地獄のトライアングル


10月中旬、生徒会メンバーじゃなくなった俺と桜橋先輩は話すタイミングも無く、美山も毎日機嫌がいい。

一昨日から生徒会の選挙活動がスタートしたが、桜橋先輩の動きはいまだになにも無いし、話さないのは話さないで少し寂しい気もするな。


「文月くん!見て見て!」

「んー?」


朝のホームルームが始まる前、美山は携帯を持って近づいてきた。


「現状での投票結果だって!」

「え、もう結果出てるのか?」

「公式じゃ無いんだけど、ネットで誰に入れるかーみたいなアンケート結果!」

「ふーん‥‥‥は⁉︎桜橋先輩が2位⁉︎」

「二人しか立候補してないんだけどね」

「美山、お前なにした」

「変なことしてないよ⁉︎もう一人の人に協力してるだけ」

「卑怯なことしてないだろうな」

「なに?一花先輩に会長になってほしいの?」

「そういうわけじゃ無いけど。この一位の人って誰なんだ?」

「学園祭で仲良くなった先輩でね!元風紀委員なんだって!」

「へー、まぁ頑張れよ」

「双葉くん」


朝のホームルーム五分前だというのに、何故か桜橋先輩が教室にやってきた。


「あ、久しぶりですね」

「ちょっと!今私が話してるんですけど!」

「黙りなさい」

「は?」

「はい?」

「な、なんで二人ともいきなり睨み合ってんの⁉︎怖いよ!」

「双葉くん、ちょっといいかしら」

「はい」

「待って」

「なにかしら?」

「調子に乗れるのも今のうちですよ。つむぎ先輩が生徒会長になったら、私を副会長にしてくれるらしいので、一花先輩はこき使ってあげますよ」

「ふふっ。そんな日が来たらいいわね」

「‥‥‥」


大丈夫かよ美山‥‥‥桜橋先輩の見下すような目つきに怯えちゃってるじゃん。


「行くわよ」

「は、はい」


桜橋先輩は俺を屋上に連れて行き、扉を閉めた瞬間頭を抱え始めた。


「どうするどうする⁉︎」

「はい?」

「今のところ私負けてるらしいのよ!」

「まだ始まって二日ですよ?あと、美山が手伝ってるってだけで、男子生徒が投票してるんですよ」

「私はどうしたらいいの⁉︎」

「去年はどうやって生徒会長になったんですか?しかも一年生でしたよね」

「去年は、なんか生徒会長になれたのよ」

「一年生で生徒会長なんて普通なれませんよ⁉︎」

「私は桜橋グループの一人娘、その話題性だけで会長になれたのよ。その話題性も一年が限界よ」

「桜橋先輩なら大丈夫ですって!てか、桜橋先輩に会長になってもらわなきゃ困ります!」

「どうして?」

「副会長だと遅刻しても怒られないし、かなり生活しやすいんですよ!」

「‥‥‥あっそ」

「えぇ⁉︎⁉︎なんでいきなり冷たいの⁉︎」

「私と話したいからとか、私と一緒にいたいからとかじゃないの?普通そういうこと言うんじゃ無いの⁉︎」

「少女漫画読んだ翌日みたいなこと言わないでください!」

「ふん!」

「とにかく会長になってくださいね」 

「双葉くんが応援演説をしてちょうだい」

「俺が⁉︎無理無理!」

「なら、あの日の録音を流すまでよ」 

「本当に俺のこと好きなんですか⁉︎脅しとか最低だわ!」

「す‥‥‥すすっ、好きよ?」 

「‥‥‥協力します」

「ありがとう!」


俺はなんてちょろいんだ。そんな恥ずかしがりながら言われたら拒否できないじゃんか!


「急いで戻りましょう。チャイムが鳴っちゃいます」

「そうね!会長になれたら、協力してくれたお礼にフィギュア買ってあげるわ!」

「よし!頑張りまくります!」

「あと、私の脱ぎたてのパンツもあげる!」

「反応に困ります」

「それじゃ、一緒にお風呂入りましょう!それじゃまた連絡するわ!」

「‥‥‥」


ある意味、前一緒に入ったみたいなもんだよな。でもあれはシャワーだったし、まさか次はタオル無しで⁉︎

ダメだ!期待するな!期待したところで、俺がビビって拒否るのがオチだ!でも‥‥‥美山に消された前に貰った写真、綺麗な体だったな‥‥‥


そんなこんなで放課後になると、美山は伊角紬いすみつむぎ先輩のところへ行って作戦を練ってるらしく、本気で桜橋先輩に勝つ気満々みたいだ。

なのに桜橋先輩はほぼ俺任せだし、勝てる気がまったくしない。


そしてさっさと帰ろうとした時、廊下で桃に声をかけられた。


「不安ですか?」

「また全部お見通しか?」 

「屋上に居たので」


え、どこにいた⁉︎全然気づかなかったわ!


「桜橋先輩とお風呂、羨ましいです」

「馬鹿!絶対誰にも言うなよ?」

「言いませんよ。でも、桜橋先輩なら大丈夫です」

「なにがだ?」

「桜橋先輩が本当になにも考えてないとは思えないです。あの人は怖い。双葉くんは、すでに桜橋先輩の作戦の中にいます」

「作戦?なにか聞いたのか?」

「桜橋先輩はそこまでアホじゃ無いってことです。勝ちますよ、あの人なら」

「だといいなー」

「詳しく知りたかったら、一年生の頃の桜橋先輩を知ってる先生に聞いてみるといいです」

「なるほど、ちょっと聞いてくるわ」


とりあえず、担任の川崎先生に話を聞くために職員室に向かった。


「先生」

「あら、どうしたの?」

「一年生の頃の桜橋先輩について聞きたいんですけど」

「いいけど、コーヒー飲みながらでいい?」

「もちろんです」


川崎先生はコーヒーを息で冷まし、少しだけ飲んでマグカップを机に置いた。


「それで、なにが聞きたいの?」

「桜橋先輩は一年生の時、どうやって生徒会長になったんですか?」

「知らないの?本当に凄かったのよ?」

「聞かせてください!」

「もともと三年生が会長をしていたんだけどね、入学して割とすぐに桜橋さんは美貌と頭の良さで、学園一位の人気を手に入れたの。なのに皆んなに冷たくて、氷の女王なんてあだ名が付いてね」

「それからどうなったんです?」

「それから、その時の生徒会長に喧嘩をふっかけたの、テストの合計点で私が勝てば、会長の座を貰いますって」

「そんなことするなんて意外ですね」 

「意外かな?やりそうな感じすごいするけど」


確かに、他から見た桜橋先輩はそうなのかも。


「しかもね、三年生用の問題でいいって不利な条件付きで!その噂は一瞬で広まって、生徒も大盛り上がりで桜橋さんを応援して、あっさり勝っちゃったってわけ!」

「すっげ」

「これは言ったら怒られちゃうから聞かなかったことにしてほしんだけど、どうしてそこまでして生徒会長になりたかったのか聞いた時の桜橋さんったら可愛くて」

「なんですか⁉︎」

「生徒会室にアロワナが居るのを知って、生徒会長になると、生徒会室で好きなペットが飼えるからなのよ!でも悩みすぎて、結局飼わずに会長を終えちゃったみたいだけどね」


うわー、なんだろ、凄い安心する話だな。やっぱり俺の知ってる桜橋先輩だったわ。


「でも、そんなに人気なのにネットのアンケートでは負けてましたよ?」

「お金持ちは怖いわよ〜、ネットの結果なんて、あっさり操れちゃうんだから。それにネットのは生徒が勝手に楽しんでるだけの非公式!手を加えてもルール違反にはならないの」

「えっ」

「話はここまで!」

「教えてくれてありがとうございます!」

「いいえ!気をつけて帰るのよ」

「はい!」


桜橋先輩が何か企んでるとしたら、演技うますぎて訳わかんねー。一年生の頃のは戦略っていうか勢いだし、やっぱりなにも考えてないんじゃ?

でも、川崎先生はネットの結果なんてとか言ってたし!まっ、桜橋先輩を信じて俺も気楽にやろ。


その日の夜、桜橋先輩から【写真が送信されました】と携帯に通知が来て、嫌な予感と変な期待を胸に通知を開くと、泡風呂に入っている谷間のエッティーな写真が送られてきていた。


「わーお‥‥‥」


既読をつけてすぐに『一緒に入る時、泡風呂なんてどうかしら!』とメッセージが届き、なにも考えずに『いいっすね』と送信してしまった‥‥‥


俺はなにを言ってんだ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎これじゃ楽しみにしてるみたいじゃんか‼︎


その瞬間、美山から電話がかかってきて一瞬で冷や汗をかき、慌てて電話に出た。


「も、もしもし⁉︎」

「今何してる?」

「えっと、なにもしてないけど」

「よかった!一花先輩とどんな感じ?」

「なにが?」

「協力してるんだよね」

「えっ、あっ」

「いいんだよ?文月くんは悪くないから。また無理矢理やらされてるんでしょ?」

「う、うん」

「文月くんが望んでやるわけないもんね。ごめんね?先輩の手伝いであまり話せなくて、寂しいよね」

「いや」 

「ん?」

「めっちゃ寂しいよ?」

「選挙活動が終わったら、二人で遊びに行こ?」

「なぁ美山」

「なに?」

「どうしても桜橋先輩と仲良くできないか?」

「できないよ」

「俺が仲良くして欲しいってお願いしてもか?」

「無理だよ」

「桜橋先輩が親に捨てられた過去を持っていても?」

「‥‥‥なにそれ」

「学園祭の日に言ってたんだよ」

「そ、そうなんだ」

「あの人、そんな過去を隠しながら、自分が一番辛いはずなのに美山を助けてくれたんだぞ?」

「いじめがなくなったのは、私が頑張ったからだよ?」

「美山が頑張れる状況を作り出したのは桜橋先輩なんだよ。美山なら立ち上がれることを桜橋先輩は知ってたんだ」

「へ、へー‥‥‥」

「なんだ?大丈夫か?」

「戦う気なくなってくるから教えないで欲しかったかも」

「ごめん」

「でも文月くんは譲れない」

「まぁ、そんな風に思ってくれるのはありがたいよ」

「そういえば、一花先輩にエッチな写真貰ってるでしょ」

「ん⁉︎」

「前の、一花先輩のだよね」


バレてた〜‼︎‼︎‼︎


「なら、きっと今でも送られてきてるんだろうなって」

「そっ、そんなことないぞぉー⁉︎」

「声が裏返ってる」

「あはは‥‥‥」

「汚れた目を綺麗にして」

「え?」

「これあげる」


なんだ?美山から写真が‥‥‥


「なー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

「へえ♡」


美山から送られてきた写真は、学校のトイレで俺の箸を谷間に挟んでいる写真だった。


「今日、美味しそうにお弁当食べてたね♡」

「なにやってんの⁉︎」

「目の消毒だよ?」

「違くて!」

「私の谷間と間接キスだね♡」


やること狂ってるわ‼︎‼︎


「ちなみに、今日だけじゃないからね♡」

「は⁉︎」

「私達が話すようになってからずーっと、文月くんがお弁当の日は毎日」

「おいおいおい‥‥‥」

「喜んでくれてよかった!」

「どうしてそうなった⁉︎次から弁当食べれないわ!」

「んじゃ、今度私がお弁当作ってあげるね!」

「やだ!なんかやばそう!」

「どうして‥‥‥私が嫌い?」

「嫌いじゃないよ⁉︎」

「んじゃ食べてね!」

「は、はい」


絶対やばいことするじゃん!そもそも料理下手じゃん‼︎

それに三角関係って、もっとドキドキするものじゃないの⁉︎俺が感じてるドキドキは恐怖だよ‼︎

これは恋の三角関係じゃない‥‥‥地獄のトライアングルだ‥‥‥‼︎

てか美山って脱ぐと意外とデカいな‥‥‥悪くない。

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