ラブレターの不安


月日は経ち、冬休みに入ってクリスマスパーティーでもするのかと思ったがなにもなく、年が明けてもなにもなく、1月8日、寂しく三学期を迎えた。


「おはよー‥‥‥」

「うわっ!どうした美山!」


美山は目の下にクマを作り、げっそりして教室にやってきた。


「冬休み中、会長が泊まりにきてたんだけど、一緒に寝るとか言い始めて」

「いいじゃん」

「それはいいんだけど、夜中まで隣でパソコン使って仕事するから寝れないの!」


桜橋先輩、そんなに忙しいのかな。


「手伝ってやれば?」

「絶対手伝わせてくれないの。自分でやらなきゃ意味ないからって」

「生徒会の仕事か?」

「それとは別みたい」

「んー、とりあえず頑張れ」

「しかもパソコン閉じると、寒いとか言って私のパジャマに顔入れてくるし!本当子供!」

「可愛いじゃん」

「ん?」

「み、美山が」

「えっ♡」


あっぶねー‼︎‼︎‼︎


「とにかく、今日の放課後は生徒会のみんなで会議らしいから頑張ろうな」

「会議なんて珍しいね」

「桜橋先輩と先生の会議ならあったけど、俺達も一緒に会議は初めてだな」

「会議とか、なんかかっこいいよね!」

「めんどくさいだけだ」

「それじゃ、サボって遊び行く?」

「いやー、なんかめちゃくちゃ怒られそうだから参加する」

「確かに最近ピリピリしてるしねー」


仕事となれば、いつもスムーズにこなすイメージがある桜橋先輩も、限界が近づいてるのかもな。


そんなことを思いながら放課後まで授業を受け、美山と生徒会室に来ると、桜橋先輩と紬先輩はソファーに座りながら紅茶を嗜んでいた。


「お疲れ様でーす」

「会議って何時からですか?」

「今から始めるわよ。私達だけでの会議だから、二人も座りなさい」


美山と俺もソファーに座ると、桜橋先輩はノートパソコンを開いて会議を始めた。


「三月で三年生が卒業するけれど、卒業式になにかしたいこととかあるか聞きたいの。伊角さんはなにかある?」 

「私は美術部なので、美術部から絵をプレゼントする予定です」

「いいわね。美山さんは?」

「花をプレゼントするとかどうですか?」

「それは在校生代表が渡すことになってるわ」

「それじゃー、分かんないです」

「双葉くんは?」

「かなり大変ですけど、みんなに手紙を書くとかはどうです?俺は三年生に友達どころか知り合いもいないので無理ですけど」


俺がそう言うと、桜橋先輩は何故がホッとしたような表情をしてパソコンを閉じた。


「会議は終わり。今日は頼みたい仕事がないから帰ってもいいわよ」


すると美山はムッとした表情で桜橋先輩をジーッと見つめ始めた。


「なにかしら?」

「本当に仕事ないんですか?なにかあるなら頼ってくださいよ」

「どうして怒っているの?」

「だって毎晩毎晩隣でパソコンいじってうるさいんですもん!」

「言ってくれたらやめたわよ」

「言いましたよ!なのに会長、集中しすぎて聞いてなかったんです!協力できないなら、なんの作業かだけでも教えてくださいよ」

「三年生全員のプロフィールを作っているのよ。頑張っていることや夢を詳しく調べているの」

「なんでですか?」

「卒業式に、一人一人に手紙を渡そうと思うの。さっきの会議は、私がしていることが間違っていないか確認したかったのよ」


だからホッとした表情をしてたのか!


「桜橋先輩」

「なに?」

「いろんな形の愛がありますけど、それも愛だと思いますよ」

「ならやめるわ」

「なんで⁉︎」

「私が愛を与えて、愛を与えてほしい相手は一人だけだもの」


恥ずかしいこと言わないで⁉︎絶対俺のことだよね⁉︎


「手紙はいいんですよ!そんなに頑張ってるならやめないでください!」

「そうですよ会長!で、その一人は誰ですか?」

「い、伊角さんには関係ないわよ」

「気になります!」

「黙りなさい。次は全部ツルツルにするわよ」

「す、すみませんでした!」


多分、半分より全部の方がいいだろうな。

てかあれか、紬先輩が来てるってことは生えたのか。なるほど。


「とにかく、限界がきたら俺達を頼ってくださいね」

「ありがとう」

「あと、美山を寝かせてあげてください」

「今日からしばらくは泊まらないことにするわ」

「やったー!今日から熟睡できるー!」

「喜ばれると、なんだか腹が立つわね」

「私は毎晩立ってましたよ!」

「下ネタかしら。お下品ね」

「は?なに言ってるの?」

「なんでもないわ」


桜橋先輩は絶対に人に言える立場じゃないわ。あとやっぱり、エロと愛の区別つき始めてるわ。


その日は桜橋先輩だけ生徒会室に残って解散となり、夜になってゴロゴロしながら携帯をいじっていると、珍しく紬先輩から電話がかかってきた。


「はい、もしもし」 

「私見ちゃいました」

「はい?」

「一人で生徒会室の掃除をしていたんですが、会長の席の引き出しに‥‥‥」

「‥‥‥」

「大量のラブレターが入ってました‼︎」

「え、桜橋先輩宛のってことですか?」

「そうです!副会長は会長のこと好きなんですよね!」

「なんでそうなるんですか⁉︎」

「なんとなくそうなのかなって思って見てます!ライバル多すぎですよ!私が、会長と副会長が付き合えるように協力します!」

「めんどくさいことになるのでやめてください」

「会長が取られちゃいますよ?今日も愛を与えるのは一人だけとか言ってましたし!それに、普通興味のないラブレターなら捨てますよ!なのに引き出しに入れてるってことは‥‥‥」

「考えすぎですって」

「会長だって女の子です!押されてコロッと付き合っちゃうかもしれませんよ⁉︎しかもですね!」

「まだなにかあるんですか?」

「生徒会室に二人でいる時、高校生のうちに初体験を済ませたいって話になって!副会長が会長の初めての相手にふさわしいです!」

「勝手に決めないでくださいよ!」

「男性を満足させる方法とか調べてるんですよ?健気で可愛いじゃないですか!」

「いやいや‥‥‥」

「顔真っ赤にしながら調べて、やっと得た知識が、エッチな下着をつけることだけですよ⁉︎可愛すぎません⁉︎」

「へ、へー」

「その下着を他の男に見られていいんですか?」

「桜橋先輩も忙しくてそれどころじゃないですよ」

「忙しくても恋はできます」

「‥‥‥まぁでも、俺も会長が誰かに恋したら、嫌じゃないわけじゃない‥‥‥かもなので、なんでラブレターを引き出しにしまってるのか、こっそり探ってくれません?」

「ついに本音を言いましたね!」


紬先輩、絶対恋話とか大好きな人だ‥‥‥めんどくさい!


「桃が力になってくれると思うので、頼みますね」

「お任せあれ!それで、会長のどんなところが好きなんですか?」

「特になし」

「体ってことですか。最低ですね」

「そんなこと言ってませんよね⁉︎」

「冗談です!でも、これは副会長が思ってるより複雑な問題なんです!」

「複雑?」

「だって杏奈ちゃんは‥‥‥」

「切りますね」

「ちょっと待ってくださいよー!もっと恋話しましょうよー!」


これ以上話を広げたくなくて電話を切った。

紬先輩が言いたいことなら分かってるし、複雑で難しい状況なのは俺が一番分かってる!

それに、桜橋先輩がモテるって事実に嫉妬してしまって不安になりながらも、美山の顔がチラつく自分にも嫌気がさす。

紬先輩は少し口が軽そうだし、今度素直に、桃に相談してみるか。


そして、どうしても気になることがあり、美山に電話をかけてしまった。


「もしもーし!」

「なぁ美山、ちょっと気になることがあるんだけど」

「なに?なんでも聞いて!」

「美山って、その、ラブレター貰ったり、告白されたりするのか?」

「先輩からはわりと頻繁にされるかも」

「そ、そうなのか」

「でも一瞬で断るし、ラブレターも捨てる!私は文月くんしか興味ないから!」

「あ、ありがとう。ちなみに、美山がラブレターを捨てないで持っておこうと思う時ってどんな時だ?」

「ん〜。やっぱり好きな人から持ったものだったら一生大切にしたいとは思うよ!」


紬先輩は大量のラブレターが入ってたって言ってたよな⁉︎桜橋先輩は好きな人がたくさんいるってこと⁉︎それでもおかしくないか。

そもそも、俺に近づいた理由が拷問目的で、途中から愛を教えてとかアホ丸出しな理由だったし、やっぱり俺じゃなくてもよかったのかな。


「文月くーん?」

「あっ、ごめん。ボーっとしてた」

「大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。教えてくれてありがとう」

「うん!いつか文月くんからラブレターもらえるように頑張る!」

「ラブレターなんて書きませーん」

「え〜!」

「じゃあな〜」

「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き♡」

「なんだ⁉︎」

「切っちゃう前にいっぱい伝えたかったの♡」

「美山は一途っぽくていいな」

「え♡褒めてくれてるの?♡」

「あ、いや、じゃあな」

「好き」


最後の最後でまた『好き』と言われて電話を切り、少しドキドキしてしまった。


その後も、桜橋先輩にも電話しようか悩んだが、作業の邪魔にならないように電話をかけるのはやめて、女々しくも『ラブレター持っておく』や『ラブレター捨てない心理』などと検索しまくって時間が過ぎていった。

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