背中流してあげるわ!


駅に着いて自転車を止めたが、美山の姿は無く、桜橋先輩が自動販売機に向かって歩き出した時、物陰に隠れていた美山が桜橋先輩に向かって走り出した。


「わーお」


それに気づいた桜橋先輩は走って俺の元へ戻ってきて、俺を盾にするように後ろから両肩を掴んできた。


「どうして逃げるんですか?」

「貴方が危険人物だからよ」

「私はなにもしないですよー?」

「なら、その右手に持ってるペンチはなによ!」


桜橋先輩に激しく同意。


「これは文月くんを守るための物です」

「やっぱりそれで殴る気じゃない!」

「でも、会長が悪いんですよ?今も汚い手で文月くんの肩に触れて」

「私達はセフレになるのよ?美山さんはただの友達でしょ?」

「やめてー⁉︎ここ外ですよ⁉︎」

「何も恥ずかしがることないわよ!それより私を守りなさい!」

「そんな無茶な!」

「文月くん、そこどいて」

「美山も落ち着けって!こんなアホ傷つけても、どうにもならないぞ!」

「どうしてアホって言うの!」

「いいから黙ってください!今めっちゃ見られてますから!なんなら警備員も見てますから!」

「問題になったら大変だわ。私は学校の制服を着ているし。双葉くんの家に行きましょう」

「え」

「その方がゆっくり話せるわ。美山さんもそれでいいわね?」

「はい」


俺が納得できない展開になったが、美山が近くで休憩していた作業着姿のおじさんにペンチを返しに行き、俺の家行く気満々で自転車に乗って戻ってきた。


「文月くん!行こう!」

「お、おう」

「会長は来なくていいですから」

「ちゃんと話すんじゃないの?」

「会長が文月くんの家に入るとか許せないです」

「前に行って、お母様にご挨拶したけれど」

「ちょっと!張り合わなくていいですから!」

「文月くん、それ本当?」

「もういいから、三人で行くぞ」


これ以上外で騒いで問題になるのはまずいし、とにかく俺の家で話し合ってもらおう。


そして超絶気まずい空気の中、自転車で俺の家に行き、家に着くと親の車が無く、安心して二人を部屋に連れて行った。


「文月くん、なんで下だけ体操着なの?」

「き、気分かな?」

「私の家で麦茶を溢してしまったから、私の体操着を貸しているのよ」

「言わなくていいですから!」


それを聞いた美山は目を見開き、俺が履いている体操着に手をかけた。


「え」


勢いよくズボンを脱がされ、また女の前でパンツ姿を晒してしまい、恥じらう間も無く美山は桜橋先輩に掴みかかり、桜橋先輩は怯えた表情を見せた。


「やめて!」

「文月くんに汚いもの履かせないで‼︎」

「双葉くん助けて!」


俺は冷静に自分のジャージを履き、桜橋先輩が床に押さえつけられているのを静かに眺めた。


「どうして助けてくれないの⁉︎」

「文月くんが会長なんか助けるわけないじゃん!」

「日頃の行いを反省する、いい機会ですよー」

「そんな!話が違うわ!」

「美山、ある程度ならなにしてもいいぞ」

「文月くんのためならなんでもやるよ!どうする?殺す?」

「俺の部屋を殺人現場にするのだけはやめて⁉︎」

「それなら、二度と文月くんに見せれない顔にしてあげる」

「なにするつもりなの‥‥‥」


それから数分の間、桜橋先輩の叫び声を聞き続け、顔中落書きだらけの桜橋先輩が完成した。


「こんなの酷いわ!」

「あははは!写真撮っていいですか?」

「ダメに決まってるでしょ!」


まぶたに目を描かれ、オデコのシワやほうれい線をクッキリ描かれ、濃い髭も描かれた顔は美人の美の字もなかった。


「文月くんの携帯に私以外の女の写真が入るなんてダメだよ」 

「あ、はい」

「これじゃお家に帰れないわよ!」

「油性だからしばらく消えませんよ」

「それじゃ双葉くんの家に泊まるわ!」


そしてまた取っ組み合いが始まり、次は美山の顔にも同じような落書きがされた。


「文月くん見ないで!」


ダメだ、笑いを堪えられない!


「こんな顔見られたら文月くんに嫌われちゃう!」

「当然の報いよ」

「これじゃ外出れないし、今日は文月くんの家に泊まる!」

「無理」

「私も絶対泊まるんだから!」

「無理」

「んじゃ会長を殺す」

「どうぞ泊まっていってください」

「ありがとう!」


急に二人が泊まることになり、二人は洗面台で肩を並べて必死に顔を洗い始めた。

仲良いんだか悪いんだか分からない光景だな。


「やっと綺麗になった!」

「私も!」

「これで泊まらずに帰れるな」

「確かに、会長が泊まる必要は無くなったね!」  


美山もですよー。


「私は泊まるわよ。お泊まりは距離を縮める最強イベントらしいじゃない」

「会長が距離を縮める必要ないですよ」

「あるわよ。でも着替えを持ってきたいから一度帰るわ」

「私も勝負下着持って来なきゃ!」

「勝負下着?ふんどしでも巻くのかしら」 

「はい?」

「いいから取りに帰れ!喧嘩するな!」

「はーい!」

「また後で」

「はいはい‥‥‥」


みーやーまーのーしょーぶしたぎ〜⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎勝負下着ってことは見せる気満々ってこと⁉︎見れんの⁉︎エッロい下着見れんの⁉︎

きっと桜橋先輩も勝負下着の意味を調べるに違いない!そしら絶対に可愛い下着を持ってくる‼︎二人を泊めるなら、それくらいの褒美があってもいいよな‼︎


それから二人が戻って来るのを待っている間、母親と父親から、今日は仕事で帰って来ないと連絡があり、若干のめんどくささと、変な期待が頭をよぎる。


そして1時間半後、桜橋先輩がカバンとスーパーの袋とニンジンの抱き枕を持ってやってきた。


「なんでにんじん持ってきてるんですか」

「これが無いと寝れないのよ」


なにそれ可愛い。ポイント高いわ。


「スーパーの袋はなんですか?」

「お泊まりだもの!夜食の食材を買って来るのは当然だわ!」

「おー!よかったです!今日は親がいないので助かります!」


その時、家のチャイムが鳴り、美山はカバンを一つ持って戻ってきた。


「あら美山さん、食材も買わずに来たのかしら。非常識ね」 

「ふ、文月くんの家に泊まれるのが楽しみで忘れてただけ!」


ふむふむ。ポイント高いわ。

それと、桜橋先輩に非常識って言われるのは可哀想すぎる。


「まぁ、これといってすることないから、のんびりするか」

「文月くんが持ってるフィギュア見たい!」

「いいぞ」

「私は家の掃除をしてあげるわ」

「あ、ありがとうございます」


桜橋先輩、泊まるのが決まって色々調べてきてるな。変な方向にいかないといいけど。つか、夏休み初日から体力全部奪われる予感。


それから美山と二人でフィギュアの説明をしながら部屋を歩き回り、しばらくすると掃除機の音も止まり、まな板をトントンする音が聞こえてきた。


「会長、料理してるのかな」

「多分」

「行ってくる‼︎」

「え⁉︎なんでそんな怒った感じで⁉︎」

「会長が作ったものを食べたら文月くんが汚れちゃう。だから私が作る!」

「あ、ありがとう」


美山が階段を駆け下りて行ってすぐ、二人が言い争っている声が聞こえ、俺はめんどくさくてベッドに寝そべりながら携帯アプリをして時間を潰した。


それから何時間か経った頃、美山が笑顔で俺を呼びにきてリビングに行くと、テーブルにはカレーが置かれてあり、二人の顔をうかがった。


「どっちが作った?」

「私だよ!」

「なにを言っているの?カレーも作れない人なんて初めて見たわよ」


美山はそう言われると、ムッとした表情をして椅子に座った。


「にんじんとじゃがいも切ったし」


にんじんとじゃがいも‥‥‥デカいな。

美山って料理できないのか。


「二人ともありがとう。いただきます」

「いただきます」

「いただきます‥‥‥美味しい!」

「なにこの肉!うまっ!」

「A5ランクのお肉を使ってみたの」

「さすが金持ち‥‥‥」

「ねぇ!これおかわりってあります?」

「あるわよ?でも食べ切ってからにしなさい」

「分かりました!」


なんなの⁉︎仲悪いの⁉︎仲良いの⁉︎頼むからハッキリしてくれ!


美山と俺は一回だけおかわりをして、みんなお腹が満たされ、お風呂のスイッチを入れている時に俺は感じた。

美少女が俺の家の風呂に入る‥‥‥今日だけは、一番風呂じゃない方が気持ち的に得なんじゃないか⁉︎

いやいやダメだ!そんな不純なこと考えちゃ!


その時、脱衣所で布スレの音がして振り返ると、タオルを巻いた桜橋先輩が立っていた。


「俺より不純な奴いたわ‼︎なにしてるんですか⁉︎」

「私はシャワーでいいから、先にいいかしら」

「は、はい」


なるべく桜橋先輩を見ないで脱衣所を出ようとすると、扉の鍵を閉められて腕を引っ張られた。


「あ、当たってます!」

「背中流してあげるわ!」

「無理です!恥ずかしくて死んじゃいます‼︎」

「美山さんにバレないか心配しているの?」 

「それもあります!」

「大丈夫よ。さっきカレーを食べている時に美山さんが飲んでいたお水、睡眠薬が入っているの。今頃気持ちよく寝ているわ」

「なーにしてんの⁉︎」

「さぁ、脱ぎましょう!電気をつけなければ恥ずかしくないわ!」

「ひぃ〜‼︎」


無理矢理服を脱がされて逃げられなくなった俺は、必死にリトル文月をタオルで隠してお風呂の椅子に座った。


「やるなら早くしてください!」

「今の双葉くんを見ていると、なんだか不思議な気分になるのだけれど、私は今、すごく愛を感じている気がするわ!」

「それは多分違う感情です!」


シャワーからお湯を出し、桜橋先輩は丁寧に体を洗ってくれ、俺は自分で急いで頭を洗い始めた。

次の瞬間、背中にムニっと生々しい感触を感じ、慌てて鏡越しに後ろを確認した。


「だ、抱きつくのはアウト!」

「こうやって洗うと喜ぶと書いてあったの!それにタオルは巻いているから安心してちょうだい!」

「安心できない!もう無理!」


全力で泡を流してお風呂を飛び出し、リビングでスヤスヤ眠る美山を無視して自分の部屋に入った。


「ちゃんと拭かないと風邪ひくわよ?」

「なんで来るんですか⁉︎」


てか‥‥‥タオルが若干透けてる〜‼︎‼︎‼︎


「桜橋先輩も早くシャワー浴びてください!」

「この後は髪を乾かしてあげなきゃいけないのよ?」

「早くシャワーを浴びるのが愛です!」

「そうなの⁉︎急いで浴びてくるわ!」


アホで助かった‥‥‥


それから美山は全く目を覚まさず、桜橋先輩には親の部屋を使うように言ったが、寝落ちしそうな瞬間、桜橋先輩が部屋に入ってきて目が覚めてしまった。


「なんですか?」


え‥‥‥下着姿じゃね⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎


桜橋先輩は黒くエッチな下着を着て、恥ずかしそうに下着を手で隠しながら無言で近づいてきて、勝手にベッドに潜り込んできた。


「一緒に寝ましょ♡」

「絶対無理!絶対なんかするじゃないですか!」

「なにかってこれかしら」

「むっ!」


桜橋先輩は俺の顔を胸に抱き寄せ、スヤスヤと眠ってしまった。


寝たの⁉︎早くない⁉︎おっぱい凄っ!てか、寝ててこの力ってどういうこと⁉︎おっぱい凄っ!全然離れられない!

それに、にんじん無いと寝れないんじゃなかったの⁉︎おっぱい凄っ‼︎


こんなところ美山に見られたら‥‥‥

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