罰と答え


桜橋先輩に手を引かれるまま、桜橋先輩の家にやってきた。


「うわー、なんか久しぶりですね」

「私の部屋に行きましょう」

「はい」


久しぶりに桜橋先輩の部屋に入ると、初めて話した時のように、部屋の壁にはビッシリと俺の盗撮写真が貼り付けてあった。


「また貼ったんですか⁉︎やめてくださいよ!」

「会えない日が続いた時は、こうすると満たされて安心するのよ♡それで双葉くん」

「は、はぃ‼︎」


急に目を見開いて振り向き、カツアゲするヤンキーみたいに顔を近づけてくる。

チビリそうなくらい怖い。


「美山さんとキスしたの?」

「し、しました。てか、されました」


怖ぃ〜‼︎


「むにー」 

「‥‥‥」


桜橋先輩の頬を掴んでタコみたいにしても、目を見開いたままで動じない‥‥‥でも怖くはなくなった。


「これで怖くないですね」

「はなひぃなしゃい」

「離しなさい?」

「うん」

「はい」


離すと怖いんですけど〜‥‥‥と、ビクビクしていると、桜橋先輩は一歩下がって普段の目つきに戻った。


「美山さんとは付き合ったフリなのよね?」

「そうですよ?」

「なら、付き合ってないけどキスをしたってこと?」

「はい」

「それなら、美山さんとの約束はまだ続いてるわ。どちらかがしたことは、自分もしていい‥‥‥」


そう言って、恥ずかしそうに目を閉じる桜橋先輩を目の前に、心臓の鼓動が早くなる。

告白するなら今か?


「‥‥‥そのまま目を閉じて聞いてくれます?」

「う、うん」

「す‥‥‥スーハー」

「し、深呼吸?」

「そんな感じです‥‥‥」


好きって一言が言えねぇ〜‼︎‼︎


「ご、ごめんなさい。まだ恥ずかしんで‥‥‥今日はこれで」


目を閉じる桜橋先輩を正面から抱きしめると、桜橋先輩も俺の背中に腕を回して静かに抱きしめ返してくれた。


「だいぶ待たせちゃいましたね」

「逃がさない」

「え?」

「ユクとユネ、そして美山さんとキスした罰」

「えぇ⁉︎今はキュンキュンするところですよ⁉︎罰とかっ‥‥‥」


抱きしめられたままあたふたしていたその時、桜橋先輩の方からキスされ、一瞬、時が止まったように感じた。


「これが罰」

「‥‥‥う、うっす」

「いろんな事があったわね」

「そうですね。結局、ちゃんと付き合う前にしちゃいましたね」

「罰だからしかたないわ」


抱き合ったまま会話を続けている今の状況が幸せで、なぜだか心の底から安心できる。


「もう、答えを聞かせてくれるのかしら」

「はい。俺は、桜橋先輩が好きです」

「‥‥‥」

「俺と付き合ってください」

「よろしくお願いします」

「‥‥‥い、一旦離れます?」

「嫌。しばらくこうしてて」

「分かりました」


それからしばらく抱きしめ合ってから桜橋先輩は俺を離した。


「なんか凄いわね!」

「なにがです?」

「この部屋から始まって、この部屋でまた新しい日常が始まる!写真もあの時と同じ!」

「写真は剥がせ!」

「やーだ♡」


はぁ〜!こうなると全てが可愛く見えてしまぅ〜!


「そうだ、美山に電話しなきゃ」

「どうして?」

「付き合ったフリって言っても、付き合ったままなので」

「私は浮気相手だったってことね」

「違いますからね⁉︎分かってますよね!」

「分からなーい♡」


絶対分かってやがる‼︎テンション上がっててかまちょになってるだけだわ‼︎

とにかく、桜橋先輩が枕に顔うずめながらバタ足してる今のうちに電話しよ。


「もしもし文月くん?」

「あぁ、もしもし?」

「どうしたの?」

「えっとー、桜橋先輩とー」

「なるほどね!」

「わ、分かったのか?」

「察した!文月くんは浮気者ってことだよね!」

「おい、勘弁してくれ。桜橋先輩にも同じこと言われたんだから」

「悔しいけど嬉しい!今日は桃ちゃんと傷の舐め合いしなきゃ!」

「な、なんかごめん」

「いいの!でもさ!私が初彼女で初キスの相手だから、一花先輩は私のお古と付き合うってことだね!」

「俺は物か!」

「携帯から声が漏れているのだけれど」

「やばっ!切るね!」

「ま、待て!今切られたら困る!」


なんで怒った桜橋先輩と二人きりにすんのー⁉︎


「しましょ!」

「はい?」

「付き合ってからって言ってたでしょ?私も双葉くんの初めてが欲しい!私の初めても欲しいわよね?」

「‥‥‥あっ!学校に戻らなきゃ!」

「ちょっと!約束が違うじゃない!」

「さいなら!」

「なら私も戻るー!」


この人、避妊とかそういう知識はあんのか⁉︎そりゃ高校生カップルなら大抵経験するだろうけど、桜橋先輩は不安がデカすぎる!勢いで押し切られて妊娠しましたとか笑えないからな!


「置いていかないで!」

「あ、すみません」

「手繋いで行きましょ!」

「いいですよ」


今日からこの人が俺の彼女かー、初めて話した日は絶対に仲良くなれないと思ったのに、人生分かんないな。


「授業中に教室に入るのって気まずいわよね」

「ですね。オカルト部の部室で時間潰します?」 

「それがいいわね!」


そして桜浜学園に戻ってきて部室の扉を開けると、俺達の目に衝撃的な光景が飛び込んできた。


「な‥‥‥なにしてんの⁉︎」

「そういう関係だったの?」

「‥‥‥」

「‥‥‥」


部室では、美山と桃が顔を真っ赤にしながらキスをしていた。しかも濃厚な‥‥‥


「ち、違うの!傷を癒すには女の子に目覚めればいいんじゃないかって話になって!」

「そ、そうです。ただそれだけで」

「でもお前ら、ベロ‥‥‥」

「美山さんが先に入れてきました」

「桃ちゃんも絡めてきたじゃん!」

「ディープキスをすれば心が癒されるのね!」

「違いますからね⁉︎」

「私達もしましょ!」

「うっ」

「あっ」


俺達の会話を聞いて、美山と桃は胸を押さえながら机に手をつき、俯いてしまった。


「二人の心エグッてどうするんですか!」

「ん?」

「ん?じゃないですよ」

「ま、まぁ?文月くんとの初キスは私だし?」

「いえ、ほっぺでしたが私が先です」

「うっ」


次は桜橋先輩の心がエグれた‥‥‥


「なんか楽しいことして明るい気分になろうぜ?」

「んじゃ4P」

「美山、一回殴ってオッケー?」

「ごめん」

「んじゃ美山さんは抜きにして3Pです」

「桃もオッケー?」

「ごめんなさい」

「双葉くんは今日から私の彼氏になったの!変なことしようとしないでちょうだい!」

「いいよね‥‥‥一花先輩はこれから、その変なことできるんだもんね‥‥‥」

「ですね‥‥‥」


なんだろ‥‥‥この部室に負のオーラが充満している‥‥‥


「さっきスルーされたばっかりよ。私のは双葉くん専用なのに」

「俺専用じゃなきゃ困りますけど、わざわざ言わなくていいんですよ」

「ちゃんと理解してるの?」

「してますから」

「それより双葉さん」

「ん?なんだ?」

「一花先輩のお父様にはなんて説明するんですか?」

「会ってみないと分からないな」

「私からもちゃんと話すから大丈夫よ」

「生きるか死ぬかなんで、本当にお願いしますね」

「任せなさい!」


それからというもの、桜橋先輩のお父さんがいつ現れるか怯えながら日々を過ごし、桜橋先輩とはカップルってことになったけど、特に今までと何か変わることもなかった。

ただ一つ困っていることは、桜橋先輩と付き合っているという噂が一気に広まり、いろんな女子生徒から話しかけられるようになったことだ。


「双葉さん双葉さん。最近人気ですね」

「疲れるだけだ」

「嫉妬した一花先輩の話を聞く身にもなってください。美山さんなんて毎日話聞いてるんですから」

「そう言われてもなー」

「一花先輩は11月が誕生日で、もうすぐなんですから、誕生日にしっかり機嫌とってくださいね」

「あ、本当だ。もうすぐじゃん」

「忘れたらまたうるさいですよ?」

「忘れない忘れない」


紬先輩に貰った貝殻、なんかいい感じにアクセサリーとかにできないかな。

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