女はゾンビより怖い


金曜日の夜、明日のことで美山に電話をかけることにした。


「もしもし!どうしたの?」

「明日暇?」

「え!暇暇!」

「ショッピングモール行こうぜ」

「行く!何時集合?」

「千葉駅に13時集合」 

「分かった!楽しみにしてるね!」 

「おう」


これで桜橋先輩と二人きりは回避できた。完璧だ。


そして土曜日当日、千葉駅の外で二人を待っていると、白いワンピースを着た美山が駆け寄ってきた。


「お待たせ!どこのショッピングモール行くの?」


うわ〜、私服の美山可愛すぎるだろ‥‥‥


「文月くん?」

「あっ、まだ決まってない」

「んじゃ適当にぶらぶらしよう!」

「お待たせ‥‥‥何故美山さんが居るのかしら」

「はい?なんで会長が居るんですか?」

「双葉くんとデートの約束をしていたからよ?」

「私聞いてない!」

「言ってない‥‥‥」


てかやばい‼︎桜橋先輩も白のワンピースだ‼︎女子は私服がかぶるだけで喧嘩するとか聞いたことがあるぞ‼︎


「それにしても私服がかぶるなんてビックリね。双葉くん、どっちの方が似合ってるかしら」

「俺に振らないでもらえますか⁉︎」

「文月くん、どっち?」

 

どっちも似合ってるけど、ここは美山にしておこう。リサイクルショップで怒って帰ったことがあるからな。こんなとこで帰られたら可哀想だし困る。


「み、美山かな」

「やったー!」


やべー‥‥‥桜橋先輩、すごい子供みたいに頬膨らまして怒ってる‥‥‥


「それで、どこのショッピングモール行くんですか?」

「駅付近のショッピングモールに行きましょう」

「分かりました」


なんとか三人で遊ぶことに成功した。

後は適当に楽しんで、さっさと帰ろう。


それから少し歩いてショッピングモールの中に入ると、桜橋先輩は周りをキョロキョロした後振り返った。


「ショッピングモールってなにをするの?」

「買い物じゃないですか?」

「別に欲しいものないのだけれど」

「なんでショッピングモールにした⁉︎」

「私、新しい財布買いたい!」

「それじゃ私は双葉くんと違う店に行くわね」

「自然と腕組まないでください!」

「文月くんが迷惑がってるので離れてください」

「私に命令?」

「‥‥‥」


本当に人前だとキャラが変わるなー。美山の前で本性出させるか。


「桜橋先輩、他の人の前だと冷たくなるのやめたらどうですか?」 

「私はいつもこんな感じよ?」

「アーホ、アホアホ、桜橋先輩のアーホ」

「ふ、文月くん!なに言ってるの⁉︎」

「アホ会長」

「‥‥‥む〜‼︎アホじゃないもん‼︎」

「えっ」

「これが桜橋先輩の本性だ。意外と子供っぽし、しかも怒っても怖くないぞ」

「へ、へ〜。意外ですね」

「うるさいわね。早く財布見に行くわよ」

「はーい!」


このまま美山と桜橋先輩も仲良くなってくれれば楽なんだけどなー。


それから二階にある財布とカバンが売っているブランド店に入ると、高級な店に初めて入って固まっている俺をよそに、二人はショーケースに入った財布を眺めて意気投合していた。


「これどう思います?」

「二つ折り派なのね。私もそうなのよ」

「長財布ってかっこいんですけど、カバンの中でかさばっちゃうので」

「分かるわ。こっちの白いのはどうかしら」

「あ!確かにこっちの方が可愛いかもです!」 

「せっかくだし、私も買い替えちゃおうかしらね」

「会長はどれにするんですか?」

「私はこの黒いのがいいわね」 

「し、渋いですね。店員さん呼んできますね!」

「ありがとう」


こんな高級店で数分で買うものを決めるとかありえない‼︎後悔したらどうすんだよ‼︎お金入れるための物にお金かける精神が俺には理解できないわ‼︎

1万円貯めるために1万円の貯金箱買うみたいなもんじゃん!


二人が財布を買って三人で店を出ると、美山はさっそく財布の中身を新しい財布に移し始めた。


なんだその諭吉様の数は‼︎


「美山が買った財布、幾らしたんだ?」

「5万!」

「‥‥‥桜橋先輩は?」

「12万よ」

「‥‥‥ちょっと頭クラクラしてきたんで帰りますね」

「え⁉︎大丈夫⁉︎」

「ちょっと薬買ってくるわね」

「冗談だから!いや、クラクラはしたけど大丈夫だから!」

「もう、心配させないでよー」

「ごめんごめん」

「それじゃ、次どこ行く?」

「買うものないなら、近くのゲーセンでも行く?」

「行ってみたいわ!私行ったことないのよ!」

「んじゃ行きますか」


ショッピングモールを出てゲームセンターにやってくると、桜橋先輩は両耳を押さえて顔をしかめはじめた。


「会長?」

「桜橋先輩、聞こえてないぞ」

「よし!バーカ!いつも偉そうにして!文月くんに近づくな!」

「そうだそうだ!」


すると、桜橋先輩は耳から手を離して、冷たい目で美山を見つめた。


「す、すみません!あれ面白いですよ!」

「ならやってみようかしら」

「はい!」


美山は上手く誤魔化して、個室になっているゾンビゲームに桜橋先輩を連れて行き、桜橋先輩を一人で個室に入れた。


「ふぅー」

「怖いのって分かってるのか?」

「入る寸前、可愛い動物が出てくるって言っといた!」

「後で怒られるぞ?」

「だって、怒っても怖くないし!」

「さっきビビってたくせに」

「あ、あれはしょうがないよ!目が怖かった!『殺すぞ』って目が言ってたよ!」

「いや、あの人あれが真顔だから」

「きゃ〜‼︎‼︎‼︎助けて‼︎」


桜橋先輩の叫び声が聞こえ、慌てて黒いカーテンを開けた。


「どうしました⁉︎」

「うさぎさんかピョンピョン可愛いゲームかと思ったのに!大怪我した人間が!」

「普通お金入れる前に気付きますから!あとゾンビです!」 

「どうにかしてちょうだい!」

「銃持ってください!」


桜橋先輩の隣に座り、百円を入れて途中参加で二人プレイに切り替えた。


「ちゅんと撃ってくださいよ!」

「うさぎピョンピョンがいい!」

「なに可愛いこと言ってるんですか!」

「ちょっと文月くん!なにイチャイチャしてるの⁉︎」

「は⁉︎ゾンビ殺してイチャイチャとか美山もアホになっちまったのか⁉︎」 

「かっちーん」

「こ!」

「会長!私怒ってるんですよ⁉︎なに怯えながら下ネタぶっ込んでるんですか!」

「なにが下ネタよ!チンは愛を感じるための最強の物なのよ!私だっていつかは双葉くんとチンするんだから!」

「なーに言ってんのー⁉︎」

「はー⁉︎文月くんがそんなことするわけないじゃないですか!文月くんは純粋で優しんですから!」

「分かってないわね!双葉くんは私と愛を育む約束をしているの!それくらいして当然よ!」

「そんなの⁉︎文月くん‼︎」

「そうよね!双葉くん‼︎」


女の争いって、ゾンビより怖い‥‥‥そもそもなんで美山はそんなムキになってんだよ。


「やらない、うるさい、黙れ」

「ご、ごめんなさい」 

「悪かったわね」 

「せっかくゲームセンター来てるだから楽しもうぜ?あと、ゲームオーバーになった」

「次は怖くないやつがしてみたいわ」

「本当にうさぎピョンピョンのゲームありますよ」

「それやりましょう!」


美山の案内でうさぎピョンピョンとかよく分からないゲーム機に案内されると、巨大なスクリーンの前にスナイパーライフルが置かれてあり、嫌な予感がした。


「これも銃だけど、本当に大丈夫かしら」

「うさぎが跳ねてくるので、それで狙うんです。当たるとうさぎが懐きます」

「それはいいわね!やってみるわ!」


タイトルに【ハンター】って付いてるけど‥‥‥


桜橋先輩が嬉しそうにお金を入れて銃を構えると、遠くで1匹のうさぎがピョンピョン跳ねていて、照準を合わせると、うさぎがアップにされた。


「えい!」


血吹き出した〜‼︎‼︎‼︎悪趣味‼︎


桜橋先輩は震えた手でスナイパーライフルを置き、真っ青な顔で振り返った。


「私は‥‥‥一つの尊い命を奪ってしまったわ」

「ゲームですから!」

「頭を狙えって書いていたのに、体を狙ってしまったから‥‥‥うさぎさんは‥‥‥」

「多分頭の方がやばいから!」


そんな桜橋先輩を見て、美山も罪悪感を感じたのか、慌てて桜橋先輩をUFOキャッチャーコーナーに連れて行った。


「こ、このぬいぐるみ可愛いですよ!うさぎですよ!」

「うさぎ‥‥‥私が‥‥‥殺した‥‥‥」

「み、美山、うさぎはやめよう」

「それじゃ、にんじんの抱き枕とか!」


謎のチョイス‼︎なぜそれを選んだんだ‼︎


「可愛いわ!」


可愛いの⁉︎


「頑張って取りましょう!」

「そうね!」

「頑張ってくださーい」


桜橋先輩は、さっそく100円を入れて三本爪のアームでにんじんの抱き枕を掴むが、取り出し口に行く前に景品を離してしまった。


「この機械、やる気がないわね」

「これ、確立機なので設定された金額までやらないと取れませんよ」

「なによ、そのつまらないシステム」

「たまに一回で取れる時もあるので、完全に運ですね」

「美山さん、店員さんを呼んできてちょうだい」

「は、はい」


まさか文句でも言う気か⁉︎常識の知らない金持ちはこれだから‥‥‥


美山が店員さんを呼んでくると、桜橋先輩はにんじんの抱き枕を指差して店員さんを見つめた。


「これ、設定額は幾らかしら」

「すみません、それは教えられないんですよー」

「その額で買うわよ」

「それはちょ‥‥‥」


あれ?店員さんの様子が‥‥‥進化でもするのか?


「四大財閥の一つ!桜橋グループ‼︎」

「あら、知っていてくれて嬉しいですわ」


なに⁉︎四大財閥⁉︎なにそれ怖い‼︎めっちゃ金持ちってことだよね‼︎


「え、えっと、売ることはできませんので、アームを強くいたします!」

「そっ。ありがとう」

「いえいえ!どうか本店をご贔屓ひいきに!」

「そうね、気に入ったらまた来ますわ」

「設定いたしました!どうぞプレイしてください!」


桜橋先輩はもう一度プレイしたが、一本のアームが景品に刺さり、上手く持ち上げることができなかった。

そして頬を膨らませて振り返ると、店員さんは慌てて頭を下げた。


「申し訳ございません‼︎」

「いやいや、今のは桜橋先輩が下手なだけですよ」

「下手?どこがよ」

「全てが」

「それじゃ双葉くんがやってみなさい」

「分かりました」


店員さんの反応的に、絶対一発で取れる設定にしてあるはずだ。しっかり掴めば絶対に取れる。


結果、思った通り一発で取れてしまった。


「すごいわ!」

「お、おめでとうございます!」


そう言って、店員さんは逃げるように去っていき、桜橋先輩に景品を渡すと、ぎゅーっと抱きしめて嬉しそうに頬をすりすりし始めた。


「これは双葉くんからのプレゼントね!なんだか嬉しいわ!」

「これが友達だからできることの一つですよ」


そう言うと桜橋先輩は、何か初めての感情が芽生えたかのような表情で俺を見つめ、美山はムッとした表情で俺の服を引っ張った。


「な、なんだよ」

「私にも取ってよ」

「えー」

「お金出すから!」

「んじゃ自分で取れよ」

「違うの!取ってもらいたいの!」

「なにが欲しんだよ」

「大根の抱き枕」

「はいはい、分かりましたよ」


大根の抱き枕欲しがるとか、どんな趣味してんだよ。


それから2200円もかけて大根の抱き枕を取り、美山も嬉しそうに抱き枕を抱きしめた。


「それ袋に入らないし、持ち帰るの恥ずかしくないか?」

「なんで?大根可愛いよ?」

「にんじんも可愛いわよ?」

「そ、そうですね」


分かんね〜‼︎どこが可愛いの⁉︎ただの野菜じゃん‼︎あれか⁉︎野菜に『さん』付けするタイプのウザい女と同じ思考か⁉︎


「次どうする?」

「適当にメダルゲームでもするか」

「してみましょ!」


まずは一人千円ずつメダルを買い、最初は三人で遊んでいたが、途中から桜橋先輩の姿がなくなっていた。


「桜橋先輩どこ行った?」

「楽しそうに違うゲームしに行ったよ?」

「本当子供っぽいな。探してくるわ」 


桜橋先輩を探しに行こうと立ち上がった時、美山は俺の服を指先で掴み、美山を見ると顔が少し赤くなっていた。


「どうした?」

「い、行かないでほしいかな」

「‥‥‥ん?」


なーんだその表情‼︎もしかして美山って俺のこと好きだったりする⁉︎でもなんで⁉︎


「二人で遊ぼ?」

「お、おう」


謎の緊張感の中、椅子に座り直し、しばらくお互いに無言でメダルゲームを続けた。


「ふ、文月くん」

「ななななんだ?」

「私のこと、どう思ってる?」

「どうって、か‥‥‥可愛い」


美山は耳を真っ赤にして俯いてしまった。


俺はなに言ってんだ〜‼︎‼︎‼︎


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