溢れる愛と近づく寂しさ
12月に入り、桜橋先輩の協力もあって、美山との約束は順調に手続きが進んでいき、学園の近くに、寮を建てることが決定した。
「おめでとう!」
「一花先輩のおかげです!」
「土地は鈴穂が見つけてくれたしな!」
「まぁね」
「桃ちゃんもお金の面で頑張って計算してくれたしね!」
「はい!」
「それじゃ、私はもう生徒会室には来ないわ」
「なんでです?遊びに来てくださいよ」
「私が卒業した後は、貴方達だけでやって行かなきゃいけないのよ?少しは慣れておきなさい」
そう言って桜橋先輩は生徒会室を出て行き、俺達もその日は解散した。
そして25日、二学期が終わって冬休みに入り、今日は桜橋先輩とイルミネーションを見に来ている。
「さっむ」
「マフラー使う?」
「大丈夫です。桜橋先輩が使ってください」
「ダメよ?双葉くんが風邪を引いたら心配で寝れないわよ」
「すみません」
桜橋先輩の優しさで赤いマフラーを借りて首に巻くと、まだ桜橋先輩の体温が残っていて暖かい。
「とても綺麗ね」
「ただの光じゃないですか」
「夢がないわね。双葉くんと見るから綺麗に見えるのよ?ちゃんと顔を上げて見てみて」
「はいはい」
今まで、イルミネーションとか興味が無く、今日も桜橋先輩が見たいと言うから来ただけだった。なのに‥‥‥
「桜橋先輩と見ると、綺麗に見えます」
「ただの光じゃなかったの?」
「ただの光ですよ」
リア充にはただの光が綺麗に見えていたなんて、今日初めて知ったな。
「あっちに美味しいケーキ屋さんがあるらしいわよ!行きましょ!」
「イルミはもういいんかい‼︎」
こうやって振り回してくる桜橋先輩すら今は好きだと感じる。
「早く行きましょ!」
「今日はクリスマスなんで、ケーキ屋は混んでますよ!」
「ケーキ食べれないの?」
「多分無理です」
ケーキでそんな悲しい顔しないで⁉︎なにがなんでも食べさせたくなっちゃうじゃん‼︎
「俺の家来ます?」
「どうして?」
「クリスマスは毎年、親がケーキを買って来るんで、良かったら一緒に食べましょ!」
「行く!」
イルミネーションや、優しくふわふわと降る雪を眺めながら俺の家に向かい、家の前に着くと、なんだか見覚えのある黒い車が停まっていた。
「お父さん⁉︎」
「え⁉︎来てるんですか⁉︎」
「12月にもう一回帰ってくるとは言っていたけど」
一応付き合いは認めてもらってるし、前に言ってた挨拶しに来たのかな。
「とりあえず入りますか」
「お邪魔します」
そして玄関の扉を開けた瞬間、リビングから楽しそうに騒ぐ、俺と桜橋先輩の両親の声が聞こえてきた。
「あら!一花ちゃんいらっしゃい!」
「お邪魔します」
「やぁ双葉くん!お邪魔しているよ!」
「こんばんはです」
「一花ちゃんは相変わらず綺麗だね〜」
「そんなことありません」
テーブルにはお酒と刺身、四人とも顔が赤くて完全に出来上がっている。
「一花、デートは楽しかったかい?」
「う、うん」
状況が分からないけど、親同士が仲良くなるのは嬉しい。
それに、桜橋先輩の両親みたいなお金持ちが、こんな普通の家で楽しそうにしてくれていることも嬉しいな。
「ケーキがあるから部屋で二人で食べなさい!」
「ほーい」
冷蔵庫からケーキを取り出して桜橋先輩と俺の部屋にやってきた。
「なんだかいい雰囲気でしたね」
「そうね!みんな楽しそうだったわ!」
「安心しました」
テーブルにケーキを置いた時、携帯の通知音が鳴って確認すると、美山から桃と鈴穂と紬先輩とのクリスマスパーティーの様子が送られてきていた。
「見てください!あっちも楽しそうですよ!」
「本当!岡村さん、ケーキに夢中ね!」
「あの鈴穂がサンタコスしてますよ!」
「ん‼︎」
「ん?」
「谷間見てるんでしょ!」
「見てません!つ、紬先輩と美山も楽しそうですね」
「話し逸らした」
「俺は桜橋先輩の体しか興味ないです!」
「きょ、興味あるの?」
「そりゃ‥‥‥好きな人なんで」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
沈黙が続き、目が合ってそのままお互いに引き寄せられ、気持ちを確かめ合うように何度もキスを繰り返した。
「好き」
「俺もです」
抱きついたままベッドの方に移動し、桜橋先輩をベッドに倒してまたキスをした時、部屋の扉が開いた。
「一花?二人の写真撮らせてちょうだい!」
「‥‥‥こ、これは違うんです!」
マズイ‥‥‥桜橋先輩のお母さんに見られた‼︎‼︎‼︎
桜橋先輩のお母さんはパシャっと俺が桜橋先輩を押し倒しているところを写真に撮り、ニコッと笑う。
「ふふ♡」
機嫌良さそうに笑って扉を閉められ、俺と桜橋先輩は顔を赤くしてベッドから起き上がった。
「‥‥‥ケ、ケーキ食べますか」
「そ、そうね」
今、桜橋先輩のお母さんが来なかったら、絶対我慢出来なかった。桜橋先輩も完全に受け入れてたし。
「あ、あのね」
「なんですか?」
「双葉くんが、私とそういうことしたいと思ってくれてるって知れただけで嬉しかった」
「嫌じゃないなら良かったです。きょ、今日は一階に親も居ますし、やめておきましょう」
「また、自然にそうなった時は‥‥‥よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ」
恥ずかしさが残るこの狭い部屋で、一緒にショートケーキを食べ、そのあとは俺の小さい頃の写真を見たりしてクリスマスを楽しんだ。
「一花!そろそろ帰るぞ!」
一階から桜橋先輩のお父さんの声がして、桜橋先輩は立ち上がった。
「私もそろそろ帰るわ」
「あ、待ってください」
まだクリスマスプレゼントを渡してなかった。
「これ、クリスマスプレゼントです!」
「いいの?」
「はい!」
嬉しそうに小さな包み紙を開けて、リングのネックレスを取り出した。
「シンプルで素敵!」
「気づきません?」
「ん?あっ!」
俺が今日一日着けていたネックレスとお揃いだということに気づいた桜橋先輩は、ますます嬉しそうに自分の首にネックレスをつけ始めた。
「一生大切にするわ!」
「ちなみに、リングのところに俺達の名前が英語で彫られてるんです!」
「本当だ!」
「これからもよろしくお願いします!」
「こちらこそ!」
そして、桜橋先輩は両親と車の代行を呼んで帰って行った。
最近は、夜に一人になるたびに、桜橋先輩の卒業が近づいていることを実感してしまい、別れるわけじゃないのに心が締め付けられる。
会うことも‥‥‥少なくなるのかな。
その寂しさを埋めるように、三学期が始まっても、毎日のようにいろんな場所にデートに行き、二月になる頃には、気づけば新生徒会もやっとまともに仕事をこなせるようになっていた。
「双葉さん双葉さん」
「んー?」
「来月で先輩が卒業なので、なにかサプライズプレゼントとかしようと思うんですけど」
「んー‥‥‥俺はパス。桃の方で好きにしてくれ」
「寂しいのは分かりますけど」
「あんま卒業式のこと考えたくないんだ」 「分かりました。気が変わったら言ってください」
「ほーい」
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