水族館でサプライズ


11月7日、桜橋先輩の誕生日。

駅付近のバス停に集合し、みんなで千葉県内の水族館へ行くことになった。


「双葉さん、おはようございます」

「おー、早いな」


バス停でみんなを待っていると、一番最初にやって来たのは制服姿にオレンジ色のジャンバーを着た桃だった。


「休みの日も制服なのか?」

「これが一番恥ずかしくないので」

「なるほどな」


喪服とか着てくるぐらいの変人っぷりを見せてくれるかと思ったのに、なんか拍子抜けだな。でもあれか、学生の喪服は制服か。


「副会長!おはようございます!」

「おはようございます。私服可愛いですね」

「ありがとうございます!双葉さんに褒められたと、杏奈ちゃんに伝えます!」

「やめて⁉︎」

「あはは!冗談ですよ!桃さんもおはよう!」

「おはようございます」


冗談に聞こえないけど、同じ生徒会として冗談言い合える関係はいいな!


「美山と桜橋先輩はまだ来ないんですか?」

「バスが来るまで、あと10分あるので大丈夫ですよ。そういえば副会長」 

「はい」 

「杏奈ちゃんと会長は、あれから結局一緒に暮らしてるらしいですよ」

「そうなんですか」

「杏奈ちゃんのご両親も、会長を気に入ったそうで」

「いいことですね」


それから数分後、三人でたわいもない話をしていると、美山が桜橋先輩の手を引っ張っりながら、走って向かってきた。


「ギリギリセーフ⁉︎」

「セーフ」

「会長のせいで遅れるところだった!」

「間に合ったんだからいいじゃない」

「なにかあったのか?」

「準備してる時にいきなり『こういう時はメイクするのよ!』とか言いだして、可愛いからしなくていいって言ってるのにメイクの仕方調べ始めてさ」

「メイクしないで来たじゃない」

「私が無理矢理連れて来なかったら遅れてましたよ⁉︎」

「はいはい、バスきましたよ」

「行きは私が文月くんの隣!」

「帰りは私よ」

「はーい!」


おー⁉︎なんだ⁉︎二人が喧嘩しないで話が進んでいく!


そして美山を窓側に座らせて俺はその隣に座り、水族館に向かってバスが動きだした。


「水族館楽しみだね!」

「だな」

「文月くんは好きな魚とかいる?」

「クラゲ」

「会長と同じだ」

「ん、んじゃタコ!」

「別にいいよー」

「なんか、桜橋先輩と上手くやってるみたいじゃん」

「今はすごく仲良いよ!」

「本当よかったよ」


話の途中で三人が気になって後ろを振り返ると、三人は1番後ろの席で桃を真ん中にして座っていて、ただでさえ体の小さな桃が緊張からか、さらに小さくなっていた。


「なぁなぁ」

「どうしたの?」

「桃の目って見たことあるか?」

「ない!でも、鼻とか口とかパーツはいいから実は可愛かったりして」

「俺の憶測だと、常に怖い白目状態だと思う」

「あはは!そんなわけないでしょ?」


桃ならあり得るだろ‼︎不気味だもん‼︎


そんなこんなで目的地に着き、話しながら歩いてやっと水族館に着いた。


「お金は私が払うわ」

「いえ、私が!」

「伊角さんはお金を貯めなさい」


桜橋先輩の誕生日なのに、流れで奢ってもらってしまった。


「わぁ!カクレクマノミだよ!」

「おぉー、初めて生で見た。桜橋先輩も見てくださいよ」

「不味そうね」

「は?感想サイコパスかよ」

「会長、素敵です」

「ありがとう」


桃には刺さったみたいだ‥‥‥てか、水族館に行ってみたいって言いだしたの桜橋先輩じゃん!もっと楽しそうにしろよ!


「入り口で止まらないでさ、早く奥に行ってみよ!」

「おう」


みんなで水族館の奥に向かって歩いていくと、60cmほどの水槽が沢山並んでいて、桜橋先輩は一つ一つの水槽を写真に撮って単独行動し始めた。


実は1番ワクワクしてたんだろうな。


「紬先輩」

「はい」

「桜橋先輩ほっといたら、勝手にどこか行きそうなので、一緒に行動してください」

「分かりました!桃さんはすでに行方不明ですが」

「え⁉︎」

「本当だ、どこに行ったんだろう」

「とにかく会長のところ行ってきますね」

「お願いします。あのことは内緒にして、時間に間に合うように連れてきてくださいね」

「分かりました!」

「桃ちゃんも知ってるの?」

「バッチリだ」


実は今日、水族館のスタッフの協力で、桜橋先輩にサプライズを用意してある!俺も今からワクワクしてきた!


「あっちの大きな水槽にサメいるみたいだよ!」

「お!サメは絶対に見たい!」

「行こ行こ!」


サメのいる水槽を見にいくと、そこには必死に写真を撮る桃の姿があった。


「桃、勝手にはぐれるなよ」

「見てください。生徒会室のアロワナより大きいです」

「当たり前だろ。でも、かっけー」

「文月くん!あっちにウミガメいるよ!」

「桃、見に行こうぜ」

「私はしばらくサメを」

「そうか」


結局美山と二人で行動することになり、ウミガメを見つめる美山の可愛らしい笑顔に見惚れていると、美山と目が合ってしまい、俺は思わず顔を逸らした。


「文月くん」

「な、なんだ?」

「手繋がない?」

「みんなに見られるぞ」

「私はいいよ?」

「また桜橋先輩と喧嘩になるかもしれないだろ」

「大丈夫だよ?絶対に喧嘩しない」

「な、なら、少しの間ならいいけど」

「へへ♡ありがとう!」


俺も手を繋ぐのは嫌なわけじゃない。むしろ可愛い子とならいつだって繋ぎたい!


美山と手を繋いで、いい雰囲気の中水族館内を歩き回り、美山はずっと幸せそうにニコニコしているが、俺の心は複雑だった。

正直、美山の性格には難がある。でも、それは桜橋先輩も同じだ。

なのに、俺の中では迷っている。

どっちを選ぶのが正解か‥‥‥


「あ、会長と紬先輩だ!」

「杏奈ちゃん!会長の見張り代わってよ!」

「なんでですか?」

「マンタ見たいのに、クラゲコーナーから動かないの!」

「さっきから勝手に行きなさいと言っているじゃ‥‥‥」


桜橋先輩は俺達が手を繋いでいるのを見て固まり、美山は俺と手を離して桜橋先輩に近づくと、優しく肩に触れてなにかを話している。

桜橋先輩は頷いてるし、喧嘩ではないな。

それよりそろそろ時間か。


「この水族館で、1番大きなメイン水槽見ました?」

「まだよ?」

「行きましょう!」


四人でメイン水槽の前に行くと、しっかり桃も時間通りに水槽前で待機していた。


「綺麗ね」

「水槽だけじゃなくて、地面とかも見てみてください。水が反射して綺麗ですよ」

「本当、海の中にいるみたい」


その時、予定通りダイバーがメイン水槽を泳ぎ始め、桜橋先輩に向かって手を振り始めた。


「ほら会長!振り返さないと!」

「貴方とは付き合えないわ」

「その振るじゃねーよ!なにも知らずに振られたダイバーが可哀想だよ!」


するとダイバーの人は、岩陰からホワイトボードの様なものを取り出し、小さな貝殻で『お誕生日おめでとうございます!』と文字にした物を見せてくれた。

次の瞬間、俺達はもちろん、周りに待機していたスタッフ達が声を揃えて桜橋先輩をお祝いした。


「お誕生日おめでとうございまーす!」


その声に続き、その場にバースデーソングが流れ、桜橋先輩は恥ずかしがりながらも嬉しそうに笑みを隠せずにいる。


「あ、ありがとうございます!」

「美山、バースデーソングなんか頼んでないぞ。幾ら払ったんだよ」

「水族館側のサービス!」

「神かよ」


周りにいたお客さんも空気を読んでお祝いしてくれ、桜橋先輩は今までで1番幸せそうな笑みを見せてくれた。


「氷の女王が笑った‥‥‥」

「伊角さん」

「は、はい!」

「私はそのあだ名を良しとしていないわ」

「すみませんでした!」


紬先輩の一言で笑顔が消えてしまったが、なんとかサプライズは成功した。

それから何故か美山と紬先輩と桃は三人でどこか行ってしまい、桜橋先輩は俺に背を向けた。


「クラゲを見直すわ」

「俺も見たいです」


そして二人でクラゲコーナーに戻ってくると、桜橋先輩は急に手を繋ぎ、頬を赤くしてクラゲから目を逸らさない。


「え、えっとー‥‥‥」

「こ、これが好きな人とすること。美山さんが教えてくれたわ」

「美山となに話したんですか?」

「美山さんは『私がちゃんとしたやり方を教えるから、変なことはしないように』って、それで同じ土俵で戦おうって言ってくれたの」

「あの美山が」

「それと、付き合わないでやったことは、お互いに同じことをされても文句なしって約束をしたわ。だから、手を繋いだの」


へー‥‥‥そんなことよりドキドキが止まらないんですが⁉︎美山の時もやばかったけど、アホな桜橋先輩がまともに好きアピールしてくると、なんかめちゃくちゃこっちが緊張する‼︎


「そ、そうですか。あ、あらためて誕生日おめでとうございます」

「あ、ありがとう」


なにを話せばいいか分からずに、また祝ってしまった。でもこの状況で無言は無理だ!


「写真でも撮ります?」

「う、うん」


クラゲをバックに俺の携帯でツーショットを撮り、桜橋先輩はジーッと撮った写真を見つめてくる。


「送りましょうか?」

「うん!」

「欲しいなら欲しいって言えばいいんですよ」

「‥‥‥なにが良くて、なにがダメなのか分からないのよ。双葉くんに迷惑がられたくないわ」

「今更気にしなくていいですよ」

「それに、また私が双葉くんに裸で抱きついたら、美山さんがそれをしても許さないといけない‥‥‥なんか‥‥‥嫌なの」


きゃ‥‥‥きゃきゃきゃきゃきゃわうぃ〜‼︎‼︎‼︎なんなんだよ‼︎嫉妬してるの表に出すとか卑怯だろ‼︎可愛すぎるんだけど⁉︎


「ま、まぁ、美山にも裸で抱きつかれたら、それこそ最低男みたいになっちゃうんで、桜橋先輩の考えはあってます」

「よかったわ」

「そういえば、美山と紬先輩にプレゼント買うんでしたっけ?」

「そう!お店見に行きましょ!」

「はい!」


手は繋ぎっぱなしなのね〜。


一緒にお土産コーナーへやって来ると、俺達を見つけた美山が大慌てで近づいてきた。


「ちょちょっ!まだ入らないで?」

「なんでだよ」

「いいから!それと双葉くん」

「なんだ?」


美山は俺の耳元に顔を近づけた。


「しっかりアルコール消毒してね?」 

「は、はい‥‥‥」


なんでそんな怖い声で言うの⁉︎チビっちゃうよ⁉︎


「なにしてるのかしらね」

「さぁ」


しばらくすると、美山と紬先輩と桃が大きな袋を持って店を出てきて、美山がその袋を桜橋先輩に渡した。


「みんなからの誕生日プレゼントです!」

「私に?」

「はい!」

「ちょっと待て!俺だけ選んでないぞ!」

「双葉さんは会長とデートしてたので」

「桃、言葉には気をつけろ。美山に殺される勢いで睨まれてるぞ」


桃はビビって一歩下がったが、桜橋先輩は気にせずに無表情のまま袋をあけた。


「‥‥‥まぁまぁね」

「えー‼︎せっかく選んだのに!」


袋から出てきたのは、白いクラゲの大きなぬいぐるみで、桜橋先輩はぬいぐるみを見るように顔の前にぬいぐるみを持ってきて三人に顔を見られないようした。

そんな桜橋先輩は満面の笑みだった。


「私、美山さんと伊角さんにもプレゼントを買おうと思ってるのだけれど、なにか欲しいのあったかしら」

「会長の誕生日なのに、なんで私達が?」

「せ‥‥‥生徒会の新しい仲間じゃない」

「いいですよ!また誕生日になにか買ってください!」

「伊角さんは?」 

「私も大丈夫です!仲間って言ってもらえたのがプレゼントみたいなものですから!」 

「そうですそうです!」


桃だけ気まずそうにしているのに気づいたのか、桜橋先輩は無表情に戻してぬいぐるみを袋に入れた。


「岡村さん」

「はい」

「みんなにも提案よ」

「なんですか?」

「今日みんなで水族館に来た記念に、お揃いのストラップを買いましょう。クラゲの」


なんか最後に小さな声で『クラゲの』って聞こえた気がする。


「お揃い良いですね!買いますか、クラゲの」 

「買おう!」


そして、沢山のストラップの中からみんなで水色の綺麗なクラゲのストラップを選び、桜橋先輩にプレゼントを選んでない俺は、頬を膨らます美山を横目に、桜橋先輩の分と自分の分だけお金を払った。


「出してくれてありがとう」

「どういたしまして。みんなでお昼ご飯でも食べましょうか」

「そうね」

「ちょっと待ちたまえ」


茶色いスーツを着た男性が近づいてくる。さっきのは俺達に言ったのか?誰だこの人。


「‥‥‥お父さん?」


ん?ん〜〜〜〜⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎

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