それぞれの旅立ち
桜橋先輩がイギリスに行ってから、約半年以上が経った。
不思議と俺からも桜橋先輩からも連絡は取らず、俺は桜橋先輩を信じて自分のするべきことを頑張っている。きっと桜橋先輩もそうなんだと願いながら。
「双葉さん双葉さん。雪ですよ」
「‥‥‥」
「文月くん?」
「あ、うん。雪だな」
生徒会じゃなくなってからも、相変わらず俺達三人は一緒に居て、今日も放課後にオカルト部の部室に集まって雑談している。
鈴穂も俺達が居ないならやらないと言って、生徒会長には立候補しなかったし、俺達はただただ暇な、学生らしい日々を過ごしている。
「二人とも、卒業したらなにするんだ?」
「私はね!働きまくって一人で安定した暮らしができるように頑張る!」
「いいな。桃は?」
「心霊雑誌の編集者、または取材班になりたいです。そんな双葉さんはなにするんですか?」
「メンタル心理カウンセラー。その資格を取るための申し込みもした」
「いつの間に⁉︎」
「ちなみに大学も合格した」
「なにも教えてくれなかったじゃないですか。大学行くなんて知りませんでしたよ」
「そうだよ!」
「言うタイミング無かったし。教育免許取るんだよ」
「先生になるの⁉︎」
「んー、なかなか学校に来れなかったり、悩みを抱えた生徒が通う教室の先生になりたい」
「すごすぎ!」
「でも、先生って気づいてんのか気づいてないのか分かんないけど、ああいう教室って、他の生徒からしたら目立つし、通ってる生徒も変に目立ってることを自覚して思うんだ。だから尚更学校に行きたくなくなる。その辺もなんとかしたいよなー」
「双葉さんならできます!」
「一花先輩も、文月くんが先生目指してるって聞いたらビックリしそうだね!あと褒めてくれそう!」
「やっぱりか⁉︎」
「あ、急に元気になった」
「優しい笑顔で褒めてもらいてーなー」
「鬼嫁みたいになって帰ってくるかもよ?」
「‥‥‥そんなことある?」
「四年もあれば性格も体型も変わります。ブヨブヨになって帰ってくるかもしれません」
「そうなったらどうすればいい⁉︎」
「私と付き合えばいいんです」
「いや!私だし!」
「本当に諦めが悪いなー。もう俺のことは諦めたんじゃないのかよ」
「諦めたって気持ちは変わるもんじゃないよ〜」
「そうですよ〜」
「川崎先生に聞かれたら面倒だからやめて〜」
「川崎先生ならずっと後ろに居ますけど」
「怖っ‼︎‼︎なにしてんの⁉︎」
「お話を聞いてただけよ?」
「んで?なんか用ですか?」
「一花ちゃん、イギリスでモテモテらしいよ?」
「‥‥‥」
「川崎先生‼︎なんてこと言うんですか‼︎」
「そうです!出て行ってください!」
「ごめんなさーい!」
川崎先生は慌てて出て行き、めちゃくちゃ気まずい沈黙が数秒続いた。
「だ、大丈夫ですか?」
「べ、別に?桜浜学園でもモテてたし?」
「でも、イギリスってイケメン多そう」
「‥‥‥美山さん‥‥‥双葉さんが白目むいちゃってます」
「文月くん⁉︎しっかりして!」
そんなこんなで月日は経ち、俺達三人も卒業の日を迎えた。
「卒業おめでとう」
「鈴穂か、なんだかんだ仲良くしてくれてありがとうな!」
「仲良くした覚えないし」
「ないの⁉︎わりと楽しくやってたじゃん!」
「第二‥‥‥タン‥‥‥けど‥‥‥」
「はい?なんて?」
「だから‼︎第二ボタンくれたら仲良くしてやってもいいって言ってんの‼︎」
「あ、無理」
「おっけ〜!んじゃ殺しまーす!」
「理不尽の鬼‼︎」
「冗談だよ!それにしてもあれだね」
「なんだ?」
「話聞いた時は四年って長すぎって思ったけど、もう一年経ったんだね」
「そうだなー、一年連絡取らなかった自分を褒めてやりたい」
「連絡してないの⁉︎」
「お互いにしてない。桜橋先輩は事情があるのかもしれないけど」
「一年会ってなくて連絡無しとか、自然しょっ」
「鈴穂ちゃーん‼︎それ以上ダメだよー!」
美山が慌てて鈴穂の口を塞いだが、なにを言おうとしたかぐらい分かる。ちょっと不安になってしまった。
「桃は何処行った?」
「あそこで男子生徒からツーショットの誘いの嵐」
「本当だ。めっちゃ嫌そうな顔してる」
「美山先輩は写真撮らないの?」
「もういっぱい撮ってきた!鈴穂ちゃんも撮る?」
「いい」
「遠慮するなよ。なんなら三人で撮るか?」
「んじゃ撮ってあげてもいい」
「ふ〜ん。鈴穂ちゃんって、やっぱり文月くんのこと好きなんだ〜」
「す、好きじゃないし!なんで私がこんな奴!」
いや、絶対好きだよね。俺本人ですら、だいぶ前から感づいてるわ。
「まぁ、とりあえず撮ろうぜ!」
「私も入れてください」
「おっ、桃」
「撮影会終わったの?」
「逃げてきました」
「んじゃ、元生徒会メンバー四人で記念撮影だ!」
「おー!」
各自の携帯で一枚ずつ写真を撮り、しばらく思い出話に花を咲かせていると、川崎先生が涙ぐみながら近づいてきた。
「三人とも‥‥‥こんなに大きくなっちゃって‥‥‥」
「たいして変わらないと思いますけど」
「一年生の頃はこんなんだったじゃない!」
川崎先生は真剣な顔で、人差し指と親指を広げて五センチぐらいの幅を作った。
「どんなんだよ‼︎」
「みんな、卒業しても元気でね」
「これでやっと、監視からも離れられます!」
俺がそう言うと、川崎先生は何も言わずにニコッと笑みを浮かべた。
「なんですかその笑顔‼︎なんか言って⁉︎」
「卒業おめでとーう!」
「待って⁉︎行かないで⁉︎」
「行っちゃったね」
もう‥‥‥嫌な予感しかしない‥‥‥
「んじゃ鈴穂」
「はい?」
「また連絡するわ!桃と美山もたまには遊ぼうな!」
「帰っちゃうの?」
「大学の準備で忙しいからさ」
「卒業祝いで、どこか行きたかったです」
「んー、じゃ、2時間だけ行くか!」
「行きましょう!」
「私も行く!鈴穂ちゃんも行くでしょ?」
「私はまだ学校だよ。それに卒業生だけで行きなよ」
「そっかー、んじゃまた今度四人で遊ぼ!」
「いいけど」
それから、みんなと桜浜学園に別れを告げて三人でファミレスにやってきた。
「ハンバーグ最高です」
「よかったな。そういえば美山は、これから何処に住むんだ?」
「貯めたお金でアパート借りたよ!ピョコ蕎麦も住める場所!」
「いいな!やっぱり寮ができてから、お金に余裕できたか?」
「かなり!」
「ポテトと唐揚げのセットになりまーす!」
「‥‥‥紬先輩⁉︎」
「何でこんなとこにいるんですか⁉︎」
「私服ですか?」
紬先輩は私服姿で頼んでないポテトと唐揚げのセットを運んできた。
「たまたま友達と来ててね!これは奢り!」
「ありがとうございます!」
「どういたしまして!卒業の打ち上げ?」
「そうです」
「卒業おめでとう!あっ!ちゃんとネックレスと指輪してるんだね!」
「してますよ!生徒会長が変わってから、何回注意されたことか」
「それでも外さなかったの?」
「桜橋先輩とお揃いだって言ったら許されました」
「まさか、一花ちゃんの存在っていまだに影響力あるの?」
「かなり」
「大抵のことは一花先輩の名前出すと許されます!」
「便利な名前だねー」
「あの」
「どうしたの?桃ちゃん!」
「まだツルツルですか?」
「ちょ、ちょっと!こんな場所で聞かないでよ!」
「ボサボサなんですか?」
「もうツルツルに慣れちゃって生やせないよ」
「男の前でそんな話しないでもらっていいですか?しかも食事中に」
「桃ちゃんが聞いてきたんだよ⁉︎」
「美山さんは生えてるらしいです」
「桃ちゃん⁉︎」
「お前ら中学生かよ。18歳で生えてない方がやばいって」
「‥‥‥」
何故か桃は顔を赤くして俯き、震える手でポテトを食べ始めた。
「桃‥‥‥まさかお前‥‥‥」
「いや〜‼︎‼︎私だって大人‼︎もう大人なんだ〜‼︎‼︎」
「うるさっ‼︎落ち着け桃‼︎キャラ崩壊してるから‼︎」
「お客様!他のお客様のご迷惑になりますので!」
「私も大人なの〜‼︎‼︎」
「ごめんなさい!もう出ます!紬先輩もまた遊びましょうね!」
「う、うん」
「美山!出るぞ!」
「うん!」
そんなこんなで、桃の初めての一面を見て俺達の学園生活は幕を閉じた。
そして4月になり、大学の入学式が無事に終わると、聞き覚えのある声で「双葉くん!」と名前を呼ばれた。
「川崎先生、なんでここに‥‥‥」
「大学の先生になりましたー!四年間よろしくね!」
「帰ります」
「どうして?」
「ストーカー被害で警察行くんですよ‼︎」 「やめてよ‼︎ジュース奢るから‼︎」
「200円の一番高いエナジードリンク買ってこい‼︎」
「はーい!」
入学式で一人も友達が出来なかった俺にとっては、川崎先生の存在は有難いような‥‥‥めんどくさいような‥‥‥
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