おしっこパーティー⁉︎


あれから五日間は時になにもなく、俺も鈴穂に会いに行く事はしなかった。

だが、五日後の今日、昼休みに美山と食堂にいる時、学園内のスピーカーからガサゴソとマイクに触れるような不快な音が流れた。


「なんだ?」

「機材トラブルかな」

「あっあー、これ聞こえてるのかな」


スピーカーから流れてきたのは鈴穂の声で、一気に嫌な予感が俺と美山を襲う。


「生徒会長の桜橋一花と、副会長の双葉文月は、学園内で不純な行為を繰り返している、学生らしからぬ関係です。それだけではなく、双葉文月は、女子生徒を使って私が胸を揉まれてるのを見て楽しみ、桜橋一花は、私の制服を脱がして、胸に悪戯しようとしました。そんなことをする人間が学園のトップでいいのでしょうか!全員で抗議しましょう!」


ついにやりやがった‼︎めっちゃ見られてるし、美山は怒りを隠しきれない様子だけど、その怒りは俺へは向けられていなそうだ。


「うっ」

「文月くん!大丈夫⁉︎」

「あぁ、トラウマがよぎっただけだ。作ってくれた人には申し訳ないけど、今日だけうどん残すわ」

「うん、無理しないで?」

「ありがとう。良かったら残り食べてくれ」

「うん!食べられるだけ食べる!」

「俺は鈴穂のとこに行ってくるから」

「分かった。鈴穂ちゃんは会長も巻き込んだから、会長も動くと思う」

「どうだかな。まず行ってみるわ」

「頑張って」

「おう」


走って放送に向かう途中


「あっ!ごめん!」

「痛いじゃない」


廊下の曲がり角で誰かにぶつかり、そのまま転ばせてしまった。


「なんだ、桜橋先輩じゃないですか」

「あら双葉くん。良かったわ、双葉くんじゃなければ反省文200枚書かせるところだった」

「いや、鬼畜」

「放送室に行くところ?」

「はい」 

「もういなかったわよ」

「マジっすか」


すると、近くにいた女子生徒が俺達を見ながら


「あの二人、そういう関係だったんだー」

「純粋な付き合いなら応援したいのにねー」


などと、コソコソと話をし始めた。


「貴方達」

「は、はい!」

「純粋なお付き合いってなにかしら。お付き合いをしたら体の関係を持つのは当然のことよ?」

「桜橋先輩‼︎本当にしてると思われますから‼︎」


桜橋先輩の制服を引っ張りながら、とにかく放送室までやってきた。


「私、おかしなこと言ったかしら」

「言ってましたよ!誤解されますよ?」

「されてもいいわよ!私が双葉くんとそういうことをしたと思われても、むしろ誇りよ!」

「んじゃ今すぐ脱いでください」

「こ、ここで⁉︎」

「はい」

「一度シャワーを浴びないと‥‥‥で、でも、今すぐなら双葉くんだけでも満足できるように頑張るわ!」

「冗談だよバカ‼︎」 

「私の心を弄んだわね!」 

「そんなことより、鈴穂はどうするんですか?」

「そんなことよりってなによ!私には大事なことよ⁉︎ほら、早く脱ぎなさい!」

「ちょっ⁉︎離せ‼︎」


桜橋先輩がムッとした表情で俺のベルトを外そうとしたその時、カメラのシャッター音が連続で放送室に響いた。


「あら、居たのね」

「居たの⁉︎」


積まれた段ボールの後ろから出てきたのは、携帯を持った鈴穂だった。


「決定的瞬間ゲット。二人とも、これで終わりだね」

「桜橋先輩のせいですよ‼︎」

「双葉くんが嘘つくからじゃない‼︎」

「はー⁉︎」

「ん〜‼︎」

「な、なんなの?仲悪いの?」

「鈴穂には関係ねぇー‼︎」

「あっ、もう許さない。写真ばら撒くから」

「勝手にしなさい」 

「え⁉︎ばら撒かれたらヤバいですよ‼︎」

「どうしてそんなに余裕なの?なにか考えがあるとか?」

「さぁ?」

「‥‥‥」

「‥‥‥」


なんだこの二人‥‥‥鈴穂の絶対負けないと言わんばかりの圧‥‥‥桜橋先輩の見下すようなクールな目つき‥‥‥俺が割り込んだら俺だけ怪我しそうなくらい怖い。

でも、この桜橋先輩ならなんとかしてくれそう‼︎


それからクールに立ち去って生徒会室に入った瞬間


「どーしよー‼︎」

「あぁ、やっぱそうなると思ってましたよ」

「どうするどうする⁉︎あんな写真ばら撒かれたら終わりよ‼︎」

「んじゃあの時、売られた喧嘩買わないで携帯取り上げれば良かったのに」

「なんであの時言ってくれなかったの⁉︎ねぇ、どうして⁉︎」

「もー、うるさいです!最悪よかったことが一つあります」

「なに⁉︎」

「俺は抵抗していたので、桜橋先輩が無理矢理俺のベルトを外そうとしているようにしか見えません。俺は被害者です」

「双葉くん」

「はい」

「貴方最低ね」

「いきなりのガチトーンやめて⁉︎」

「罰として美山さんを呼んできてちょうだい」

「美山?電話してみますね」

「お願い」


電話で美山を呼ぶと、近くにいたのか、美山はすぐにやってきた。


「どうしたの?」

「あぁでこうで!大変なのよ!」

「全然分かりません」


その後、桜橋先輩は放送室であった出来事を美山に説明し、美山はソファーに座ってどうすべきかを考え始めた。


「んー、ばら撒かれることを武器にできないかな」

「武器?」 

「確かに写真の内容はヤバいです。それと、後で私も文月くんのベルトを外します」

「え」

「だけど、写真をばら撒いたことを悪に変える方法があれば」

「ちょっと待って⁉︎話進んでるけど、ベルト外されたわけじゃないからな!」

「そうなの?ならオッケー!」


危ない危ない。美山の場合、勢いでパンツも脱がしてきそうだし。


「ばら撒いたことが悪ね。閃いたわ!双葉くんは明日、一人で学校に行かないで」

「なにするんですか?」

「私が迎えに行くわ」

「私も行っていいですか?」

「もちろん。一緒に行きましょ?」

「やった!」

「それと、今から放課後になって、全員が帰るまで生徒会室を出ないこと」

「今お昼ですよ⁉︎」

「従いなさい」

「は、はい」

「私は教室行かなきゃ」

「美山さんは大丈夫よ!知恵を貸してくれてありがとう」

「どういたしまして!」


それから三時間が経った‥‥‥


「あの、トイレに‥‥‥」

「それは大変ね。今ジュースを買ってくるわ」 

「漏らさせる気ですか⁉︎」

「ペットボトルが必要でしょ?」

「‥‥‥」 

「行ってくるわね」 

「ちょっと‥‥‥え‥‥‥」


桜橋先輩はペットボトルの水を買ってきて、生徒会室に置かれた花やサボテンにその水を与えてワクワクした表情で俺の目の前にしゃがんだ。


「ほら、脱いで!」 

「脱げるか!」

「ペットボトル持っててあげるから!」

「丸見えじゃないですか!それにしたところで処分に困ります‼︎」

「私がなんとかするから大丈夫よ!」

「絶対変なことする‼︎」

「ちゃんと口で証拠隠滅するから安心しなさい!」

「引くわ‥‥‥」

「失礼しまーす!お取り込み中?」


授業中のはずの川崎先生が生徒会室にやってきた。


「どうかしましたか?」

「双葉くんが教室に来ないから、お昼休みの件が原因かと思ったの。平気そう?」

「大丈夫です」

「川崎先生は、また双葉くんの担任なんですね」

「そうなの!少しでも前の生徒がいるとやり易くていいわ!それより、空のペットボトルなんて持ってどうしたの?」

「双葉くんを助けてあげようかと」

「トイレに行きたいだけですよ!」

「あっ、二人って本当にそういう関係?」

「はい」

「違いますからね⁉︎なんで嘘つくの⁉︎」

「仲良くて結構です!先生は止めなきゃいけない立場なんだけど、とは言っても、生徒だって愛やら欲はあるものね!でも、妊娠だけは卒業するまでしないようにしなさいね!」

「妊娠‥‥‥双葉くんの子供‥‥‥ほしい‥‥‥」

「はっ⁉︎」

「あっ!チャイムなっちゃった!休憩時間だし、今のうちにトイレ行っちゃいなさい!それじゃ先生は教室に戻りまーす!」

「‥‥‥限界なのでごめんなさい‼︎」

「待って」

「なんですか‼︎」

「ベルトらへんを押さえながら、苦しそうに行きなさい。戻って来る時もそうして」

「行きは嫌でもそうなります‼︎漏れそうなんですから‼︎」

「ならいいわ」


桜橋先輩に言われた通り、行きも帰りも苦しそうに廊下を歩いたが、これに何の意味があるんだ。


「ただいまでーす」 

「お帰りなさいませご主人様」

「なにその棒読み」

「帰ってきた時に、そう言えば喜ぶと書いてあったのよ」

「そうですかそうですか。桜橋先輩はトイレ行かなくて大丈夫ですか?」

「ペットボトルにしてほしいの?」 

「逆にできるんですか?」 

「私は双葉くんが望むことならなんだってやるわよ」

「んじゃ、この問題が解決したら、生徒会でお寿司パーティーしましょ?」

「おしっこパーティー⁉︎」

「そんな汚いパーティー嫌ですよ‼︎『お』しか合ってないし‼︎」

「てへぺろ♡」 

「その言葉も調べたんですか?古いんでやめたほうがいいですよ」 

「チョベリバー」

「もっと古いのきた‼︎」


そんなこんなで放課後まで桜橋先輩と話し続け、放課後はいつも通り三人の仕事を眺め、外が真っ暗になった頃に帰宅できた。


そして翌日、約束通り美山と桜橋先輩が家まで俺を迎えに来たはいいが、桜橋先輩は謎の機械と包帯を持っている。


「なんですか?それ」

「おへその下にこれを貼って」

「わ、分かりました」


ペタペタする4枚の少し分厚い、手のひらより少し小さいぐらいのシールのようなものをヘソの下に横一列に貼ると、美山が俺の制服を上げたまま押さえ、桜橋先輩が貼り付けた物の上から包帯を巻き始めた。


「なんか、大怪我した人みたいですね」

「その大怪我した人を演じてもらうわ!」

「貼ったのはなんですか?」

「後で分かるわよ」

「分かりましたー」


よく分かんないけど美山も協力的だし、ちゃんとした作戦だと信じて大人しくしておこう。


ちゃんとした作戦‥‥‥だよな?

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