激しい夜だった♡
突然現れた男性は、桜橋先輩のお父さんらしい。
「こんなに美人に成長して、誕生日を祝ってくれる素敵な友達もできたんだね」
「どうしてここに?」
「この前、君達の元へスーツ姿の男が現れただろう。その人が一花はここにいると教えてくれたんだ」
すると、商品棚の裏から、その男性がペコペコしながら現れた。
「私をロサンゼルスに連れて行く気?」
「なにを言ってるんだ。一花は生徒会長としての仕事を選んだと聞いたぞ?だから私の方から来たんだ」
「お父さんは私を置いて行く時、一瞬も悲しい顔をしなかった。私なんかどうでもいいのでしょ?」
「そんなふうに思ってたのか⁉︎父親が悲しい顔とかカッコ悪いじゃん!たくましい方がいいに決まってるじゃん⁉︎パパは一花が1番大好きだぞ⁉︎」
な、なんだ?急にキャラが‥‥‥
「あらあら、いつも私が1番だって言ってくれるのに、とんだ浮気者ですね」
「お母さん‥‥‥」
お母さん⁉︎お父さんはイケイケ!お母さんは桜橋先輩に似た黒髪美人!そりゃ桜橋先輩みたいな美少女が生まれてくるわけだ‼︎にしてもオーラがヤバイ‥‥‥それに小学生ぶりでも分かるもんなんだな。
「お、お前が1番だよ」
桜橋先輩のお父さん、完全に尻に敷かれてる感じなのだろうか。
「一花、長い間一人にしてごめんね?」
「別に問題ないわ」
「強くなったわね」
「それよりだ。君、一花と手を繋いでいたように見えたけど、海と山、どっちが好きだい?」
「死に場所は選ばせてやる的な質問ですか⁉︎」
「ふ、文月くんは悪くないです!」
「んー、とにかく注目されてしまっているね。一度出ようか」
桜橋先輩のお父さんの言う通りにして水族館を出ると、外にはスーツを着たイカツイ大人達が一定の距離を開けて散らばっていた。
日本でガードマン‥‥‥
「車に乗ろう」
「リムジン‥‥‥」
「リムジンは初めてかい?」
「み、見るのも初めてです!」
全員でリムジンに乗り込むと、桜橋先輩のお父さんは一言『出せ』と指示を出し、車内に緊張が走った。
「どこへ行くの?」
「我が家に決まってるじゃないか」
「あの家には何年も帰ってないし、埃がすごいんじゃないかしら」
「ちゃんと掃除してもらっていたさ!私達家族の、大切な家だからね」
「‥‥‥」
あの一軒家じゃないのかな。
にしても、ソワソワしてるの俺だけじゃね⁉︎みんなリムジン乗ったことあるの⁉︎
しばらくリムジンに乗って移動していると、城としか言いようのない城、いや、家の前にリムジンが止まった。
「降りたまえ」
「はい」
リムジンを降りると、スーツを着た優しそうな男性が頭を下げながら家の前に立っていた。
「一花お嬢様、お久しぶりです」
「
「一花が会いたいと思って呼んでおいたのよ」
「嬉しいわ!」
ん〜⁉︎桜橋先輩が男と会って喜んでる〜⁉︎この人は何者だ⁉︎
「可愛らしかった一花お嬢様が、ますますお美しくなられていたとわ」
「そんなことないわよ」
「これからみんなで、一花の誕生日を祝おうじゃないか!」
「お父さん?そのために日本へ?」
「当たり前さ!」
「それじゃ、高嶺さんも行きましょう!」
「はい!」
ん〜‼︎‼︎‼︎なんだこの気持ち‼︎なんかムカムカする‼︎
桜橋先輩のお父さんに背中を軽く押され、モヤモヤする気持ちの中で豪邸に足を踏み入れた。
「さぁさぁ、もう準備はできているよ!」
そのままパーティー会場に案内され、パーティー会場にはどう考えても食べきれない量の食事が用意されていた。
「なぁなぁ美山」
「ん?」
「美山の家もこんな感じ?」
「これの半分くらいだよ?」
「桃の家は?」
「半分の半分ぐらいです」
「紬先輩もですか?」
「はい」
俺が足を踏み入れていい場所じゃない‥‥‥帰ろう!
「す、すみません。用事があるので帰りたいんですが」
「君には帰ってもらっちゃ困るね」
ますます帰りたいよ!殺されるー!
「高嶺さん!家族は元気ですか?」
「はい!毎日仲良くやってますよ!」
高嶺さんとやらと仲良く話す桜橋先輩を見て、思わず桃の肩を押して二人でしゃがみ、小さな声で聞いてみることにした。
「あの二人、どういう関係だよ」
「知りません」
「情報屋だろ⁉︎」
「オカルト部です。でも、会長が私達の前で笑顔になるのは珍しいです。かなり仲がいいんですかね」
「‥‥‥」
そして桜橋先輩の誕生日パーティーが始まり、桜橋先輩は両親との再会にも関わらず、高嶺さんとばかり話している。
「君達も遠慮しないで食べたまえ!」
「ありがとうございます!」
「いただきます」
美山、紬先輩、桃の三人は、この豪華な雰囲気に飲まれずに、普通に楽しみ始めた。
「君はこっちに来たまえ」
「は、はい」
桜橋先輩のお父さんにパーティー会場を出され、長い廊下の真ん中で立ち止まった。
「さてさて、君は‥‥‥一花とどういう関係なんだ〜‼︎」
「ただの後輩であります‼︎」
「おー⁉︎ただの後輩が手を繋ぐのか〜⁉︎」
「い、いきなり繋がれました!」
「それじゃなにか⁉︎一花が君に恋してると⁉︎」
胸を人差し指でグリグリされながら威圧的に聞かれ、なにも言えなくなっていると、桜橋先輩のお母さんがやってきた。
「あまり一花の恋人をいじめちゃダメですよ?」
「恋人だー⁉︎」
「違います‼︎本当に違います‼︎お母さん!助けてください!」
すると、桜橋先輩のお母さんは桜橋先輩がたまに見せる、相手を見下すような目で俺を見つめた。
「貴方にお母さんと呼ばれる筋合いは無いわね」
「す、すみません‥‥‥」
「なーんちゃって!てへ♡」
「え、可愛い‥‥‥」
「おい貴様‼︎私の嫁に可愛いだと⁉︎なーに当たり前のこと言ってんだ‼︎」
「ごめんなさーい‼︎‼︎‼︎」
「一花はな!この私と嫁が夜な夜な汗を流してできた一人娘なんだぞ‼︎」
「生々しんですけど〜⁉︎」
「あの日の夜は激しかったわね♡」
「聞きたくないです‼︎」
「一花とはしたの?」
「してないです!本当にただの後輩なので!」
「ですって」
「ならいいんだ。誤解して悪かったな」
「いえいえ」
「君から見て一花はどんな子だい?」
「‥‥‥」
「正直に言いたまえ」
「最初はめちゃくちゃ怖くて、厳しい人だと思ったんですけど、話してみたら優しいし、ちょっと‥‥‥」
「ちょっと?」
「子供っぽくて、ちょっとアホでした」
「あはははは!お前に似たんだな!」
「私がアホって言いたいの⁉︎酷いわ!もう知らないもんね!」
リアクションまでそっくりだわ‼︎
「悪かった悪かった。とにかく、君もパーティー会場に戻って楽しみたまえ」
「あ、ありがとうございます」
なんとか死なずに済んだっぽい!
足早にパーティー会場に戻ると、美山に笑顔で手招きされ、美山は俺の分の料理を皿に盛り付けていてくれた。
「はい!文月くんも食べな?」
「ありがとう!桜橋先輩はずっと高嶺さんと話してるのか?」
「うん!」
「そ、そうか」
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
「そっか!それにしてもよかったね!お昼ご飯が豪華になったよ!」
「緊張して、美山が盛り付けてくれなかったら食べずに帰ってたかも」
「そうなの⁉︎なんでも言って!私取ってくるから!」
「ありがとうな」
「うん!」
チラチラ桜橋先輩の様子を伺いながら食事をしていると、トイレに向かったのか、桜橋先輩は一人でパーティー会場を出て行った。
「ちょっとトイレ行って来るわ」
「分かった!またなにか盛り付けておくね!」
「おう」
廊下に出て、しばらく桜橋先輩を探していると、ハンカチで手を拭きながら歩く桜橋先輩を見つけた。
「あら双葉くん、どうしたの?」
「いやっ、えっとー」
「ん?」
「高嶺さん?と‥‥‥どんな関係なんですか?」
「一緒に暮らしていた人よ?」
なん‥‥‥だと‥‥‥
「前に話したでしょ?一人暮らしをする前、私の世話をしてくれていた人がいたって」
「あっ!なんだ!その人ですか!」
わーい!パーティー会場戻っていっぱい食べよー!
「待って双葉くん」
「はい?」
「もしかして嫉妬してくれたの?」
「べべべ別に⁉︎」
「ねぇねぇ!嫉妬?嫉妬なの?」
「喜ばないでくださいよ!そういうのじゃないですから!」
「へへっ♡なんだか嬉しいわ!」
「桜橋先輩だって、俺と美山を見て嫉妬するじゃないですか!」
「し、してないわよ!」
「へー!そうですか!美山にあーんしてもらってきます!」
なにか言い返してくるかと思ったが、何も言ってこないことを不思議に思って振り返ると、顔を真っ赤にしながら頬を膨らませて俺を睨んでいた。
「冗談ですよ‥‥‥」
「ふん!別にしたら?そしたら、私もあーんしてあげられるし!」
「したいんですか〜?‥‥‥無言で睨まないでください」
「双葉くんが私をおちょくるからよ」
「ごめんなさい」
「いいわよ」
「にしても、お父さんお母さんとは話さないんですか?」
「‥‥‥二人に悪意がなかったことは分かるのだけれど、久しぶりすぎて照れくさいのよ」
あ、桜橋先輩の後ろから桜橋先輩のお母さんがこっちを見てる。
「でも二人のこと好きなんですよね?」
「んー、恥ずかしくてよく分からないわ」
「恥ずかしがらなくていいのよ♡」
「お母さん⁉︎」
桜橋先輩のお母さんは、桜橋先輩の頭を胸に抱き寄せた。
「私はずーっと一花が大好きよ?」
「わ、分かったから離してくれる?」
「だーめ!一花おっぱい好きでしょ?ずーっとちゅぱちゅぱしてたんだから」
「い、いつの話をしてるの⁉︎双葉くんの前でやめて!」
「やっぱりこの子が好きなのねー?♡」
「そ、そんなんじゃ!」
「お父さんには言わないから正直に言ってごらん?今好きじゃないなんて言ったら、双葉くんは信じちゃうわよー?」
誘導尋問!別に信じないよ⁉︎顔真っ赤な時点で分かってるから!
「す、好き‥‥‥かも」
「ダメよー?ちゃんと言わないとー」
「す、好きだから離して!」
「お母さんのことはー?」
「好きだから!」
「よく言えましたー!ちゅぱちゅぱする?」
「しないわよ!」
「お父さんはするわよ?」
マジで聞きたくね〜‼︎‼︎こんな美人なお母さんなのに、桜橋先輩と同じで残念だよ‼︎
「‥‥‥それは、やっぱり愛し合ってるから?」
「そうよ?いつか双葉くんにもしてもらいなさいね♡」
「う、うん」
なーーーー‼︎‼︎‼︎
「メロン食べてきます!」
「一花のメロン?」
「違います‼︎」
あの親にして桜橋先輩あり‼
︎親に捨てられたと思い込んで、愛がなんなのか分からない環境で育ったから、あんなんだと思ってたけど、多分お母さんと暮らしてても性と愛を結びつけていたに違いない‼︎絶対そうだ‼︎
逃げるようにパーティー会場に戻り、美山が盛り付けてくれたものを食べていると桜橋先輩も戻ってきて、高嶺さんではなく、俺達に混ざって食事を始めた。
それからみんな楽しく食事をし、パーティーが終わると、俺達の元へ桜橋先輩の両親が戻ってきた。
「一花、どうしても一緒にロスには行かないか?」
「はい」
「そうか、私達は一花を捨てたんじゃない。それだけは分かってくれ」
「分かってるわ。今日は久しぶりに会えて嬉しかった」
桜橋先輩はやっぱり照れ臭いのか、二人と目を合わせようとしない。
「また仕事が落ち着いたら帰ってくる。桜浜学園の生徒会長として、桜橋グループの名に恥じぬ仕事をしなさい」
「はい」
「私達は一花を愛しているぞ」
桜橋先輩は驚いたように二人を見て、微かに笑みを浮かべて頷いた。
「よし!私達はもう戻らなければいけない!これからはこまめに電話するからな!」
「一花!ちゅぱちゅぱしてもらうのよー!」
別れのセリフそれでいいの⁉︎本当にいいの⁉︎もう帰っちゃったけど!
「一花お嬢様」
「はい」
高嶺さんが桜橋先輩に声をかけ、一枚の写真を見せてくれた。
「これが私の家族です。私に家族ができてから一花お嬢様は一人暮らしを始めて、大変なこともあったでしょうが、一花お嬢様が頑張ってくれたおかげでこの笑顔があります」
奥さんらしき人が小さな子供を抱いている、微笑ましい写真だ。
「本当によかったです」
「またいつかお会いしましょう!」
「はい!」
高嶺さんも帰って行き、家政婦のような人が近づいてきた。
「お嬢様、後片付けと戸締りはお任せください。皆さんをお送りする車も用意しました」
「ありがとうございます。私はこの家で寝泊まりはしないから、この家の日頃の掃除とかはお父さんに聞いてちょうだい」
「かしこまりました」
それから俺達は自分の家まで送ってもらい、俺は桜橋先輩とのツーショットを眺めてベッドに寝そべった。
一時期は桜橋先輩の両親のこと、最低だと思ってたけど、面白い人だったな。
いつか三人で暮らせる日が来ればいいのに。
それにちゅぱちゅぱねー。俺が桜橋先輩にそんなことをしたら、美山のもできちゃうのか。
本当、俺の知らないところで天国と地獄みたいなルール決めやがって。
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