下着交換⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎


今日はオカルト部の人達と心霊スポットに行く日だ。

18時に5分ほど遅れて学校の前に行くと、三日前に会ったオカルト部の女子生徒一人と、桜橋先輩しかいなかった。


「少し遅れちゃいました」

「来ないと思っちゃったじゃない」


俺の二の腕を軽くつねりながら小さな声で言う桜橋先輩がちょっと可愛い。ちょっと痛いけど。


「ごめんなさい。それよりオカルト部って1人なんですか?」 

「そうです。私1人」

「い、今まで1人で心霊スポット行ってたんですか?」

「はい、1人です」


なにそれこっわ‼︎前も思ったけど、黒髪のおかっぱで両目が見えてないし、前見えてるのかな。てかよく見たら隣のクラスの人だな。同じ一年生か。


「それで?しししん、しゅんれいスポットってどこに行くのかしら?」


めっちゃ噛みまくってるけど大丈夫か⁉︎


「今日は近場の公衆電話に行きます」

「へー、この辺に公衆電話なんてあったんだ」

「ほとんどの人は気付いてません。ひとけのない公園で、木の影に隠れてますから。それでは行きましょう」


三人でその公園に向かって歩き始めたが、桜橋先輩は既に辺りをキョロキョロしていて相当ビビっているのが見て分かる。


それから10分ほど歩くと、小さめの公園で、電灯も今時LEDではなくオレンジがかった光で、それだけで怖い雰囲気を醸し出していた。


「あの木の裏に明かりがあるのが分かりますか?」

「うん」

「あそこに公衆電話があります。あの公衆電話から自分の携帯に電話をかけて、電話が自動的に切れるまで電話には出ずに放置します。すると、この公園でよく遊んでいたミサちゃんの霊から非通知で電話がかかってくるらしいです」

「なるほど。桜橋先輩がやってみてください」

「え⁉︎」

「いいですね、会長なら怖いものはないでしょうし、お願いします」

「ま、任せなさい」


桜橋先輩は怯えながらも、多分会長としての威厳を保つために堂々と公衆電話の中に入っていった。


「えっとー、双葉さんでしたっけ?」

「うん」

「私は岡村桃おかむらももです」

「よろしく」

「よろしくです。双葉さんは会長と仲がいいんですか?」

「多分、他の人よりか仲良いかも」

「会長は日頃から凛とした雰囲気なんですか?」

「ま、まぁ」


一応桜橋先輩のために嘘をつくことにした。


「私が見るに、会長は本当の自分を見失ってるように見えます」

「どういうことだ?」

「よく分かりませんが、雰囲気?オーラ?みたいなやつです」

「岡村が言うと謎の説得力があるな」

「そうですか、ありがとうございます。あと、桃でいいです」


話をしていると、桜橋先輩が冷静に公衆電話から出てきて、俺の後ろに立ち、震えた手で服の袖を握ってきた。


「なにか変わったことはありましたか?」

「ただの公衆電話よ。なにもないわ」

「それじゃ、電話がこないかしばらく待ってみましょう」

「こ、ここで待つ必要はないんじゃないかしら」

「雰囲気を楽しむのも心霊スポットの醍醐味ですよ」

「そ、そうね、確かに」

「俺、ちょっとトイレ行ってきますね」

「わわ、私も行くわ」

「女子トイレですよね」

「当たり前じゃない」


桜橋先輩は当たり前のように当たり前じゃないことをするから聞いたんだ。


「ねぇ」


桃を残して真っ暗なトイレに入ろうとすると、桜橋先輩が恥ずかしそうに小さな声で話しかけてきた。


「はい?」

「こんな静かな場所だと、その‥‥‥」

「音が聞こえちゃうかもしれないと?」

「こ、声に出して言わなくていいのよ!」

「大丈夫ですよ。桜橋先輩のを聞いてもなんとも思いませんから」

「それはそれで悲しい気もするわね」

「桜橋先輩もそういうことで恥ずかしがるんですね」

「とにかく、耳は塞ぎなさい」 

「分かりましたよ」

「あと、先に戻らないで、トイレの前で待ってるのよ」

「はいはい」


耳を塞いでしろって、男の体の仕組み知らないのかな。まぁ、俺は桜橋先輩にいたずらするためにトイレに来たから関係ないけど。


桜橋先輩が女子トイレに入るのを見送り、俺は男子トイレに入ってポケットから携帯を取り出した。

トイレはコンクリートの壁でできていて、電気がないせいで携帯の明かりが眩しい。


さて、さっそく桜橋先輩に非通知で電話をかけてやるか!


隣の女子トイレから携帯の着信音が聞こえてきた次の瞬間、勢いよく扉にぶつかったり開けたりする音が聞こえ、桜橋先輩が男子トイレに入ってきた。


「助けて!」

「なんで手にパンツ持ってるんですか⁉︎」

「脚に引っ掛かったから脱いだのよ!」

「いや、履けよ!」

「静かに!」

「んー⁉︎」


桜橋先輩は俺が喋れないように手に持っていたパンツを口に当ててきた。


「誰か来るわ」

「んー!ん!」


誰かって絶対桃だろ‼︎


「なにかありましたか?」


ひょこっと顔を出した桃の不気味さで、桜橋先輩は腰を抜かしてしまった。


桜橋先輩を公園のベンチに運び、しばらく三人で休憩していると、桜橋先輩は俺が持っていたパンツを取り、その場で立ち上がって履き始めた。


「会長、可愛い下着ですね」

「今日見たことは誰にも言わないことね」

「言いませんよ」

「今日は帰るわよ」

「私はしばらく残ります。写真とか撮りたいので」

「遅くならないように帰りなさい」

「はい」


桃‥‥‥最後まで不気味な人だった。


そして帰り道


「んじゃ、俺こっちなのでさよなら」

「ま、待ちなさい!私を1人にするつもり?」

「家まで送ればいいですか?」

「泊まって!」

「嫌です!」

「私のパンツの匂いを嗅いで前屈みになっていたのに?」

「‥‥‥」

「私の愛を感じていたんでしょ?だから前屈みになっちゃったのよね。私調べたんだから!」

「と、とにかく今日は泊まりません!」

「また電話きたらどうるすのよ!」

「さっきのは俺のいたずらですから!」

「はい?いたずら?」


え、待って。いつもの全然怖くない雰囲気と違う。もしかして本気で怒ったかも。


「ご、ごめんなさい」

「許してあげる代わりに、パンツをちょうだい」

「ん⁉︎」

「私も愛を感じたいの。もちろん私のもあげるわ」

「パンツなんてあげれるわけないじゃないですか!」

「とにかく私の家に行くわよ」

「えぇ〜⁉︎」


腕を引っ張れ続けて桜橋先輩の家まで来てしまった。


「脱いだら部屋から出てきて。私も脱いでおくわ」

「本気ですか?」

「本気よ?くれないなら夏休み明けから学校に来なくていいわ」

「それは酷すぎます!」

「私はまだ怒ってるのよ?」

「誰にも言ったりしないですか?」

「もちろんよ」


桜橋先輩のパンツは要らないと言えば嘘になる。欲しいよ⁉︎そりゃ欲しいけど、誰かにバレた時にヤバいことになるのは間違いない!とくに美山にバレた場合はマジでヤバい!


「それじゃ脱いでくるわね」

「え、は、はい」


もう脱ぐしかない‼︎変な柄パンじゃなくて黒のシンプルパンツでよかったと思うしかない!


急いでパンツを脱いでズボンを履き、桜橋先輩の部屋を出た。


「ぬ、脱ぎました」

「はい、交換よ」


ピンクのセクシーなパンツを受け取ってドキドキしていると、桜橋先輩は俺のパンツを受け取って顔を赤くした。


「わ、私は1人の時に愛を感じてみるわ」

「そ、そうですか」


ノーパンでお互いのパンツを持っている不思議な状況で、顔を赤くした桜橋先輩に見つめられてドキッとしてしまい、なぜか目を逸せなくなってしまった。


「私‥‥‥双葉くんのことが‥‥‥」

「‥‥‥」

「腹立たしくて仕方ないわ」

「なんで⁉︎」

「私のパンツをもらったのよ⁉︎もっと喜びなさいよ!普通すぐに舐めたりするでしょ⁉︎」

「しないわ‼︎」

「双葉くんは愛を感じたくないの?」

「美山からの歪んだ愛を感じてるんで充分です」

「なら返してちょうだい!」

「あー!」

「なに?欲しいの?」


せっかく貰ったえちえちなパンツを奪われて焦ったが、なんか焦ってる自分が気持ち悪くて諦めることにした。


「要らないです。帰ります」

「そっ。またね」

「そこの女の子もじゃあね」

「‥‥‥」


ムカついて、最後の最後で怖いことを言って桜橋先輩の家を出て、全力で走った。


そのせいでその日は、真夜中でも関係なく桜橋先輩からの電話が鳴り止まず、最後のいじわるを後悔しながら目を閉じた。

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