突き出したお尻♡


「今日もアロワナ元気ですねー」

「そうね」


12月に入り、登校して朝から生徒会室でゆっくりするのが日課になってきて、桜橋先輩と二人でアロワナを眺めている。


「そういえば、なにかペット飼うんですか?」

「どうして?」

「ペット飼いたいから会長になったんですよね」


あ、これ言っちゃダメだったんだっけ?


「飼いたいけれど、それだけが理由じゃないわ」

「んじゃなんで会長になったんです?」

「この学園には部員が一人とか二人の部活が多いのは知ってるでしょ?」

「はい、オカルト部とかマジック部とかアニメ部とか変わったの多いですよね」

「そう。普通なら部員が少ないと部活ではなく、同好会やそれも認められなかったりするのだけど、私はそれが許せなかったのよ。どうして自分の大切な居場所を奪われなくちゃいけないのか、私が会長になる前、当時の会長は次々に部活を廃部にしていってね、だから私が会長になって復活させたの」

「ヒーローじゃないですか」

「大人になったら、好きなことに一生懸命になれる時間は減るはず。だから今ぐらいは好きなことをできる環境が必要だと思うの。部活として認めれば、自分の好きなものが認められたっていう自信にも繋がるしね」

「んじゃ帰宅部作りたいです!」

「帰宅部?」

「最速で帰ることが部活内容なので、放課後も生徒会室には来ないで帰ります!」

「却下よ」

「俺も好きなことに一生懸命にさせて⁉︎認めてもらえる自信をくださいよ!」

「静かに」

「は?」


桜橋先輩が生徒会室の窓を開けると、外からバイクの音と、生徒の騒がしい声が聞こえてきた。


「冬なのに暴走族ですか?初雪まだですけど、いくらなんでも頑張りすぎですね」


すると桜橋先輩は学園内のスピーカーに接続されている電話を手に取り、冷静に喋りだした。


「先生方は、生徒が外にいないのを確認して、すべてのシャッターを下ろしてください」


次の瞬間、学園内に警報ベルが鳴り、桜橋先輩は窓とカーテンを閉めてパソコンを開き、なにがなんなのか状況が分からずに唖然としていると、紬先輩が生徒会室にやってきた。

生徒会室の扉が開くと、生徒達の怯えた声がうるさく、とんでもないことが起きているのが分かる。


「会長!」

「状況は?」

「すべてのシャッターが下りました!」

「生徒は全員学園内にいるの?」

「今、先生が各クラスで確認を取ってます!」

「分かったわ」

「あ、あの、なにがあったんですか?」

「ここはお金持ちの生徒が通ってることで有名で、それを狙う連中がいるのよ」

「大胆なカツアゲ⁉︎」

「そうかもしれないし、ただの暴力集団かもしれないわね」

「で、でも、誰か警察呼んだはずだから大丈夫ですよね?」

「警備員が追い返すか捕まえてくれればいいのだけれど」

「俺はどうしたらいいですか⁉︎」 

「副会長として、自分がしなければいけないことを考えなさい。私は教室に行くわ」

「私も戻ります!」

「それじゃ俺も!」


一人でいるより、みんなでいた方が安全だろ!


そして走って教室に戻る途中、二階の壁を背に、しゃがみ込む美山を見つけた。


「美山!」

「文月くん!不審者が入ってきた!」

「は⁉︎シャッターは⁉︎」

「ロックされてなかったみたい!みんな教室に集まってたけど、もう一階はパニックだよ!」


すると一階から大勢の一年生が上がってきて、そのまま三階へ逃げていった。


「文月!杏奈!屋上に避難するぞ!」


クラスメイトに声をかけられ、俺は美山の肩に触れた。


「立てるか?」

「脚が震えて無理‥‥‥」

「先に行くから早く上がってこいよ!」

「待ってくれ!犯人は何人だ?」

「二人だよ!ナイフ持ってるから気をつけろ!」

「ナイフ‥‥‥美山、背中に掴まれ」

「うん‥‥‥」


美山をおんぶして階段を上がろうとすると、一階から上がってくる、サングラスとマスクをした、ナイフを持った一人の犯人と目があってしまった。


「金を出せ!」

「きゃー‼︎‼︎‼︎」

「だ、出しますからナイフを置いてください!」

「それはできない‼︎力尽くで奪ってやる‼︎」

「俺、お金持ちじゃありませんからー‼︎」


屋上に上がるのを諦め、二階の廊下を逆に走った。


「文月くん‼︎来てる‼︎」 

「分かってるよ‼︎」


死にたくない死にたくない死にたくない‼︎

にしても変だ、桜橋先輩達は教室に戻るって言ったのに、二年生の教室には誰もいない‥‥‥


「このままこっちの階段から一階に降りるから、しっかり掴まってろ!」

「分かった!」


階段を駆け下りている時、バランスを崩して階段の踊り場で思いっきり転んでしまった。


「いってー‥‥‥美山、大丈夫か?」

「嫌‥‥‥助けて‥‥‥」


犯人はナイフを向けてゆっくり降りてきている。

俺だけなら逃げれるけど、美山も一緒には無理だ‥‥‥ん?なんかあのナイフ、違和感が‥‥‥


俺は靴を脱いで犯人の顔目掛けて投げつけ、犯人が怯んだ隙に美山の手を引っ張って階段を駆け下りた。


「このままどこかの教室に隠れよう」

「私達死んじゃうの?」

「美山は俺が守る。絶対大丈夫だ」

「‥‥‥」


そのまま1番近かった放送室に入って、テーブルの下に身を潜めた。


「多分入ったところは見られてないから大丈夫だ」

「さっきの文月くん、かっこよかった」

「え?」

「俺が守るって」

「あ、あぁ、そりゃ美山はこの学園で初めて声かけてくれた人だし」

「ますます好きになっちゃったよ」

「こんな時にそんなこと言うなよ」

「こんな時だからだよ?本当に死んじゃうかもしれないじゃん。そしたらもう、文月くんに好きって言えなくなっちゃう。でもどうせ死ぬなら‥‥‥」

「‥‥‥」


美山の顔がゆっくり近づいてくる‥‥‥きっとこのままだとキスしてしまう。

でも、嫌な気はしないな‥‥‥


「きゃ!」


このまま美山とキスしてしまうのかと思っていた時、勢いよく放送室の扉が開き、心臓が止まりかけた。


「双葉さん、美山さん、逃げましょう」

「焦った‥‥‥桃か」

「シャッターのロックがかかっていません。逃げれます」


桃は震える脚で俺達を探しにきてくれた。


「よし、三人で逃げよう」

「会長を見ませんでしたか?」

「見てないけど、桜橋先輩ならきっと上手く逃げるだろ」

「そう信じましょう。この学園の防犯シャッターは、1番下まで下がることで自動ロックがかかります。上がっているシャッターを見つければいいだけです」

「分かった」


それから三人で周りを警戒しながらロックのかかってないシャッターを探し回り、やっと見つけることができた。


「あまり音出すな」

「分かってます」

「にしても、窓も自動ロックかかるってどんなシステムなんだよ」

「今は考えるより逃げましょう」


静かにシャッターを開け、最初に桃と美山を外に出した。


「‥‥‥すぐ戻る」

「文月くん⁉︎」

「双葉さん‥‥‥」


俺はシャッターを下まで下げ、桜橋先輩を探しに走った。

あんなアホが上手く逃げれるわけない。桜橋先輩も助けなきゃ。

教室にいなかったってことは、また生徒会室に戻ってるかもしれない。


犯人がいないか確認しながら生徒会室に走り、生徒会室の扉をあけると、桜橋先輩は椅子に座ってパソコンを眺めていた。


「なにをしているの?」

「こっちの台詞ですよ!早く逃げましょう!」

「後ろに犯人がいるのに?」

「は⁉︎」


振り向いた瞬間、犯人にナイフでお腹を刺されたが、ナイフがグニャっと曲がり、思考が停止した。


「訓練終了です。体育館で待機していてください」

「了解です」


あえ?なんで桜橋先輩と犯人は普通に話してるんだ?訓練?


「皆さん体育館へ移動してください。不審者はもう居ません」


桜橋先輩が学園内に呼びかけると、至るところからシャッターが上がる音が聞こえた。


「どういうこと⁉︎」

「ただの訓練よ」

「はい⁉︎さっきの犯人は⁉︎」

「警察官!」

「‥‥‥桜橋先輩は知ってたんですか?」

「もちろんよ!知らないのは一年生だけ!」


この学園‥‥‥狂ってる‥‥‥


そして体育館に移動すると、涙目になっている美山がムッとした表情で近づいてきた。


「文月くん、死んじゃうかと思った」

「ごめんごめん」

「今回だけは許さない!」

「生きてたんだからいいじゃんか!」

「全員静かに」


桜橋先輩はステージに上がり、隣に犯人役をしていたであろう私服のおじさんが二人立っている。


「こちらに居るお二人は、犯人役をしてくれた警察官の方です」


桜橋先輩の言葉に一年生達はザワザワし始め、桜橋先輩は俺達一年生に冷たい視線を送った。


「静かにと言ったのが聞こえなかったかしら」


その一言だけて、一瞬で体育館は静まり返ってしまった。


「このことを知らなかったのは一年生だけです。それはなぜか。今年も残すところ一ヶ月になり、年が明ければ、あっという間に三年生は卒業し、貴方方一年生には後輩ができます。私達桜浜学園の生徒は、この制服を着ているだけで目立ち、お金を持っているだけで悪い人のターゲットにされることがあります。そして今回のようなことが起きた時、先輩は冷静に後輩を安全な場所に避難させなければいけません。屋上に逃げた人は手を挙げなさい」


一年生のほとんどが手を挙げた。


「屋上は逃げ場がありません。現に、犯人は屋上にやってきたでしょ?これが本当の事件なら、貴方達は今頃死んでいます。教室から動かなかった人は?」


30人ほどが少し怯えながら手を挙げた。


「生徒は教室にいるのが当たり前なので、犯人は教室にやってきます。外へ逃げた人、または外へ逃げようとした人は?」


俺と美山と桃、そして10人ほどが手を挙げた。


「下手に動くのは危険です。ではどうしたらいいのか、犯人が何を目的に学園へ侵入してきたかなんて分からないのが普通です。そんな中で怯えて騒げば、犯人を怒らせる危険があります。この桜浜学園は警報ベルと同時に警察へ通報が行くので、自ら通報する必要もありません」


結局どうしたらいいんだ?


「なので‥‥‥」


桜橋先輩は言葉に詰まり、それを察した警察官が耳打ちでなにかを伝えた。


あー、桜橋先輩、なにを言えばいいのか忘れてるわ。


「実際、この学園の警備は最高レベルで、犯人が入ってくることはまずありません。先輩は後輩を落ち着かせ、勝手な行動をしないようにすることに全力を尽くしてください」


んじゃさっきのはなんだったの⁉︎入ってこないパターンやらせてよ‼︎んで入ってきた場合は⁉︎


「それでももし、今回のように犯人が入ってきた場合は‥‥‥逃げましょう」


なに言ってんだあのアホ。


「それでは、警察官の方のお話です」


それから、警察による説明や、実際どうすればいいのか、アホ会長に代わって詳しく説明してくれた。


そして全ての話が終わり、俺と美山は怒りをあらわに生徒会室の扉を開けた。


「おいアホ‼︎」

「いきなりなによ!」

「なんですかあの説明!会長のアホさが丸出しでしたよ!」

「そんなことないわ!」

「しかも訓練って分からずに、俺達キスしそうになったんですよ⁉︎」

「ふ、文月くん!言わないでよ!」

「‥‥‥したの?」 

「してないです‼︎」


すると桜橋先輩は立ち上がり、俺の腰に手を回して、ゆっくり顔を近づけてきた。


「え‥‥‥」


桜橋先輩はそのままスレスレで止まって、少し俯いた。


「しそうになったって、こ、こういうことかしら」

「はい‥‥‥」

「早く離れよ?ね?文月くん?」

「はい!」


美山は苦笑いで今にもブチギレそうで怖い。


「会長?」

「なに?美山さんがしそうになったのだから、私がしそうになっても文句言えないわよ?」

「そうでしたねー。でも近すぎじゃありませんでした?」

「知らないわよ」

「私はもっと離れてました」 

「そっ。残念ね」

「ねぇねぇ文月くん、もう一回しよ?スレスレで我慢するから、ね?」

「いやいやいや!無理無理!」

「会長とはあんなにスレスレで、私とはしたくないの?そんなわけないよね。だって文月くんは会長なんて興味なくて、私しか見てないもんね?そうだよね?」

「待て待て!俺達は桜橋先輩に文句言いにきたんだよな⁉︎」

「そうだよ?なのに文月くんが会長とキスしそうになっちゃうから」

「それは桜橋先輩が勝手に!」

「文月くんってお尻の方が好きだったよね?」

「ん?」


美山はテーブルに手をつき、ギリギリ下着が見えない程度にお尻を突き出した。


「す、好きなだけ触って?」

「どうしてそうなった⁉︎」

「そ、それなら私もよ!」


絶景‼︎‼︎‼︎桜橋先輩に関してはピンクのパンツが丸見えなんですが‼︎


「会長、今回だけは先に触られた方だけが触ってもらえるっていうのどうですか?」

「いいわよ?」

「文月くん♡私は下着脱がされても抵抗しないよ?♡」

「なんだって⁉︎」

「私だって!ふっ、双葉くんにならなにされたって‥‥‥」


美山の対抗心がこんな状況を生むなんて‥‥‥俺には選べない‥‥‥どっちも触りたい‼︎


「ふ、副会長‥‥‥」

「紬先輩⁉︎」

「会長と杏奈ちゃんになにを‥‥‥」

「誤解なんです‼︎」

「まだ警察の方がいたはずです!自首してください!」

「そんな!俺はただ、二人の尻を眺めていただけなんです!」

「変態‼︎最低‼︎」

「紬先輩?文月くんは最低なんかじゃないですよ?」

「そうよ。今の言葉取り消しなさい」

「え、えっ」


何故か二人は怒り出し、紬先輩とジワジワと距離を縮めた。


「取り消さないみたいね。美山さん、私、双葉くんを貶されるのは許せないの」

「私もです」 

「あ、あの‥‥‥」

「少しお仕置きが必要ね」 

「ですね」

「や、やめて!いや〜!」


二人は俺がいるのを気にせずに紬先輩のストッキングと白いパンツを脱がせ、スカートをめくり、俺は見ないように三人に背を向けた。


「見ないでくださーい‼︎」

「ツルツルにしてしまいましょう」

「いいですね」

「二人とも最低‼︎へんたーい‼︎」


この状況に耐えきれずに生徒会室を飛び出すと、そこには桃が立っていた。


「おっ、桃。今は入らない方がいいぞ」

「双葉さん、死ななくてよかったです」

「そりゃ訓練だったみたいだしな」

「ネットから居なくなって悲しかったんですよ?また目の前から消えちゃうかと思いました」

「あぁ‥‥‥そうか。あまり昔の話はしないでほしいかも」

「ごめんなさい。中ではなにしてるんですか?」

「えーっと、紬先輩を子供に戻す作業?儀式?が行われてる」

「魔法ですか?見たいです」

「やめておけ!心を壊されるぞ」


その時、紬先輩が涙ぐみながら生徒会室を出てきた。


「だ、大丈夫でした?」

「私、半分だけ子供にされちゃった」

「半分だけ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

「言わないでー‼︎‼︎‼︎」


紬先輩はとばっちりでトラウマを植え付けられ、桃は走り去る紬先輩の後ろ姿をジーッと見つめている。


「なぁ桃」

「なんですか?」

「この学園ってさ」

「はい」

「やっぱり狂ってるよな」

「多少は同意します」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る