危険な出会い


「来たぞ!」

「北海道〜!」

「ど〜!」

「はいはい、騒がないの!さっそく熊を見に行くわよ!」

「はい!」


ついに修学旅行当時!桃は持ってきたデジタルカメラで、どうってことない風景や、地面まで撮りまくっている。


「あはは!桃ちゃんはしゃぎすぎ!」

「北海道の地面は、北海道にしかないのです!」

「ほーら!バスに乗るわよー!」

「はーい」


バスに乗り込み、さっそく熊に会いに来たはいいものの‥‥‥


「私、やっぱりいいです」


急に桃が行かないと言い始めた。


「どうしたんだよ」

「ロープウェイ、怖いです」

「全然大丈夫だよ!ここまで来たんだから行こ」

「‥‥‥」

「レッツゴー!」


美山と二人で桃の腕を引っ張って、無理矢理ロープウェイに乗り込んだ。


「桃ちゃん、乗ってみたら全然平気だったね」

「めっちゃ写真撮ってるしな」

「それより川崎先生は?」

「‥‥‥寝ててバスから降りてない‼︎」

「え⁉︎あのバスってどこに向かったの⁉︎」

「知らん」

「どうかしたんですか?」

「先生をバスに置いてきた」

「大人ですし大丈夫ですよ。三人で楽しみましょう」

「そうだな!」

「二人とも笑ってください」

「あ、あぁ」

「ハイ、チーズ」

「帰ったら写真ちょうだい!」 

「もちろんです」

「俺にも」 

「はい」


なんだかいい雰囲気でロープウェイからの眺めを満喫し、ついに熊とご対面だ。


「双葉さん双葉さん、手振ってます」

「本当だ!可愛いな!」

「文月くん!あの熊見て!爆睡してる!」

「やっぱり熊って可愛いよなー、あのフィギュアとは大違いだ」

「そんなこと言ったら、会長悲しむよ?」 

「本人には言わないからいいんだよ。にしても多いなー」

「ちょっと!桃ちゃんが走って行っちゃったよ!」

「まったく。ロープウェイに乗らないと帰れないし、そのうち合流できるだろ。それより美山」

「ん?」

「来れてよかったな!」

「うん!ハワイだったら行けなかったし、そのタイミングで中退してた!」

「ゾッとすること言うなよ‥‥‥」

「ごめんごめん!」


それから、遊んでいる熊や、喧嘩している熊など、色んな熊の仕草を見て周り、お土産屋さんにやってくると、桃が熊の顔型の可愛いリュックを背負って鏡を眺めていた。


「桃ちゃん、それ買ったの?」

「はい。いろいろ買ったので、このリュックの中に詰めました」

「似合ってんじゃん」

「‥‥‥文月くん?」

「あ、いや、美山の方が似合うんじゃないか?」

「だよね!」


こっわ〜!久しぶりに美山の威圧的な顔見たわ‼︎でもなんで⁉︎と思っていると、桃は地図を広げて、また一人でどこかへ行ってしまった。


「自由すぎるだろ」

「桃ちゃんらしくて可愛いじゃん!」

「熊の幽霊でも探してんのかね」

「でも、桃ちゃんが幽霊を好きになった理由って、ちょっと可哀想だよね」

「まぁな。だけど今は、純粋に好きなんだと思うぞ」

「だといいね!会長へのお土産でも見よ!」

「だな!なにが欲しいだろうな」

「ストラップはクラゲの付けてるしねー」

「あ、これは?」


手のひらサイズの熊のぬいぐるみを見つけて手に取った。


「可愛い!それじゃ、文月くんが普通の熊で、私は白熊あげようかな!」

「それいい!」

「また私のベッドにぬいぐるみが増えるのが問題だけど」

「2個ぐらい変わらないって。あと自分用に熊のボールペン買うわ」

「私も!お揃いにしていい?」

「い、いいぞ?」

「なんか嫌そうじゃない?」

「マジで嫌じゃない!なんかお揃いとか照れるだろ!」

「へへ♡可愛い♡」


どうして女子高生ってやつはこうも可愛いって言いたがる!カッコいいって言われるより恥ずかしいわ!カッコいいとか言われないけど!


「見て見て!熊の顔がプリントされたせんべい!」

「これ、袋から出したらただのせんべいだぞ。よくあるパターンだ」

「あぁ‥‥‥昔、マシュマロで経験したことある‥‥‥」

「な、なんか思い出させちゃったみたいでごめんな?」

「うん‥‥‥」


なんだかんだで買い物を済ませて桃を探していると、桃が熊に向かってなにかを投げているのを見つけて、慌てて駆け寄った。


「バカ!なにやってんだ!」

「熊の餌買いました。二人の分も買ってありますよ」

「なんだ、餌か」

「私だってルールぐらい守ります」

「だ、だよな」

「餌がクッキーなんですよ。可愛いです」


クッキーが入った袋を渡され、俺と美山も熊にクッキーをあげようとすると、熊は『くれくれ』と手を挙げてアピールをはじめた。


「どの子にあげるか悩む〜!」

「俺はアイツだ!」

「私はあの子!食べたー!可愛い〜!」


なにこれ!めっちゃ楽しいわ!


「‥‥‥」


俺と美山が楽しく餌やりをしている時、桃は表情一つ変えずに熊用のクッキーをバリボリと食べはじめ、それを見た俺は体と思考が固まった。


「なにやってんだ‥‥‥」 

「お腹空きました」

「‥‥‥」 

「あっ」


無言で桃からクッキーを奪って全て熊に投げると、豪快に桃のお腹が鳴り、結局3人でソフトクリームを食べながら休憩することになった。


「そろそろ次の場所に向かう時間だよな」

「うん!食べたら下に戻ろうか!」

「そうしましょ」


結局最後まで川崎先生は熊牧場にやって来なく、帰りのロープウェイに乗っている時、上がって行くロープウェイに乗る川崎先生と目が合って、お互いなんの反応もせずに、唖然としたまますれ違った。


「あ、川崎先生から電話だ。もしもし」

「私も熊見たかったのに‼︎」

「うるさっ!いいから戻ってください。次はいろいろ見学するんですよね?先生が居ないと入れない場所もあるんですよ」

「はぁ〜。すぐ戻るから勝手にバス乗らないように」

「はーい」


起こさなかった俺達も悪いけど、寝るのが一番悪い!まぁでも、先生も本当はハワイが良かったのかもしれないしな。優しくしよ。


それから川崎先生と合流して、北海道の名スポット巡りや、川崎先生だけが楽しんだお酒工場の見学をして、泊まる旅館にやってきた。


「3人同じ部屋だから、静かにするのよ?」

「はい⁉︎」

「静かに!」

「いやいやいや!女二人と同じ部屋⁉︎」

「その方が安いからって会長さんがね」


美山のことを思うと受け入れるしかないか‥‥‥


「わ、分かりました」

「ベッドは二つしかないから、じゃんけんで決めてねー!それじゃ先生は飲み歩いてきます!」

「それでも教師か!」

「バイバーイ!」


こんなに適当な教師だと思わなかったぜ‥‥‥


「こんなこともあろうかとね」

「ん?なんだ?」

「ゴム持ってきた」 

「なに持ってきてんだよ!あと出すな!」

「友達がお守りだから財布に入れときなって言うから。生がいい?」

「み、美山ってそういう経験あり?」

「ないに決まってるじゃん!」

「だよな。桃」 

「ないです」

「いや、そうじゃなくて、美山が変なことしないか見張れ」

「分かりました」

「変なことなんてしないよ!ただ、文月くんがそういう気分になれば変じゃなくなるから、どうなるか分からないけど!」

「‥‥‥部屋行ってさっさと寝るぞ。俺は最後まで起きてるからな」


先に寝たら絶対にやばい‼︎俺は桜橋先輩が好きだけど⁉︎美山は?って聞かれたらまだ感情がぐちゃぐちゃなんだ‼︎なにか間違いでも起きてみろ‥‥‥美山を選ぶ他なくなる‼︎


その不安も、部屋に入ってすぐに飛んでしまった。


「和風でいい感じだね!」 

「これはテンション上がるわ!」

「このまんじゅう食べていいですか?」 

「ダメだ」

「‥‥‥」

「そ、そんな悲しそうな顔するなよ。今日の夜ご飯は桃リクエストの海鮮祭りだぞ?」

「え!」

「なんか、めっちゃ高いコースらしい」

「そんな高いお金払った覚えないです」

「私もないよ?」

「さっき、桜橋先輩からメッセージが届いて、生徒会のお金からサプライズで出したって」

「さすが会長のおっぱいです!」

「おっぱいは関係ない」

「生徒会のお金なら遠慮しないで食べまくるぞー!」


美山は生徒会が使っていいお金に関しては嫌がらない。それを利用した、なにかいい方法があるかもしれないな。


「ただ、食べてる時の写真とか送れだってさ。楽しんでる三人を見たいって」

「それじゃ、三人の携帯で撮り合って各自送ろう!」

「了解!」

「了解です!」

「そんじゃ、夜ご飯までに温泉入っちゃおうぜ!」

「混浴!混浴!」

「ない」

「え」

「ない」


ショックを受ける美山を置いて、さっさと一人で温泉にやってきたが、露天風呂と大浴場で悩んでいるうちに、美山と桃に追いつかれてしまった。


「なにしてるの?」

「大浴場と露天風呂、どっちしようかと思ってな」

「露天風呂一択じゃない?」

「やっぱそうか?」

「私達は露天風呂に入りますよ」

「俺もそうするか」


結果、露天風呂を選んで正解だった。

修学旅行生が他にもいたのか、隣の女湯から若い女性のはしゃぐ声が聞こえてきて妄想が膨らむ!


「げっ」


やっぱり修学旅行生だ。どっかの学校の男子生徒がぞろぞろと入ってきて、気まずさのあまり、俺は最速で温泉を出て浴衣に着替え、コーヒー牛乳を飲んでマッサージ機に座った。


あー、生き返る〜。


「あぁ♡いい♡」

「えっ」

「君、どこの高校?」

「えっと、俺?」

「うん!君!」


気づけば隣のマッサージ機に、薄ピンクの浴衣を着た知らない女子高生が座っていた。


「千葉の桜浜学園です」

「え⁉︎嘘でしょ⁉︎あの有名な⁉︎」

「は、はい」

「すごいね!二年生?」

「そうです」

「んじゃ同い年だ!」

「そ、そうなんだ」


茶髪で軽く巻かれた髪、色白で、どこか親近感のある目をしている。可愛いし、ハーフかな‥‥‥それより浴衣が緩んでブラが見えそうに‥‥‥見えた!白!


そして俺は無言で立ち上がって部屋に戻ろうとした時、その女子高生に腕を掴まれて振り返った。


「もうちょっと話そうよ!」

「いや、俺は」 

「お願い!」

「‥‥‥少しだけなら」

「ありがとう!それじゃ座って!」

「お、おう」


マッサージ機ではなく、一緒に黒いソファーに座った。


「桜浜学園って会長が有名だよね!」

「まぁ、そうだな」

「知り合いだったりしないの?」

「一応副会長だから、知り合いっちゃ知り合いだな」

「ふーん」


え、なにその反応!興味ないなら聞かないで⁉︎


「君が双葉文月くんか」

「なんで知ってんの⁉︎」

「会長と話してみたいな!ちょっと電話してみてよ!」 

「携帯、部屋にあるから無理だな」

「んじゃ部屋に行こ!」

「はい⁉︎」

「ほら早く!」


なんなんだこいつ‥‥‥初対面で謎に名前知ってるし、図々しいな。


結局二人で部屋に来て、さっそく桜橋先輩に電話をかけた。


「ちょ、ちょっと近い」

「大丈夫大丈夫!ビデオ通話にして!」

「おう‥‥‥」


そして桜橋先輩は嬉しそうに、ニコニコしながら電話に出た。


「ビデオ通話だなんて珍しいわね!楽しんでるかしら!」

「あ、あのー」

「へー、一花ってそんな顔するんだ」


女子高生が喋った瞬間、桜橋先輩の目つきが氷のように冷たく変わった。


「その声はエレナね。何故貴方がそこにいるのかしら」

「たまたま旅館で会っちゃったんだ!」


なに⁉︎知り合いなの⁉︎


「双葉くんから離れなさい」

「一花ってー、こういう男がタイプなんだー。カプッ」

「ひっ!」


エレナという女子高生は、桜橋先輩に見せつけるように俺の耳を甘噛みしたあと、そのままなぞるようにゆっくり耳を舐めてニヤッと笑った。


「な、なに⁉︎」

「エレナ」

「なーに?私、双葉くんのこと気に入っちゃったから、このまま貰っちゃうね?」

「やめなさいエレナ‼︎」

「バイバーイ」

「双葉くん‼︎」


そのまま押し倒されて電話を切られ、勢いよく浴衣を引っ張られた。


「な、なんだよ!やめてくれ!」

「こんなところで出会えるなんてラッキーだよ」

「お前、なに者なんだ」

「私は桜橋グループの一人、一花の従姉妹だよ」

「た、確かに、目が似てるかも‥‥‥」

「私の他に一花の従姉妹はあと二人。私含めて三人に課せられた仕事があるの」

「な、なんだよ」

「それはね‥‥‥」


エレナは抱きつくように俺の耳に口を近づけ


「一花が貴方を好きな気持ちの消滅」


そう、小さな声で囁いた。

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