ピュア萌えきゅん♡


桜橋先輩と最初にやって来たのは、紬先輩が入っている美術部の展示会だ。

風景をデッサンしたものや、オリジナルのキャラクターなど、自由なイラストが展示されている。


「紬先輩のはどれですかね」

「あの堂々と飾られているやつよ」

「あれですか⁉︎」

「そうよ?」


その絵はさほど大きくはないが、桜浜学園を描いたもので、レンガのザラザラ感まで全て完璧に描かれていた。


「コンテスト入賞作品って書いてますけど!」

「知らなかったの?伊角さんって意外と凄いのよ?」

「凄すぎますよ!」

「これが見たかっただけだから、次行きましょう!」

「俺、お腹空きました」

「それなら一年生の教室にいきましょ!」

「何屋さんですか?」

「松下さんが、メイド喫茶をやっているそうよ?」

「ほー、行くしかないですね」


あの気の強い鈴穂がメイド喫茶だと?これは直接行って、この目で見なければならない!


そして鈴穂の教室にやって来た。


「お帰りなさいませ!ご主人様!お嬢様!」

「は、はい」


はーい!可愛い〜‼︎‼︎‼︎メイド喫茶とか初めて来た‼︎鈴穂はどこだ⁉︎


「ほら!会長と副会長が来たんだから!」

「嫌だ!」


鈴穂は教室にセットされた調理台の裏に屈み、他の女子生徒に腕を引っ張られていた。


「鈴穂に接客してほしんだけど」

「鈴穂ちゃーん!指名だよ!」

「こんなのが私の使命だなんて間違ってる!」


なに言ってんだあいつ。


「双葉くん」

「えぇ‥‥‥なんで怒ってるんですか。来ようって言ったの桜橋先輩じゃないですか」

「指名するほど松下さんか好きだったなんてね」

「めんどくさい女になってますよ」

「もう違うとこ行きましょ」

「せっかく来たんだから食べて行きましょうよ」

「んー!」


桜橋先輩はプクーっと頬ん膨らませ、それを見た女子生徒達は、小動物でも見るかのように、目がハートになっている。


「鈴穂〜?早くしろー」

「うるさいな!分かったよ!」


おー!すげー似合ってる!表情のツンデレ感も堪らない!だけどここは無反応を貫くんだ。桜橋先輩が嫉妬でマジギレしたら困る。


「注文は?」

「すみませーん!このメイド、メイドっぽい接客しないんですけどー!」

「う、うるさい!」

「松下さん、ちゃんとしなさい」

「ご、ご注文はお決まりですか?」

「パンケーキお願いします!」

「私はこの、ピュア萌えドリンクを」

「か、会長、できれば違うので」

「私はこれがいいわ」

「か、かしこまりました〜‥‥‥」


そして最初に運ばれて来たのは、桜橋先輩が注文したピュア萌えドリンクだが、鈴穂は顔を真っ赤にして脚を震わせている。


「ピピッ」

「ピピ?」

「ピュアピュア萌えきゅん♡美味しくなーれ♡ピュア萌えきゅん♡」

「なにそれ」 

「‥‥‥」


桜橋先輩、容赦なさすぎ〜‼︎


結局鈴穂は、また調理台の裏でうずくまり、パンケーキは違う人が持って来てくれた。


「一緒に食べましょ?」

「いいの?」

「そのつもりで注文しましたから!それに無料ですし!」

「ありがとう!」

「どういたしまして!そういえば、ビンゴ大会の景品ってなんだったんですか?」

「ぬいぐるみから家電やブランド物の服やバックまで、いろいろよ。三年生が一人一つ景品を用意しているから、沢山の人に景品が渡るようになっているわ」

「さすが金持ち学園!」

「でも、当たるのが当たり前じゃつまらないからね、高額商品はダブルビンゴのみなの」

「この学園祭って絶対赤字ですよね」

「大赤字よ。でも、儲けるためにやっていないし、お客さんにもそれが伝わっているから毎年人が来てくれるのよ」

「なるほどー」


淡々と話してくれるけど、ずっと口元にクリーム付いてるの可愛い。


「この後はどうする?」

「なにかしたいことありますか?」

「もぐら叩きがしてみたいわ!」

「あー、隣のクラスの。行ってみますか!」

「うん!」


二人でパンケーキを食べ終え、立ち上がる前にナプキンで桜橋先輩の口を拭いてあげると、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「じゃあな萌え萌え!」

「変な名前で呼ぶな!」


鈴穂にも別れを告げて、もぐら叩きをしに来ると、手作りの段ボールの穴から、数名の男子生徒が顔を出したり引っ込めたりしていて、それをピコピコハンマーで叩くという、可哀想な作りになっていた。


「会長!もぐら叩きやっていきます?」

「しょうがないから、一回やってみようかしら」

「是非!」


やりたがってたのに、しょうがないからって‥‥‥


俺は桜橋先輩がもぐら叩きをするのを見学することにした。


「よーい!スタート!」

「うっ‼︎」

「いって‼︎」

「あっ‼︎」

「桜橋先輩⁉︎ちゃんとピコピコするところで叩いてあげて⁉︎」

「やってるわよ!」

「ぐっ‼︎」


桜橋先輩は命中力が低すぎて、ハンマーの上の部分、プラスチックの硬い部分で生徒の頭を本気の力で叩いている。


「た、只今20ポイントです!」

「げ、限界だー‼︎」

「もぐらが一匹逃げたのだけれど」

「‥‥‥景品獲得〜!」


可哀想だ‥‥‥可哀想すぎるよ‥‥‥


「こちら景品になります!」

「ありがとう。次、双葉くんがしてみて」

「お、俺はいいです‥‥‥」

「そう?」

「はい‥‥‥」


景品のくじ引き券を一枚だけ貰って教室出た。


「楽しかったわ!」

「全員青ざめてましたよ!」

「次行きましょう!」

「え、それは!」

「なに?」


桜橋先輩はみんなが見ている前で堂々と手を繋ぎ、かなりの注目を浴びてしまった。


「手なんて繋いだら噂になりますよ?」

「生徒会も今日で終わり。これからは、普通の女の子になりたいの!」

「‥‥‥分かりました!」


手を繋いで歩いていると、他の学校の生徒や女子生徒はキラキラした目で桜橋先輩を見つめるが、男子生徒は露骨に俺を睨んでくる。

桜橋先輩は人気があって、俺は人気がないのが丸分かりな状況にショックを受けつつも、外にあるクジを引きにやって来た。


「双葉くんが引いてみて!」

「俺がですか?」

「私、くじ運無いのよ」

「分かりました!任せてください!くじ一回お願いします!」

「はーい!どうぞ!」

「これだ!1番キタコレ!」

「BOXティッシュどうぞー」

「あ、はい。ありがとうございます」

「双葉くん」

「ごめんなさい」

「一箱で足りる?」

「なんかいろんな意味が込められてそうで嫌なんですけど」

「ふふっ♡」


それから、一緒に脱出ゲームを楽しみ、美山と桃に手を繋いでいるのを見られて気まずさを感じたり、クレープを半分交換したりして、なぜ付き合っていないのか不思議なぐらい学園祭デートを楽しんだ。


「なんだかとても幸せ!」

「よかったてです!」


沢山の食べ物を貰って、いったん生徒会室に戻ってきて、のんびりすることになった。


「ほとんど遊び尽くしたんじゃないですか?」

「そうね!三年間の中で、今回が一番充実した学園祭だわ!」

「エレナの件を含めても、俺もそうかもです!」


すると、たこ焼きを食べながら紬先輩が生徒会に戻ってきた。


「あれ?どうしたんですか?」

「やっぱり居ましたね!そろそろ学園祭も終盤ですから、生徒会最後の瞬間はみんなで居たいと思いまして!」

「そうね」


本当に終わりかー、なんだかんだ楽しかったなー。生徒会は終わっちゃうけど、卒業‥‥‥しないでほしいな。


「居た居た!」

「美山と桃も紬先輩と同じか?」

「ん?」

「最後はみんなと一緒にと思ったんです」

「やっぱりそうだよね!杏奈ちゃんと桃ちゃんも私と一緒!」

「それじゃ、みんな揃ったところで、私から感謝を込めたプレゼントを渡すわ」

「会長から⁉︎」

「伊角紬さん」

「は、はい!」

「性格の悪さが直ったみたいでよかっです。お疲れ様でした」

「え。あ、ありがとうございます」


紬先輩は花束と一枚の手紙を貰い、手紙を開いて数秒後、静かに涙を流した。


「岡村桃さん」

「はい」

「特に言うことはありません」

「あ、ありがとうございます」


桃も同じく、手紙を見て涙を流す。

なにが書いてあるのか気になる!

あとなにか言ってあげて⁉︎


「美山杏奈さん」

「はい!」

「貴方には一番感謝しています。これからも、ずっと」

「ありがとうございます‥‥‥」


美山は手紙を見る前から泣いてしまったが、手紙を見て更に涙が溢れはじめた。


「双葉文月くん」

「はい」

「沢山迷惑をかけてしまってごめんなさい」

「いえいえ」


みんなと同じく花束と手紙を貰い、さっそく手紙を広げると、小さな文字で『沢山の思い出をありがとう。後は卒業に向かって日々を過ごすだけになりました。私が卒業するまでは、双葉くんを好きでいさせてください』とだけ書かれていて、卒業後はどうなんだと、複雑で、不安な気持ちになってしまった。


「今年も、沢山のご来場ありがとうございました。只今を持ちまして、桜浜学園、学園祭を終了いたします。お忘れ物のないように、お気をつけてお帰りください」

「‥‥‥終わったわね」

「はーい!みんな笑ってー!」

「川崎先生?」

「ハイチーズ!」


寂しさに包まれる中で学園祭が終わり、川崎先生は最後の思い出に、生徒会室で集合写真を撮ってくれた。

そして、その日から五日間、美山が登校して来ることはなかった。


「桜橋先輩!」

「なにかしら?」

「美山が一週間近く登校してこないんですけど、なにか知りませんか?」

「ごめんなさい。私から言えることはないわ。ただ」

「ただ?」

「本当にバカよ。あの子は‥‥‥」

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