学園祭当日


二人に告白されてから、まともに桜橋先輩と会話していない。恥ずかしいのか、謎に避けられている。


そして学園祭前日の土曜日、生徒会は学園内の最終確認をするために登校しなくてはいけなく、生徒会室前に行くと桜橋先輩が携帯をいじりながら待っていた。


「おはようございまーす」

「お、おはよう。これ、まだ渡せてなかったから、今日持ってきたわ」

「あ!ハワイのお土産ですか?」

「そうよ、ハワイで有名なチョコレートを買ってきたの。食べてみて」

「はい!」


ハワイアンな柄の包み紙を剥がして箱を開けると、中のチョコレートがドロドロに溶けていて、甘いチョコレートの匂いが鼻をついた。


「ドロドロです」

「どうして⁉︎」

「まだまだ暑いですからね」

「す、好きな相手にはチョコレートを渡すって書いてあったのよ。なのに‥‥‥」

「それバレンタインですよ。でもありがとうございます!家で冷凍庫に入れてから食べますよ!」

「ま、まぁ、食べなくてもいいけど」

「なんですかそのツンデレ」

「ツンデレじゃないわよ‼︎さっさと確認しに行くわよ!」

「はーい」


それから、各教室を見て回っているうちに幽霊で話題の3年C組にやってきた。


「なかなか上手に作るものね!」

「ちなみ桜橋先輩の修学旅行中、この教室で幽霊事件ありましたよ」

「‥‥‥」


そう言うと桜橋先輩はすごい速さで教室を出て、俺が教室を出た瞬間に両肩を掴んで体を揺らしてきた。


「なんで早く言わないのよ!」

「そんな怖がらなくても!絶対嘘ですから!」

「嘘だっていう証拠は⁉︎」

「ないです」

「もう帰る!」

「まだ全部確認してないですよ⁉︎」

「毎日のように確認してるんだから大丈夫よ!」


誰よりも子供っぽい人だな。そうじゃなかったら仲良くなってないんだろうけど。


確認を中途半端にして帰り、ついに学園祭当日がやってきた。


「すげー」

「さすが桜浜学園って感じだね!始まる前からすごい盛り上がり!」

「だな」


学園祭スタート前から最後尾が見えないほどの行列が歩道にできていて、他校の生徒も楽しみにしているようだった。

普段立ち入ることのできない有名な学園ってこと、そして桜浜学園の学園祭は予約制で、事前に入場料2500円を払えば出店全てが無料になるということだけでかなりの話題性がある。

しかも生徒の関係者は入場料すら無料だ。


「双葉くんと美山さん、一度門を閉めるから早く入りなさい」

「はーい」


桜橋先輩が外にやって来ると、驚くほどの黄色い声が飛び交った。


「きゃー!桜橋会長ー!」

「すげー!噂通りの美人!」

「みなさん、もうしばらくお待ち下さい」

「きゃー!」


喋っただけでこれかよ‼︎桜橋先輩ってそんな人気だったの⁉︎


「会長って学園のパンフレットにも載ってるし、かなりのお金持ちだから有名なんだよ」

「なるほどな」


美山と教室に向かい、ソフトクリーム屋の最終準備を始めた。


「バンダナとか持ってきた?」

「大丈夫だ」

「今日は楽しもうね!」

「おう!」


それから約20分後に学園祭がスタートし、すぐに沢山のお客さんがソフトクリームを買いに来てくれて大忙しだ。


「ぐちゃぐちゃなんですけど」

「あ、えっと」

「はい!新しいのできましたー!」

「ありがとうございます!」


さっそくお客さんにクレームを言われてしまったが、美山がすぐにカバーしてくれ、可愛らしくウィンクをしてすぐに次のソフトクリームを作り始めた。


「双葉」

「ん?」


その時、前に突っかかってきた男子生徒に声をかけられ嫌な予感がしたが、俺をいじめるのにも飽きたのかニコニコしている。 

逆に不気味だけど。


「ありがとうよ!」

「え」

「生徒会の人がいるクラスってだけでこんなにお客さんが来てるんだ。双葉のおかげだな!」

「いきなり肩組むなよ」

「なんでだよ!いいじゃねーか!」

「こういうの慣れてないんだよ」

「まぁ、これからは仲良くやろうぜ」

「了解」


はぁー!いいよな!男の友情いいよな!ネチネチしないで、きっかけ1つで仲直り、最高だ!

にしても、俺がいるからお客さんが来てるなら、桜橋先輩の教室はどうなってんだ?そもそも桜橋先輩のクラスってなにやってんだろ。


「美山、休憩まで何分?」

「今スタートしたばっかりだよ?2時間頑張らなきゃ!」


マジかよ、長すぎるだろ。


それから2時間働きまくり、やっと最初の2時間組の今日の仕事が終わった。


「文月くん!遊びに行こ?」

「オッケー。桜橋先輩のクラスってなにしてるか知ってるか?」

「なんで会長の話するのかな?」

「さて、たこ焼き食べに行くか!」

「行こ!」


学園祭なのに美山の機嫌を悪くさせたくない!なにをしてるかは適当に歩いてればのちに分かるだろうし。


「あ、やっぱりたい焼き食べないか?」

「いいよ!文月くんが食べたいものが食べたい!」


なにそれ可愛い。告白の返事を真剣に悩んでるとはいえ、そんなこと言われたら童貞はコロッといっちまうぞ。俺童貞だし。


結局たこ焼き屋に行く途中で見つけたたい焼き屋に惹かれて、たい焼きを食べることになった。


「たい焼き二つお願いします」

「あんことカスタード、どっちにしますか?」

「カスタードで」

「んじゃ私もカスタードでお願いします!」

「かしこまりました!」


焼きたてのたい焼ききを受け取り、食べながら学園内をぶらぶらすることにした。


「おー!」

「どうしたの⁉︎」

「金払わずに食うたい焼きは世界一美味いな!」

「ちょっとよく分からないよ」

「金持ちには分からない幸せだ。羨ましいだろ」

「う、うん!いいなー!」


おい美山、顔引きつってるぞ。


「そういえば、幽霊事件どうなったのかな」

「あー、行ってみるか」

「行ってみよ!」


三年C組のお化け屋敷に行く途中、他の高校の生徒が幽霊の噂をしながら三年C組に向かっていくのを見て嫌な予感がしたが、やっぱりかなりの行列だった。


「諦めるかー」

「そうだね、どこ行きたい?」

「2年生の教室見に行かないか?」

「いいよ!確か2年A組がマジックショーしてるらしいよ!」

「マジックか」


桜橋先輩って何組なんだ?聞いたことすらなかったな。


そして二年A組に行くと、これまた行列だったが、並んでみたら意外とスムーズに入ることができた。


「文月くん、出よっか」

「まだ始まってもないぞ」

「みんな会長の話してる。ここ会長のクラスだよ」

「桜橋先輩がマジックするのかな」

「どうだろ」

「せっかくだから見て行こうぜ」

「分かった。会長がマジックやったら、後日馬鹿にしよ」

「そうしろ」


それから数分経った時、マジャンの格好をした桜橋先輩がカーテンの後ろから出てきて歓声が上がった。


「これからスプーン曲げをご覧に入れます」


めっちゃ親指に力入ってる‼︎アホがバレるからやめて⁉︎力尽くで曲げたー‼︎‼︎‼︎


「すごーい‼︎」

「さすが桜橋会長!」

「せんぱーい!」

「一花さんすごいです!」


みんな美少女の魔法にかかってやがる!これは俺も馬鹿にしてやらないと!


次の瞬間、桜橋先輩と目が合うと、桜橋先輩は少し動揺してカーテンの裏に戻って行き、他の生徒が違うマジックを始めた。


「さて、出るか」

「最後まで見ないの?」

「見たいもの見れたし」

「出よっか」

「え、うん」


なんか一瞬、美山の声が低くなったような‥‥‥


教室を出ると、美山は頬をプクーっと膨らませてリスみたいな顔で振り返った。


「なな、なんだ⁉︎」

「会長が見たかったの?」

「マ、マジックを見て笑顔になる君が見たかったのさ」


双葉文月、スキル!ゲス男の決め台詞を覚えた!


「え⁉︎えっと、えへへ♡」

「さぁ、次行こう」

「私笑ってなかったけどね」


ヤンデレ属性にはゲス男の決め台詞が無効だった。


なんだかピリついた空気の中ブラブラしていると、一階の女子更衣室の前に【オカルト部/お化け屋敷】と書かれた看板が立っていて、誰も遊びに来ていない様子だった。


『入ってみるか?』

「うん」


更衣室の扉を開けると、内装は何もいじられていなく、桃も普通に制服姿で椅子に座っているだけだった。


「あ、双葉さんと美山さん」

「お化け屋敷じゃないのか?」

「いろいろ訳あって、これしか作れなかったです」

「キツネ?」


桃は紙粘土で作ったようなキツネの置物を持ち、目が見えないから表情は分からないが、悲しそうにうつむいた。


「上手だね!」

「本当ですか?結構頑張りました」

「ちゃんとキツネって分かるもん!」

「ありがとうございます」

「訳あってって、なにかあったのか?」

「3年C組の幽霊事件、あれは嘘でした」

「まぁ、だろうな」

「嘘なの⁉︎」

「話題性でお客さんを呼ぶ作戦だったみたいです。それだけなら良かったのですが、私が使いたい材料もことごとく持って行かれてしまって」


美山と目が合い、俺達は小さく頷いた。


「お客さん呼びたいか?」

「はい。でも、呼んでもなにもできません」

「美山、演劇部から桃が着れそうなそれっぽい服借りてきてくれ」

「分かった!」

「なにするんですか?」

「今から話題作りするぞ!」

「え?」


急いでコックリさんの紙を作り、看板もコックリさんに書き換えて、一つの懐中電灯を用意した。


「コックリさんやるんですか?」

「ただのコックリさんじゃないぞ?桃がコックリさんになるんだ」

「私が‥‥‥」

「持ってきた!捨てる予定だから汚してもらって構わないってさ!血のりも借りてきた!」

「ナイス!」


美山はトイレの花子さんが着ていそうな赤いスカートと薄汚れたワイシャツを持ってきて、俺だけ一度更衣室を出て、桃に着替えてもらうことにした。


数分後に美山に呼ばれて再び中に入ると、暗い更衣室に血まみれの少女が立っていて、桃だと分かっていても、かなりの完成度に多少ビビる。


「いい感じだな。桃はこのデカイ机の下に隠れてろ。暗いから絶対にバレない。あと、キツネはテーブルの上に置いておけ、雰囲気出るだろ」

「それからどうしたらいいんですか?」

「好きなタイミングで脅かせばいいよ」

「分かりました」

「んじゃ後は頑張れよ」

「はい」


美山と更衣室を出た瞬間、俺はわざと顔を引きつらせて演技をした。


「あれ本物だよな⁉︎」

「本物のコックリさんだよ!」


美山も演技に合わせてくれ、それに食いついた新聞部が声をかけてきた。


「詳しくきかせてくれませんか⁉︎」

「はい!」


計画通り‥‥‥


新聞部は学園祭の間、40分おきに新しい情報を張り出し続けなくてはいけなく、常に学園内でネタを探している。

美山と俺で嘘の話をこれでもかとして、実際に新聞部にコックリさんを体験させると、新聞部の男子生徒は青ざめた表情で逃げていった。


「よし、後は新聞部がどれだけでかい記事にしてくれるかだな」

「だね!それで、私以外に優しくした理由はなんで?」

「え」

「どうして?」

「美山もなんとかしてあげたいって思っただろ⁉︎」

「でも、文月くんはダメなんだよ?好きになられたら、桃ちゃんも敵になっちゃうんだから」

「すんまそん」

「へへ♡分かってくれて良かった!」


笑顔でヤンデレ気質も許される程の美少女で良かったな。これで美山が可愛くなかったら地獄だよ。


それからはいろんな遊びや、食べ歩きをして学園祭を満喫していたが、一度も桜橋先輩とすれ違わず、気になってしょうがなくなってしまった。


「杏奈!メイド喫茶行かない?」

「わ、私はちょっと」

「えー、行こうよー」


美山は同じクラスの女子生徒達に声をかけられて動揺している。


「行ってこい。悪口言ってた相手も、こういう楽しい空気を利用して仲直りしたいんだよ」

「文月くんはどうするの?」

「俺は適当に休憩してるよ」

「分かった。また後で合流ね?」

「了解」


いいダイビングで美山と別れ、一度生徒会室に行ってみることにした。


「桜橋せんぱーい、居ますかー?」


生徒会室に入って目に飛び込んできたのは、スーツを着た男性が桜橋先輩の腕を引っ張っている光景だった。


「な、なにしてるんですか⁉︎」

「双葉くん!助けて!」

「貴方誰ですか!」

「一花様のお父様に、一花様を連れてくるように言われています」

「私は行かないわよ!どうして今更‼︎」

「ご命令です」

「離してあげてください!」

「できません」


いったいどうなってるんだ‥‥‥

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