裸とご褒美♡
バーベキューも終わり、食べた後はゆっくりしたいのが普通なのに、女性陣は元気だ。
四人は食べてすぐにビーチバレーを始め、俺は一人で貝殻を集めている。
「持ち帰っても邪魔になるんだけど」
でも綺麗なものを見つけると持ち帰りたくなる。
「副会長」
「あれ?ビーチバレーやめたんですか?」 「杏奈ちゃんと会長がタイマンを始めたので。貝殻集めですか?」
「はい、紬先輩も一緒にどうですか?」
「そうですね!ご一緒します!」
二人で浜辺にしゃがみ、一緒に貝殻を拾っている時、紬先輩は小さく綺麗な貝殻を渡してきた。
「これ綺麗ですよ」
「ありがとうございます」
「貝殻って恋愛運が上がるんですよ!好きな人に渡してあげてください」
「てことは、紬先輩は俺のことが好きなんですか?」
「なに言ってるんですか?殴りますよ?」
「怖っ」
「副会長は誰が好きなんですか?」
「正直分からないです」
「まぁ、今は無理に答えを出さなくてもいいですけど、決断しなきゃいけない日はきます。私と会長は卒業しちゃいますし、それも踏まえると、あまり時間は無いですよ?」
「卒業までには決断しますよ。俺の中でも、もうあの二人以外はあり得ませんから!」
「いい笑顔ですね〜、桃ちゃんを泣かせた男とは思えませんよ」
「桃のことは、ちゃんと好きでしたよ」
「うがっ‼︎」
「え⁉︎」
紬先輩の後頭部に勢いよくバレーボールがぶつかり、振り向くと、恐ろしい目つきで紬先輩を見下ろす桜橋先輩が立っていた。
「双葉くんとなにをしているの?」
「話してただけです!いきなり酷いですよ!」
「双葉くん、本当?」
「ペチャパイで誘惑されました」
「副会長⁉︎どうして嘘つくんですか⁉︎あと、いい加減怒りますよ」
「紬先輩、今までありがとうございました」
「いや〜‼︎」
紬先輩は片足を掴まれ、熱い砂の上を引きずられて行った‥‥‥
「絶対に許しませんからねー‼︎呪ってやる〜‼︎」
その後、紬先輩は顔以外を砂に埋められ、オデコに日焼け止めで【ヘンタイ】と書かれて放置された。
それからも休憩しながら海で遊びまくり、夕日で空がオレンジ色に染まった頃、健康的な色に顔だけが日焼けした紬先輩が砂塗れで別荘に戻ってきた。
「副会長」
「は、はい」
「貴方に想像を絶する不幸が訪れますように」
「‥‥‥怖いんですけど」
「カレーできたわよ!あら、戻ってたのね」
「はい」
「鏡見てみなさい」
「鏡?分かりました」
紬先輩が洗面台に向かって数秒後‥‥‥
「かーいーちょ〜‼︎‼︎‼︎」
オデコに残った【ヘンタイ】という文字を見たのか、鬼の形相で桜橋先輩に掴みかかった。
「どうするんですか‼︎もう夏休み終わりますよ⁉︎」
「ぷっ」
「笑わないでください〜‼︎」
「いただきまーす」
桃と美山はマイペースだな。俺も食べよ!
紬先輩はイライラを静めるために、カレーを沢山おかわりして、一気に眠くなったのか、一人でさっさとシャワーを浴びて寝てしまった。
「わたしゅも疲れマシュマロ」
「桃?なに言ってんだ?」
「桃ちゃん、もう寝る?」
「ねまーしぇん!」
「なんかキャラおかしくなってるよ?」
「お風呂〜」
そういえば、桃と桜橋先輩を一緒にお風呂に入れさせる約束だったな。
なんとかしようとした時、桃は約束のことを忘れているのか、一人でお風呂に向かってしまった。
本人が忘れてるならほっておこう。
なんだかんだで、桃が一番はしゃいでたからな、疲れて眠くなるのも無理はない。
「二人は眠くないのか?」
「私は大丈夫よ」
「私も平気だよ!文月くんは?」
「俺も全然余裕」
「それじゃ、散歩でもしない?」
「そうね、食べすぎたから少し歩きたいわ」
「んじゃ行くか」
食器を洗って三人で外に出ると、月明かりと自動販売機、数えられる程度しかない電灯の灯だけで、波の音と虫の鳴き声が聞こえる。
「綺麗ね」
「ん?」
空を見上げると、そこには千葉では見ることができない満天の星が広がっていた。
「また来たいな」
「卒業しても呼んでくれるかしら」
「当たり前です!」
美山の『また来たいな』が『もう一緒に来れない』と言っているような気がした。お金も限界だって言ってたし。
「桜橋先輩」
「なにかしら」
「二年生の修学旅行って、どこに行くかもう決まってたりしないんですか?」
「貴方達もハワイよ」
「支払う額って‥‥‥」
「70万から80万ぐらいだったかしら」
「そんなに⁉︎」
「ホテルもいい場所に泊まるからね」
70万から80万と聞いた美山は何も言わないが、一瞬悲しそうな顔をした。
それを、桜橋先輩も見逃さなかった様子だ。
「二人とも、修学旅行はまだ先だけれど、しっかり楽しむのよ?」
「はい!」
それからも散歩を続けて、夜の自然を満喫して別荘に戻ると、桃は寝ないでテレビを見ていた。
「なんだ、寝てないのか」
「双葉さん、ちょっと」
「なんだ?」
桃に寝室に連れて行かれて、カチッと目の前で鍵を閉められ、不審に思った瞬間
「うっ‼︎」
そこそこの力で腹パンされた‥‥‥何故だ‥‥‥
「双葉さんは嘘つきです」
「なんのことだよ」
「ずっとお風呂に入ってても、まったく会長が来ないからのぼせました」
「え⁉︎てっきり忘れてると思って」
「私がお風呂に向かったのが合図だったんです」
「分かりづらいって」
「あのことバラされたくなかったら、会長の入浴シーンを盗撮してきてください」
「バカ!犯罪だぞ!」
「んじゃバラしてきます」
「待て待て!やるから!」
「あと、私とキスしたこともバラします」
「だからやるって!」
「キスして大きくなったって言います」
「それは嘘じゃん!」
「文月くーん?先にお風呂入るねー?」
「お、おう!」
「会長!一緒に入ろ!」
「そうね!」
廊下から二人の会話が聞こえてきて、美山もセットという緊急事態に脚が震えた。
「大丈夫です。タオルでも巻いて、携帯片手に堂々と入ってください」
「絶対無理」
「怒られたら、私が指示したって言います。怒られなかった場合を考えてください。双葉さんと私、ウィンウィンです」
「‥‥‥よし、やろう」
「さすがです!」
お風呂はチラッと見たけど、結構でかい。
二人が密着して体が見えないなんてことはないはずだ。双葉文月‼︎人生を賭けていざ参る‼︎
腰にタオルを巻いて携帯を構え、お風呂の扉の前に立った。
「お互いの裸見るの、完全に慣れましたね!」
「そうね!美山さんはお尻がプリプリで可愛いわ!」
「会長は綺麗すぎてずるいですよー」
「引き締める程度に、たまに筋トレするといいわよ?」
「それはめんどくさーい」
「まったくー、いつどんなタイミングで双葉くんに裸を見られるから分からないのよ?」
「そ、それはそうですけど」
いやなんで⁉︎見たりしないから‼︎いや?今から見るのか?もういい!開き直ってGO‼︎
「ど、どうもー‥‥‥」
いきなり現れた俺を見て、二人は顔を真っ赤にして固まった。
湯船は白い入浴剤が入っているのか、二人の体は見えない。
「どどっ、どうして文月くんが⁉︎」
「ふ‥‥‥二人の裸を撮らせてください‼︎」
「裸を⁉︎」
「わ、私はいいわよ?双葉くんの望みなら拒否しないわ」
「わっ、私だって‼︎ほら!好きなだけ撮って!」
「私も!してほしいポーズがあったら言ってちょうだい!」
二人は湯船から立ち上がり、俺は確かに見た気がする‥‥‥全てを‥‥‥
「んっ‥‥‥ん〜‥‥‥」
「起きた♡?」
「んっ⁉︎」
「シー。大きな声を出しちゃダメ」
俺は刺激的なものを見てしまったせいで気を失ったのか、寝室のベッドで目を覚ました。すると目の前には、ジャージを履いた桜橋先輩のお尻がある。
「ご褒美よ♡これで元気になるわよね?」
「んっ‥‥‥」
「み、見たいなら脱ぐけれど‥‥‥」
「ん‼︎」
力尽くでお尻をどかして起き上がると、桜橋先輩は恥ずかしいのか目を合わせてくれない。
「なにやってるんですか」
「私達の体を見て倒れちゃったから、早く元気になってほしくて‥‥‥」
「元気になりすぎてまた倒れるのでやめてください」
「嫌だった?」
「最高でした」
「‥‥‥へへ♡」
「でも次やったら、もういろいろと保証しませんから」
「保証?」
「なんでもないです」
「まぁいいわ」
「なっ⁉︎」
桜橋先輩に抱きつかれながらベッドに押し倒され、完全に抱き枕にされてしまった。
「一緒に寝ましょ?」
「美山にバレたら喧嘩になりますよ?」
「美山さんが、私に一緒に居てあげてってお願いしたのよ」
美山‥‥‥やっぱりそうなのか‥‥‥
「こんなタイミングで大事な話ししていいですか?」
「えっ、う、うん」
「あ、告白じゃないので身構えなくて大丈夫です」
「んー!ぶー!」
「うわっ!」
口を膨らませ、その勢いで強めに息と唾を吹きかけられたが、爽やかな匂いしかしなくて全然不快じゃない。
「子供みたいなことしないでください」
「だって」
「それより、美山は多分、修学旅行に行けません」
「金銭的に?」
「はい」
「双葉くんはハワイに行きたい?」
「俺はどこでもいいです」
「なら大丈夫ね。今年から国内旅行組と海外旅行組で分ける案を出してあるわ」
「てことは?」
「国内で一緒に行ってあげなさい」
「‥‥‥」
「ん?どうしたの?」
「好きです」
「えっ⁉︎えっと、あのっ」
「国内旅行の方が不安も少ないですし、俺、国内のほうが好きです」
「完全にからかったわよね」
「ははっ」
「笑い事じゃないわよ!このー!」
「く、苦しいです!」
む、胸で窒息する‥‥‥
それから、桜橋先輩に抱きつかれている状況にも慣れてしまい、俺達は同じベッドの中でたわいもない話題で盛り上がり、気づけば二人一緒に眠りにつき、俺が先に目を覚ました。
「おはようございます」
「うるさい」
「え」
「起きますよ」
「寝るの!」
「んじゃせめて離してくれません?」
「黙って」
朝が弱いのはいいけど、口悪くなってるよ。俺に言ってるって分かってるのかな。
「双葉さん双葉さん」
「桃⁉︎」
「ついにお付き合い始めたんですか?」
「違う違う!」
「んじゃ、付き合ってもないのに、ズボッ、ズチャ、ヌチャってしたんですね」
「してないわ。あと生々しい擬音やめろ」
「会長の寝顔‥‥‥可愛いですね」
「ま、まぁ、試しに起こそうとしてみてくれ」
「分かりました。会長、会長?」
「黙れ」
「怖い‥‥‥」
「こんな可愛い寝顔のまま暴言吐くとかヤバイよな」
「起きましたよ」
「か、可愛い?」
「はい、可愛いので離してください」
「嫌」
「桃、今すぐ揉んでいいぞ」
「は、はい!」
「いや!なによ!離しなさーい!」
ふー、助かった。
とりあえずリビングに行って、昨日の動画が撮れているか確認してみたが、レンズが曇って何も映っていなかった。
「副会長!おはようございます!」
「ぷっ」
「今笑いました?」
「笑ってません」
「どうやら会長はいないみたいですし、一言いいですか?」
「どうぞ?」
「後輩が調子に乗るなよ」
「は、はい‥‥‥ごめんなさい‥‥‥」
「なーんちゃって!半分だけ本気です!」
「半分本気かい!」
あー、心臓止まるかと思った。普段怖くない人が怒ると心臓に悪いんだよ。
「あ!杏奈ちゃんが釣りしてますよ!」
「へー、釣竿持ってきてたんですね。ちょっと行ってきます」
「はい!お気をつけて!」
大きな岩に座って釣りをする美山の元へ行き、自然に隣に座った。
「釣れてるか?」
「わしゃ、ここでマグロを釣るんじゃ」
「え、お前誰⁉︎」
「君、会長さんとヤッたのかい?」
「ヤッてないからな」
「そうかそうか。わしの裸はどうじゃった」
「ごめん、あまり覚えてないだよ」
「ほー」
「マジでどうしちゃったんだ⁉︎」
「へへっ!ごめんごめん!抱き合って眠ってるの見ちゃってね、ついに恋も終わりかーと思って!」
「あの状況は無理矢理やられたんだよ」
「そっか!あ!かかった!」
「お‼︎頑張れ‼︎」
「とりゃ!アジだー!会長に捌いてもらお!」
美山は相変わらず元気に笑う。必ず、かすかな切なさをまとって。
それからみんなで朝食を食べることになったが、桃の左頬には綺麗な手形が付いていて、ビンタされた衝撃からか、桃はボケーっとしながらご飯を食べている。
「食べ終わったら思い出に、海を背景にみんなで写真撮りません?」
「いいね!」
「撮りましょう!」
美山のことが心配でそればっかりだったが、桜橋先輩と紬先輩は、今年の学園祭が終わったら生徒会には戻ってこないんだ。
ちゃんと生徒会での思い出も残さなきゃな。
そして、綺麗な海をバックに、みんなが笑顔の、見るだけで笑みがこぼれてしまう素敵な写真を撮ることができ、夏休み明けから、その写真は生徒会室に飾られた。
友達と海とか初めての経験だったけど、また行きたいと思えるほどには楽しかった。
それに‥‥‥俺の気持ちも固まりつつある。
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