、勿体ない」

「別にしたくないし」

「はぁ⁉︎私とだよ⁉︎したいよね⁉︎」

「別に‥‥‥」

「‥‥‥まぁいいや、アンタは合格。でもムカつくからキスしたって報告する」

「やっぱり桜橋グループ‼︎てかやめて⁉︎絶対やめて⁉︎」

「やだねー!バーカ!べー!」

「‥‥‥」


帰っちゃった‥‥‥いやいやいや‼︎


「マジで嘘の報告するなよー⁉︎」


個室を出たが、すでに加瀬さんの姿は無かった。


ユクとユネ、エレナと比べれば厄介な相手じゃなかったけど、プライドが高くて本当に嘘つきそうで怖いな‥‥‥


それから俺の周りに変化は無く、ひたすらボッチ生活を貫き、桜橋先輩がイギリスに行ってから遂に四年が経って、さらに四ヶ月が過ぎた。

いつ桜橋先輩から連絡が来るか、頻繁に携帯を確認する毎日が続き、暑さを感じる7月の朝、携帯の通知音で目を覚ますと、桜橋先輩から『会いに行きます』とメッセージが届いていて、一気に目が覚めた。


「文月!ドンドンうるさいよ!」

「ごめん!」


急いで準備しなきゃ‼︎


急いで私服に着替え、ネックレスと指輪をつけて外に出て桜橋先輩を待っていると、遠くに、黒い髪をなびかせ、白い服を着た人が見え、俺は思わず走り出した。


桜橋先輩だ!最初になんて言おう!やっと会えたんだ!ダメだ、自然と笑みが!


「桜橋先輩!うっ⁉︎」


感動の再会でビンタ〜⁉︎


「この‼︎」

「うっ!」

「浮気者‼︎」

「いっ!」

「私は‼︎」 

「痛い!」

「常に双葉くんを‼︎」

「やめっ!」

「考えて‼︎」

「ひっ!」

「異性とも話さずに‼︎」

「あっ!」

「いたのにー‼︎‼︎‼︎」

「いったーい‼︎‼︎なんなんですか!やっと会えたのにいきなりビンタとかおかしいだろ‼︎」

「他の女の子とキスしたでしょ‼︎最低‼︎」

「してねーよ‼︎あっ」 

「ほら!心当たりあるじゃない‼︎」

「違うんです!してないのに、したって報告してやるって言ってた人がいて!」

「なら、私の目を見てしてないって言いなさい!」


桜橋先輩の目を真っ直ぐ見て言ってやろうとしたが、桜橋先輩が大人っぽく、美人になりすぎていて言葉が出ない‥‥‥


「ほら、言えないじゃない」

「し、してないです!」

「動揺してる」

「それは、桜橋先輩が綺麗になりすぎてて」

「‥‥‥あ、ありがとう」

「やっと会えましたね」

「長かったわ。本当にしてないのね?」

「してません!」

「指輪もネックレスもしてるし、信じてあげる」


微かに遠くから蝉の鳴き声が聞こえてくる中、俺達は暑さなんて忘れて、再開を喜び、四年という長い時間を埋めるように抱きしめ合った。


「毎日桜橋先輩で頭がいっぱいでした」

「私だって」

「ずっと好きです」

「私も双葉くんが好きよ」

「ずっと会いたかったです」

「約束、覚えてる?」

「忘れたことなんてありませんよ。俺とけっ」


大事な時に、真横に黒い車が停まって言うのをやめてしまった。


「へいへーい双葉くーん!親の前でいい度胸だね」

「お父さん⁉︎」

「君のお父さんじゃありません!」

「貴方!いい加減にしなさい!」

「いてててて!」


車に乗っていたのは桜橋先輩の両親で、お母さんがムッとした表情で、お父さんの耳を本気で引っ張りだした。


「貴方のわがままで、四年も耐えさせたのよ!」

「すまなかった!」

「認めてあげなさい!」

「はぃ〜!」

「よろしい」

「ふ、双葉くん」

「はい!」

「これからどうしたい?」

「桜橋先輩さえよければ、結婚して、ずっと一緒に居たいと思っています!」

「一花、素直な気持ちで答えてあげなさい」

「双葉くんとの子供が欲しい!」

「えぇ⁉︎」

「い、一花?それはちょっと早いんじゃ‥‥‥もちろん、そそっ、そういうこともまだだろ?」

「私と双葉くんは愛し合ってるの!四年前にしたわ!」

「さーくーらばしせんぱーい⁉︎」

「双葉くん。海に行こうか」

「ごめんなさい‼︎」

「貴方‼︎」

「すみません‼︎」


男二人が謝っている変な光景を、通行人が不思議そうに眺めていく中、桜橋先輩はニコッと可愛らしく笑い、俺の手を握った。


「双葉くんのご両親に、ご挨拶と報告をしに行きましょう!」

「はい!」


俺達は出会って約7年、楽しいことも、すれ違うことも沢山あり、やっと四年前の約束を果たした。

桜橋先輩と会うと、高校生の頃に戻ったような気持ちになり、とても落ち着く。

四年間の不安と寂しさも一瞬で無くなってしまった。やっぱり俺にとって桜橋先輩は、一番大切で大好きな人。改めて自覚できた。


愛を教えるはずが、本当の愛ってものを教えられたのは‥‥‥俺の方なのかもな。

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