試される


一年‥‥‥ニ年‥‥‥


「ニ年だぞ!大学生になってニ年半が経った!友達ゼロとかあり得るか⁉︎」

「あはは!でも一花先輩と会えるまであと半年じゃん!」

「そうだけどさー」


今日は久しぶりに美山と桃の三人で、美山のアパートに集まってお菓子を食べながら雑談を楽しんでいる。

二人とも、このニ年で髪型も大人っぽくなって、ちゃんとメイクまでするようになった。

何にも変わらないのは俺だけだ。


「双葉さん双葉さん、見てください。雑誌に私の記事が載りました」

「前に言ってたやつだろ?ちゃんと買ったぞ!」

「私は買わなかった」 

「どうしてですか」

「だって怖いの苦手だもん」

「いろんな心霊スポットの写真を載せてもらったんです。面白いですよ?」

「いい!見せないで!」

「ほらほらー」

「嫌だ!」


やっぱりこの二人といると安心するな。


結局美山は恐る恐る雑誌を見始め、楽しそうな桃と、怖がる美山を見て和んでいると、携帯に知らない番号から電話がかかってきた。


「はい」

「双葉さん」 

「お久しぶりです」

「その声は!ユクとユネ⁉︎」

「はい」

「一花姉様は」

「日本へは帰りません」

「な、なに言ってんだよ」

「お金持ちの息子と」

「結婚する話が進んでいます」

「‥‥‥冗談だよな」

「事実です」

「どうして‥‥‥」

「ドッキリ」

「大成功〜」

「は?なにこの電話」


それにドッキリとかするような、そんなお茶目な奴らだっけ?


「私達も」

「一花姉様の状況は知りません。それより」

「エレナ姉様を」

「覚えていますか?」

「うん」

「近々双葉さんの前に」

「現れます」

「なんでだ?」

「耐えて」

「耐えて」

「なにに?」


はい⁉︎切られたんですけど‼︎


「文月くん?ユクとユネってあの?」

「一花先輩の従姉妹でしたっけ」

「そうだ。でもよく分からない電話だったわ」

「変なのー」

「それよりゲームしようぜ!」 

「しよしよ!」

「私もやります」


それから数日後、大学で授業を終えて帰ろうとしていた時、誰かにガシッとカバンを掴まれて振り向いた。


「久しぶり」

「エレナだ!」


なんかますます美人になったか⁉︎


「この後紹介したい子がいるから一緒に行こ!」

「いきなりなんだよ。てか、この大学の生徒じゃないだろ」


エレナが現れるって頭の隅にあったからか、あまり驚きは無い。


「関係ないよ!行くよ!」

「いやいや!困るって!」

「レッツゴー!」


そして強引に連れて来られたのは、大学から徒歩5分ぐらいの場所にあるファミレスだった。


「お待たせ!」

「ふ、双葉先輩!初めまして!同じ大学の一年生で、加瀬雅かせみやびっていいます!」

「ど、どうも」


清楚で今時の女子大生って感じの人だな。


「座って座って!」

「ドリンク持ってきます!双葉先輩はなに飲みますか?」

「えっと、メロンソーダで」

「分かりました!」


加瀬さんがドリンクを取りに行ってすぐ、俺はエレナに小さな声で聞いた。


「なんだよこれ」

「雅ちゃん、アンタのこと好きなんだって」

「は?俺には桜橋先輩がいるの知ってるだろ」

「一花姉様ならアンタのことなんてどうでもよくなってるよ。雅ちゃんいい子だし、新しい恋しなよ。私がサポートしてあげるからさ」

「どうでもよくなってるとか嘘だろ」

「本当だよ。四年近く会わないで話もしなかったら興味なくなるでしょ」

「‥‥‥」


嘘だと思いながらも、心のどこかで確かにそうなってもおかしくないと、現実を見てしまう自分がいる。


「お待たせしました!」

「あ、ありがとう」

「双葉先輩って、川崎先生と仲良いですよね!」

「まぁ、高校生の時、三年間担任だったから」

「そうなんですかー、ちょっと嫉妬しちゃいます」

「‥‥‥あはは‥‥‥」


めっちゃアピールしてくるじゃん‼︎


「私も、先生みたいに仲良くしてくれますか?」

「それはいいけど、遊んだりとかはできないかな」

「どうしてですか?」

「かのっ」

「双葉くんはね!あまり女の子に慣れてなくて、あまり素直になれないの!」

「そんなところも素敵です!」


彼女がいるって言おうとしたのを止められたんだが。


「あっ、ごめんなさい‥‥‥逆にさっきから、ガツガツ話しすぎちゃってますよね」

「い、いやいや!気にしないで」

「双葉先輩は優しいですね!」

「ありがとう‥‥‥」

「明日さ、二人でカラオケでも行ってきたら?」

「行きたい!あ、双葉さんが良ければ行きたいです‥‥‥」

「んじゃ決定ね!」

「おいエレナ、俺はなにも言ってないぞ」

「それじゃ、二人とも連絡先交換しちゃいなよ!」

「うん!双葉先輩!QRコード読み取らせてください!」


すごい眩しい笑顔‥‥‥断りにくい‥‥‥


ポケットの携帯を握った時、ユクとユネの『耐えて』という言葉を思い出した。


「ごめん、それはできないんだ」

「どうしてですか‥‥‥?」

「彼女が悲しむことはしたくない」

「彼女さんのことはエレナちゃんから聞いてます‥‥‥でも、四年も会ってなくて話してないんですよね」

「まぁ」

「そんなの寂しくないですか?」

「そりゃ寂しいけど」

「私なら‥‥‥そんな思いさせないです」

「‥‥‥」

「それじゃ、連絡先の交換は、明日遊んで楽しいって感じてくれたらお願いします!明日の12時、このファミレスの前で待ってますね!」

「え」


そう言って加瀬さんはお金を置いてファミレスを出て行ってしまった。


「エレナ」

「なに?」

「邪魔するなよ」

「酷いなー、私なりの優しさなのに」

「明日来ないからな」

「女の子を一人で待たせるの?」

「んー‥‥‥」


エレナは桜橋先輩のことが好きなはずだ。絶対に自分の意思でこんなことをしているわけじゃない。誰かに依頼されてる!ユクとユネは依頼されてないから、はっきり言わないだけで助けのヒントをくれたんだ。多分だけど、桜橋先輩と再会できるまで半年を切った今、俺は試されてる‥‥‥


「桜橋先輩以外どうでもいい。絶対に来ない」

「来るよ」

「なんでだよ」

「断るなら断るで、ちゃんと言わないと。ただ待たせるだけなんて、優しい双葉くんにはできない」

「‥‥‥断って帰る」 

「それじゃ明日は頑張ってね」


エレナがいないなら、断るぐらい余裕だわ。

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