谷間の汗


土日は桜橋先輩と美山に貰ったフィギュアを眺めながら平和に過ごし、月曜日、さっそく下駄箱前で桜橋先輩が近づいてきた。


「おはよう」

「おはようございます。さよなら」

「ちょっと来なさい」

「はーい」


みんながいる前では真面目モードだけど、多分怒ってはいない。

俺はそのまま生徒会室に連れて行かれ、生徒会室に入った瞬間、首に痛みを感じ、次に目を開けた時は何故かソファーの上に横になっていた。


「おはよう」

「んっ⁉︎ん?」


俺は手足を縛られ、桜橋先輩に膝枕をされていた。


「双葉くんが悪いのよ?頼んでもなにもしてくれないから、今日はちょっと強引に。ちょっと首を叩いたらすぐ気絶しちゃうなんて」

「なにする気ですか⁉︎」

「テーブルを見なさい」

「‥‥‥はぁー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」


テーブルの上には、山盛りのグリンピースが置かれていた。


「私を愛すと言うまで食べさせるわ」

「ちょっと待ってください!」

「なにかしら?」

「あれです!この膝枕も、愛し合ってる2人がやることです!今愛を感じてください!」

「そうなの⁉︎」

「はい!」

「それじゃ、グリンピースを食べさせれば完璧ね!」

「どーしてそーなるー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

「だって、あーんするといいって書いてあったもの。あ〜ん♡もいいらしわ」

「変な声出さないでくれます⁉︎」

「男性は女性がこういう声を出すと喜ぶらしいわよ?自分が出させているという優越感?だったかしら」

「そうかもしれないですけど、俺達がそんなことしたら、愛じゃなくて遊びになっちゃいますよ!」

「あら双葉くん!双葉くんは私に本気ってことね!」

「はい!もうそうです!それでいいので手足のガムテープ剥がしてください!」

「そうね!今剥がすわ!」


あー、桜橋先輩がこんなにアホに育ってしまった理由はなんだ。ちゃんと話聞いてみたほうがいいかもな。


「いてっ!優しく剥がしてください」

「そうだったわ!敏感なところは優しくだったわね!」

「別に脚は敏感じゃないです。あと、桜橋先輩が勉強してるサイトって、絶対に大人向けですよね」

「そんなことないわよ!」

「へー」


ガムテープを剥がしてもらい、ソファーに座ってグリンピースを眺めながら聞いた。


「桜橋先輩って、めちゃくちゃお金持ちだと思うんですけど、家は普通の家ですよね」

「そうね」

「なにか理由があるんですか?」

「私の両親は昔から海外で働いていて、私は日本に残ることに決めたの。だから一人暮らしだし、普通の家で充分なのよ」

「いつから一人暮らしなんですか?」 

「高校生になってからよ?それまではお父さんが雇った人が私の面倒を小学生の頃から見てくれていたの」

「なるほど」

「どうしてそんな質問を?」

「いやー、なんか、桜橋先輩が愛を欲しがる理由が分かった気がします」


きっと、愛を知らずに育ったからなのかな。


「きっと双葉くんが思ってることは間違ってないと思うわ。私は愛のない環境で育ったから、なんていうか‥‥‥寂しいのよ」

「やっぱりですか」


桜橋先輩はアホはアホだけど、なんか憎めなくなっちゃったな。アホだけど。


「桜橋先輩はまず、友達を作りましょう」

「無理よ。みんなの前だと、生徒会長としての威厳を保たなきゃいけないもの」

「それじゃ、俺と友達になります?」

「え?私達は婚約者よね」

「それだからダメなんですよ!人との関係には段階ってものがあるんです!そもそも生徒会の人は⁉︎桜橋先輩だけでやってるんですか⁉︎」

「そうよ?誰かとやるより効率がいいもの」


でしょうね‼︎誰かと協力とかできなそうだもんね‼︎


「そうだわ!双葉くんが生徒会に入ればいいのよ!」

「嫌です」

「なんでよ!」

「いろんな意味で疲れそうなので」

「私から毎日愛を受け取れるわよ?」

「その愛が間違いだらけなので」

「でも次は大丈夫よ!ほら」

「なっ⁉︎」


桜橋先輩は俺を抱き寄せ、俺の顔を包容力のある胸に押し当てた。


「愛をあげるから。双葉くんもちょうだい」

「ちょっ、あのっ」

「なぜ前屈みになっているの?」

「男の宿命です‼︎」


その時、生徒会室の扉が開く音が聞こえて、心臓が止まりかけた。


「失礼します」

「あら、美山さんじゃない」

「美山⁉︎」

「なっ!なにしてるんですか!」

「愛し合っているのよ?」

「で、でも2人は付き合ってないんですよね?」

「そうね。それがなにか問題?」

「問題しかないです!」

「そうよね。美山さんには双葉くんしか居ないものね。貴方の大切な逃げ場だと思うけれど、双葉くんは私のよ」


美山の逃げ場?なんの話してんだ?それにおっぱい凄いなー。じゃなくて、なんだこの状況!まったく離してくれないし!


「文月くんはどう思ってるの?」

「おふおふふええふお」

「なに?」


強く抱きしめられて喋れね〜‼︎


「な、なんだか、双葉くんが喋るたびに息が当たって‥‥‥変な」


感じてませんよね⁉︎変な勘違いするなよ⁉︎


「やっぱりこれが愛なのね!」


もうダメだ〜‼︎快楽を愛と勘違いしちゃったよ〜‼︎‼︎‼︎


「しばらく愛を感じたいから、用がないのなら出て行ってくれるかしら」

「‥‥‥」

「その目はなに?」


え、なに?どんな目してんの?


「逃げ場とかじゃないです。文月くんは大切な友達です」

「それじゃ、なぜ美山さんから文月くんに声をかけたのかしら」

「一人で可哀想だったからです」


美山はなんて優しんだ!にしても、胸に汗かいてきてますよ⁉︎ワイシャツに染みて密着度がヤバいんですけど‼︎


「美山さんが一人が嫌だっただけよね」

「どこまで知ってるんですか」

「私はこの学園の生徒会長よ?学園内のことなら耳に入るわよ。大変ね、双葉くんにも気付いてもらえず、毎日いじめと戦うのなんて」

「いじふおふおふ!」


喋ろうとすると強く抱きしめられて喋れない。てか美山がいじめられてる⁉︎そんなとこ見たことないぞ!‥‥‥いや、机に顔を伏せて、見えてなかっただけなのか?


「分かってるなら、なんでなんにもしてくれないんですか?生徒会長ですよね!」

「助けてほしいの?ならお願いしなさい」

「‥‥‥結構です‼︎文月くん、行くよ!」


美山に無理矢理に桜橋先輩と引き剥がされ、腕を引っ張られて生徒会室を出た。


「美山」 

「‥‥‥」

「美山!」

「なに?」


美山は足を止めて振り返る。


「いじめられてるって本当か?なんで言わなかったんだよ」

「迷惑かけたくなかったの」

「どんなことされてるんだ?」

「典型的なやつだよ。物盗まれたり、SNSで悪口書かれたり」

「マジか‥‥‥」

「文月くんも悪口書かれてるのに、全然動じなくて凄いよね」


え、待って?俺も書かれてんの?初めて知ったんですけど。あー、泣きたいなー。


「ま、まぁな」

「それに、周りに流されないで私と仲良くしてくれるし、すごい優しい」

「そ、そうか」


いじめられてたの知らなかったなんて言える空気じゃねぇ‼︎


「こんな私と仲良くしてくれるし」

「そりゃ、美山は優しいからな」

「文月くんは会長が好きなの?」

「前にも言っただろ、さっきのも無理矢理だって。それと、いじめのことは気にするな。桜橋先輩に頼んで、なんとかしてもらうから」

「やめて!会長だけには頼まないで!」

「なんで⁉︎」

「なんとなく、なんか嫌」

「分かったよ。とにかく教室戻ろう」

「うん」


今日からしばらくは机に顔を伏せるのはやめて、美山を見といた方がいいな。


それから授業中も休み時間も美山を見ていたが、これといって、いじめらしいことは起きなかった。

そして放課後になると、美山はニコニコして近づいてきた。


「ねぇねぇ!今日ずっと見てたでしょ!」

「あー、うん」

「どうして?ねえ、どうして?」

「なんとなく。なんでそんな嬉しそうなんだよ」

「別に〜!嬉しくないもーん!」


めっちゃ嬉しそうじゃん‼︎‼︎‼︎


「双葉くん。帰りましょ」

「え」


桜橋先輩はまた教室にやって来て、みんなが見ている前で堂々と腕を組んできた。


「か、会長!今話してる途中なんですけど!」

「ごめんなさいね。一緒に帰る約束をしていたの」

「してませんけど⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎ちょっとちょっと!」


腕を組まれたまま教室を出て、何故か一緒に帰ることになってしまい、一緒に学校を出た。


「桜橋先輩!教室には来ないように言いましたよね!」

「二人で帰ると愛が芽生えやすいって記事があったの!」 

「このアホ!」

「アホじゃないわよ!」

「アホだよアホ!」

「もう!なんでそんなこと言うのよ!」

「アホだからですよ!」

「もうおっぱい舐めさせてあげない!」

「舐めてませんけど⁉︎」

「ならなんであの時、私のワイシャツが湿ってたのよ!」

「桜橋先輩の汗ですよ!」

「え、あっ‥‥‥臭くなかったかしら‥‥‥」

「いい匂いしかしませんでした!」

「ならまたしましょう!」

「断る‼︎」

「なんでよ!」


もう、本当に疲れる。にしても美山大丈夫かなー。今頃酷いことされてないといいけど。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る