まさかヤンデレじゃないよな


火曜日の朝、全校集会でみんなが体育館に集まる。

みんなは桜橋先輩がどんな人間なのか分からないから、毎回全校集会には緊張が走る。

教頭先生の毎週変わらない言葉を聞いて、次は桜橋先輩がステージに上がった。


「おはようございます。急ですが、SNSで貴方達のアカウントを拝見しました。私は全てを見ています。これから先も‥‥‥以上です。それでは、全校集会を終了いたします」


テキパキと伝えたいことだけを伝えて全校集会はすぐに終わった。


確かに生徒会長が自分の投稿を見てると思ったら、それだけで同じ学校の生徒の悪口なんて言えなくなる。

ここぞという時は完璧な人だな。


それから教室に戻っていつも通り授業を受け、昼休みになると美山が弁当を持って俺の席にやってきた。


「一緒に食べない?」

「いいけど、さっき桜橋先輩からメッセージ届いてさ」

「なにって?」

「屋上に来てほしいって」

「んじゃ、戻ってくるの待ってるよ!」

「悪いな」


足早に屋上へやってくると、桜橋先輩はベンチに座って、膝の上に弁当箱を乗せていた。


「なにか用ですか?」

「あ!来てくれたのね!」 

「そりゃ来ますよ」

「今日はね、双葉くんにサンドイッチを作ってきたから食べてほしいのよ!」

「俺にですか?」

「そうよ!さぁ、座って!」

「俺、美山と昼ごはん食べる約束してるので、サンドイッチだけありがたく貰いますよ」

「それじゃ意味ないじゃない!」

「なに調べました?」

「よく分かったわね。恋人になるには、弁当を作ってあげて、一緒に食べよって誘うと距離が縮まるって書いてあったの」

「そんな全部教えてくれちゃ、効果ゼロですね」

「双葉くんが聞いたんじゃない!いじわる!それじゃ次よ!」

「ふぇ?」

「はぁ、なんだか暑いわ」


桜橋先輩は制服のリボンを取り、ワイシャツのボタンを外し始めた。


「ちょっとちょっと!」

「涼しい♡」


ブラチラしてるー‼︎‼︎今日は黒ですか⁉︎いいっすね‼︎


「サンドイッチと私、どっちが食べたい?」


桜橋先輩に決まってるでしょ〜‼︎でもここはあえて


「サンドイッチで」

「そっ」


なんの恥じらいもなく、さらにボタンを外し、谷間にサンドイッチを挟んで胸を寄せた。


「お食べ♡」

「いいんですかー⁉︎」 

「好きなだけ食べていいわよ♡」


ダメだ!理性が!欲に負ける‼︎


一歩一歩、桜橋先輩にゆっくり近づいて目の前に立つと、桜橋先輩は恥ずかしさを我慢しているような、男心をくすぐる可愛い表情で上目遣いをしていた。もうダメだ、可愛すぎる。


「さぁ、食べて♡」


その時、屋上のドアがガタッと閉まる音が聞こえ、慌てて桜橋先輩の胸から目を逸らした。


「だ、誰かに見られたんじゃ」

「それは大変ね。でも、双葉くんは乗り気だった。愛を感じられるまでもう少しだったけれど、今日はこの辺にしましょう」

「は、はい」

「あーん!」

「んっ‼︎」


桜橋先輩は、谷間に挟んでいたサンドイッチを俺に食べさせ、ニコッと笑って去っていった。


こころなしか倍美味い気がする。


それから、自販機で水を買ってから教室に戻ると美山の姿は無く、昼休み終了ギリギリまで戻って来なかったせいで、結局一人で弁当を食べてしまった。


その後の授業中、こっそり携帯の電源を入れてSNSを覗くと、美山への悪口が全て消去されていて一安心した時、美山から一通のメッセージが届いていたことに気づいた。

メッセージは『私が助けてあげるから』と、よく分からないものだった。


屋上で見られたの‥‥‥まさか美山か?

桜橋先輩に無理矢理やらされてるって勘違いしたとしたら、美山は今‥‥‥生徒会室。


「体調悪いので保健室行ってきます」

「大丈夫?」

「死にそうです。行ってきます」


適当に嘘をついて教室を出て、急いで生徒会室へ向かった。


生徒会室が見えてくると、生徒会室から美山が出てきて、俺を見るや否や小走りで近づき、そのまま俺の腰に手を回して体を抱き寄せてきた。


「な、なんだ⁉︎」

「もう大丈夫だよ。文月くんを困らせる人はいないよ」

「桜橋先輩になにしたんだ?」


やばい、美山に抱きつかれて心臓がバクバクする!


「文月くんを汚そうとしたからね、私が文月くんのために懲らしめておいたよ!」

「美山、なんか変だぞ」

「変?」

「いつもの美山らしくない」

「いつもの私だよ?」

「いつも抱きついたりしないだろ」

「だって、文月くんは私といてくれる。私と仲良くしてくれる。それは私が好きだからでしょ?」

「は?」

「初めて声をかけた時も、嫌な顔しないで仲良くしてくれた。それだけで私は救われたの。これからは私が文月くんを守るから、本当の私も好きになって?」


なんだ‥‥‥素直に喜べない。美山が怖い‼︎‼︎‼︎


「ちょ、ちょっと桜橋先輩のとこ行ってくる」

「ダメだよ?」


美山はさらに力強く俺を抱きしめ、俺は動けなくなってしまった。


「会長はもう、文月くんには近づかないって言ってくれたから。文月くんも私以外の女の子と仲良くする必要ないでしょ?そもそも、会長からは無理矢理訳の分からないことに付き合わされてたんだから。ね?」

「わ、分かったから、一旦離れてくれ」

「分かってくれてよかった!教室戻ろ?」

「俺、先生に頼まれてプリント取りに行かないといけないんだ」

「分かった。それじゃ先に戻ってるね!」

「おう」


美山の姿が見えなくなるまで見送り、急いで生徒会室の扉を開けた。


「あら、双葉くんじゃない」

「美山になにかされました?」

「いきなり首をしめられそうになったわ」

「え⁉︎」


そんなことがあったのに、桜橋先輩は椅子に座って呑気に紅茶を飲んでいた。


「もう双葉くんと関わらないと約束してしまったけれど、私は思ってしまったわ」

「なにをですか?」

「双葉くんを奪われたくないと」

「それはどういう‥‥‥」

「約束は守らない。それだけよ」

「美山と喧嘩するのはやめてくださいね」

「美山さん次第ね。今、私と双葉くんは付き合っていない。それはちゃんと理解したわ。でも、友達をやめる必要はないでしょ?」

「そうですけど」

「明日から夏休みが始まるわよね」 

「はい」

「夏休みが明けたら、生徒会に入りなさい」

「嫌です」

「これは友達としてじゃなく、生徒会長命令よ」

「‥‥‥入ります!」


生徒会長としての桜橋先輩の命令を拒否するのはリスクがデカすぎる‼︎こんなのずるいよ‼︎


「それじゃ、夏休み明けから二人で頑張っていきましょうね」

「は、はい」


このタイミングで俺を生徒会に入れたのは、どんな意味があるんだ?絶対なにか企んでる‥‥‥


とりあえず桜橋先輩の無事を確認して、教室に戻る途中で授業終了のチャイムが鳴り、何食わぬ顔で教室に入ると、思った通り美山が近づいてきた。


「ねぇ、プリントは?」

「無かった」

「そっか!先生が、文月くんは保健室に行ったって言うからおかしいなーって思ったんだけど、先生の勘違いだったみたい!」

「そ、そうか」


絶対バレてる〜‼︎美山の優しい笑顔が、これほどまでに怖いと感じたのは初めてだ‼︎

もう嫌だ!早く夏休みになれ!


そして‥‥‥夏休み初日、桜橋先輩と美山に絡まれることのない、平和で安心な時間を過ごしていたが、お昼過ぎに桜橋先輩から呼び出しのメッセージが届き、一気にテンションが下がった。

しかも桜橋先輩の家とか‥‥‥まだ写真貼りっぱなしなのかな‥‥‥

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