学園一の美女に返り咲き⁉︎


「双葉さん双葉さん」

「んー?あっ、なんですか?」


下駄箱前で、確かに桃に呼ばれた気がして振り向いたが、そこにいたのはクリクリお目目で襟足だけ長く、ちょっとカッコいい系の髪型をした可愛らしい女子生徒だった。


「‥‥‥」

「え、なに?」


その女子生徒は照れ臭そうに顔を逸らして何も言わない。


「約束守りました」

「ごめん、君となにか約束したっけ?」


そう聞くと、その女子生徒は走ってどこかへ行ってしまった。


同じ二年生だったけど、誰なんだろう。


「副会長!聞きましたか⁉︎」

「なに⁉︎」


考え込んでいる時、同じクラスの男子生徒に声をかけられ、普段話しかけられない分、普通に驚いてしまった。


「めちゃくちゃ話題になってますよ!この桜浜学園に、会長を超える美少女が現れたって!」

「え?桜橋先輩を超える⁉︎」

「まるで人形のように可愛いらしいです!俺、見てきますね!」

「お、おう」


心当たりがあるとすればさっきの生徒!

急に話しかけられて混乱してたけど、めちゃくちゃ可愛かったな。小さくて可愛くて、守ってあげたくなる感じだった。


それから自分の教室に向かうと、教室の前に人集りができていて、さっきの男子生徒に手招きされた。


「なにごと?」

「あの人ですよ!」

「あれ、桃の席だろ」

「桃がイメチェンで学園ナンバーワン美少女に返り咲きです!」

「‥‥‥えぇ〜⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」


あれが桃⁉︎別人じゃん‼︎髪切るとは言ってたけど、急にあんな可愛くなる⁉︎


桃は一気に学園の人気者になり、クラスの女子生徒にめちゃくちゃ話しかけられている。

でもやっぱり桃だ。話しかけられても表情は変わらないし、リアクションが薄い。


生まれ変わった桃に夢中になっている時、桜橋先輩からメッセージが届いた。


「げっ‥‥‥」


なんだか怒っているよな感じで『生徒会室に来て‼︎早く来て‼︎』とメッセージが送られてきて、返事をする間もなく『まだ?』『早く!』『遅い!』と連続でメッセージが届く。

返事するのがめんどくさくなり、返事をせずに生徒会室へ急ぐと、桜橋先輩はムッとした表情で貧乏ゆすりをしていた。


「遅い!」

「なんなんですか?」

「なんで私が一番じゃないの!」

「はい⁉︎」

「私が学園一の美少女でしょ⁉︎」

「自分で言います⁉︎学園一って言われてたの嬉しかったんですか?」

「だ、だって、双葉くんも学園一って思ってくれてるのかなと思って」

「思ってましたよ?」

「ました?」

「今は桃ですね」

「ん〜‼︎‼︎‼︎‼︎」

「あっぶねー‼︎‼︎」


桜橋先輩は怒ってマグカップを投げ、見事に扉にぶつかって割れてしまった。


「何やってんだよ‼︎」

「美山さん呼んで‼︎」

「おはようござっ、なにこれ‼︎」

「美山来ましたよ」

「私にメイクを教えて!」

「いやいやいや!メイク⁉︎それよりこの破片はなに⁉︎」

「桜橋先輩が怒ってマグカップ投げつけたんだよ」

「まったく!掃除するの紬先輩なんですからね!」

「美山じゃないのかよ」

「投げてごめんなさい‥‥‥」


家でもよく怒られてるのかな。美山に怒られる桜橋先輩、本当に子供みたいだ。


「てか、タイプは人それぞれ違うんで、誰が一番とかないですよ」

「それじゃ双葉くんは私が一番?」


美山の前でそれ聞く⁉︎


「えっとー、紬先輩が一番ですね」

「美山さん、伊角さんを呼んで」

「はーい」


ごめんなさい紬先輩。こうするしかなかったんだ!


美山が生徒会室を出るタイミングで自然と俺も出て、普通に教室に戻ると、まだ人集りができていて、桃は少し困った様子だった。

それもチャイムが鳴ると同時に解決したが、その日の昼休み、なぜか紬先輩が顔中カラフルな状態で俺の教室にやってきた。


「副会長〜」

「どうしました⁉︎」

「副会長のせいで酷い目にあいましたよ!」

「あぁ、大丈夫でした?」

「この顔を見て大丈夫だと思いますか⁉︎メイクの実験台にされたんですよ‼︎メイク道具がないからって、私の美術部の道具を使って‼︎」

「だからカラフルなんですね。虹みたいで素敵ですよ」

「だったらこの顔とキスできます⁉︎私は副会長となんてお断りですけどね‼︎」

「聞いてねーよ‼勝手に傷つけないでくれます⁉︎︎」

「でもよかった!みんな笑わないでいてくれてる!」

「よかったですね」


みんな笑い堪えるのに必死なだけだし、紬先輩が生徒会メンバーじゃなかったら、絶対バカにされてるよ。


「双葉先輩」

「鈴穂じゃん。どうした?」 

「うわっ、なにその顔!キモ!」

「鈴穂ちゃんなんて大っ嫌い!」 

「はー?」


紬先輩は鈴穂の一言で怒って立ち去ってしまった。


「で、どうかしたか?」

「会長が桃先輩と一緒に生徒会室来いだって」

「えー、めんどくさいな」

「メイク道具貸してって言われたから行ったら、結局私がメイクしてあげることになってさ」 

「上手くできたか?」

「あまり褒めたくないけど、とんでもなく可愛い」

「よし、行ってみるわ」


一人で教室を出ようとすると、グイッと制服の袖を引っ張られてしまった。


「桃先輩もだってば」

「だってあれ見ろよ!変わりすぎだろ。なんか緊張するわ」

「あー、私のクラスの男子達が、オカルト部入るとか騒いでたよ」

「へー、喜ぶか微妙だな」

「とにかく二人で行ってねー」

「りょうかーい」


あの鈴穂と普通に話せるようになるなんてな。なんか嬉しいな!

にしても声かけたくないなー、ずっと女子に囲まれてるしなー。と桃を見ていると、視線に気づいたのか目が合い、ここぞとばかりに無言で小さく手招きをして教室を出た。


「呼びました?」

「お、おう。会長が俺達を呼んでるらしい」

「会長が?」

「多分くだらない喧嘩売ってくると思うけど、気にするなよ」 

「はい」


声は桃なのに、桃と話してる感じがしねー!

桃と話すのに違和感を感じながらも、とにかく生徒会室に急いだ。


「生徒会室の前に立つと、毎回緊張します」

「リラックスしろ。入るぞ」

「はい」

「来ましたよー‥‥‥」

「綺麗‥‥‥」

「ど、どうかしら?」


メイク一つでここまで変わるのか‥‥‥目を合わせただけで、ドキドキが止まらない‼︎


「き、綺麗です」

「そ、そうなんだ」


メイクした自分を見られて恥ずかしいのか、なんだか会話が素っ気ない。


「岡村さん」

「はい」

「貴方は学園一なのかしら」

「いいえ、会長が一番です」 

「ほ、本当にそう思ってるのかしら?」

「思ってます」


なんだそのめんどくさい質問!でも、桃って会長を見てる時、こんなに目をキラキラさせて、嬉しそうな顔してたんだ。


「双葉くんは?誰が一番かしら」 

「桜橋先輩」 

「なによ、そのダルそうな言い方」

「朝も聞かれたので」

「な、なら、デートとか‥‥‥行きたくなる?」 

「行きたいです!」 

「岡村さんには聞いてないわよ」

「ごめんなさい」

「双葉くん、どうなの?」

「二人で遊びに行くだけですよね?前もって言ってくれれば、いつでも行きますけど」

「そ、そうなんだ。ふーん」 

「会長、嬉しそうですね」

「もう岡村さんに用はないわ。出なさい」

「はい。双葉さん双葉さん」

「ん?」


桃は桜橋先輩に背を向けて、限りなく小さな声で話しかけてきた。


「会長の胸揉ませてくれるって約束、いつですか?」


そうだった‥‥‥忘れてたわ。


「桜橋先輩とデートはいいですけど、条件があります」

「お金なら払うわよ」 

「なんかその関係汚い!嫌だわ!そうじゃなくて、桃が満足するまで、桜橋先輩の胸を触らせてあげてください」 

「む、胸⁉︎」

「いいですよね」

「デートしてくれるなら」 

「だってよ」

「じ、じゃ、双葉さんはご飯でも食べてきてください」

「はいよ」


くそ‼︎揉まれてるところ見たかった‼︎


それから俺は廊下で美山に捕まり、一緒に食堂にやってきた。


「会長見た?」

「見た」

「すっごい可愛かったよね!やっぱり学園一は会長だよね!」

「ん?うん」

「だよね!」

「美山」

「ん?」

「お前どうしちまったんだ⁉︎いつもならここで目を見開いて、なんかやべーこと言うだろ!」

「そう?」

「そうだよ!あとそのポテト一本くれ!」

「食べて食べて!」

「ありがとう」


美山の様子がおかしい。単純にあれか?美山も桜橋先輩のことを可愛いと思ってるから怒らなかったのか?


「そういえば、食堂来ると毎回うどんだよね」

「このワカメうどんが一番安いからな」

「食べたいの言ってくれたら買ってあげるのに!」

「お金無いんだろ?」

「‥‥‥」

「無理するな」

「うん‥‥‥」

「そうだ!次から大盛りのラーメンとか割り勘で買って一緒に食べようぜ!大盛り割り勘なら、一人で普通盛り頼むより安いし!」

「同じのを一緒に食べられるの⁉︎」

「は、箸だけ別の貰えば気にしないけど」

「んじゃそうする!後半はお互いに箸を交換するんでしょ?」

「しないわ!」

「えへへ♡」


笑えてるからまだ余裕はあるのか?少しでも節約できるように協力してやろう。


それからたわいもない会話をしながらご飯を食べ、美山とも別れて教室に戻ると、女子生徒が放心状態の桃の鼻に大量のティッシュを当てて慌てていた。


「ど、どうした?」

「副会長!桃ちゃんの鼻血が止まりません!」

「鼻血⁉︎ティッシュ詰めろ!」

「は、はい!」


桃は両穴にティッシュを詰めてもらい、いきなりスッと立ち上がって俺の手を引っ張って廊下に出た。


「大丈夫か?」

「すすすっ、凄かったです。薄ピンクで綺麗で」

「待て。まさか禁断の布の先を見たのか?」

「はい。生で触らせてくれました」


くそ‼︎羨ましい‼︎


「それに、双葉さんとデートしたかったら、その度に揉ませてくれるっていう契約を結びました」


はい‼︎羨ましい‼︎


「デートは次の日曜日だそうです。詳しいことは双葉さんに直接話すと言ってました」

「そうか」

「双葉さん」

「なんだ?」

「なにか欲しい情報があれば言ってください。次は舐めるのを条件に教えます」

「それはいきすぎだわ!」

「双葉さんはいつでも舐められるからいいじゃないですか」

「舐めたことありませんけど⁉︎」

「会長が私のをでもかまいません」

「バカか。お触りで我慢しろ」

「分かりました。会長といっぱいデートしてくださいね」

「出血多量で死にたいのかよ」

「私、髪を切ってよかったです」

「いや、会話が噛み合わねーな。でも、まぁ、前よりいいんじゃね?」

「ありがとうございます」

「お、おう。ちなみにさ、桃って恋愛対象が女だったりするか?」

「男です」

「はっ?」

「会長はただの憧れなので」

「そうなのか。本気で好きなのかと思ってた」

「それはないです。チャイムが鳴るので教室入りましょう」

「だな」


俺の周りには変な女しかいないのは何故なんだろうか。

それとあれだな、桜橋先輩とデートしたら、美山ともしなきゃな。


この三角関係にもだいぶ慣れてきた自分が怖い。

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