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──雲の欠片さえ浮かんでいない、ただ只管な青空が黒く罅割れる。
──視界を占める無数の亀裂から、闇と見紛う濃密な靄が噴き出す。
「なんだァ……?」
悪意の塊にも似た、しかし悪意よりも澱んだ、名状し難い何か。
強いて似た存在を挙げるなら、ハガネの『エンドギフト』。
触れた全てに終焉を齎す、スキルとは別の起源を持つ異能。
けれど。アレよりも遥かに濃く、遥かに昏く、遥かに広大で、遥かに強大だ。
全容を掴めない。完全索敵領域が触れているのに、真髄へと至れない。
リシュリウと同じく、脳が理解を拒んでいる。
〈半端な端末。未熟な果実。よもや斯様な有様で、
淡々と耳朶に響く声。
つい数秒前までの、抑揚が無さ過ぎて聞き取り辛かった語調とは明らかに違う。
本体の降臨とやらが、リシュリウに変化を与えたのか。
〈……貴方達の抵抗など、元より無意味だった〉
空の罅は瞬く間に広がり、その向こうに在るモノの姿が明らかとなって行く。
尤も、俺のちっぽけな脳味噌で正しい認識が出来ているかは、甚だ疑問だが。
〈カタストロフが最終段階に入った時点で、既に滅びは確定事項。端末を降したところで結末は覆せない。早いか遅いか、食われるか踏み潰されるかの差でしかない〉
取り敢えず、腕の中で震えるリゼを落ち着かせるべく、髪を撫でた。
〈この世界をロクに味わえぬまま引き上げるのは、ひどく残念ですが……どちらにせよ貴方のチカラは手に入る。ええ、ええ、それで良しとしましょう〉
もうじき次元の境界を破るだろうアレと戦う──のは無理だな。
強いとか弱いとか以前の問題。恐らく顕現を果たした瞬間ゲームオーバーだ。
あの存在を受け止められるだけの容量と強度が、俺達の世界には無い。
来てしまったら終わり。まさしくフォーマルハウトの言ってた通り。
〈ふっ、ふふっ……ふふふっ……あははははははははっ! 無駄な努力、御苦労様!〉
空間を揺さぶる振動と併せ、反響する勝鬨の笑い声。
てか、一切説明無く同じ光景を見てる筈のヒルダと五十鈴は流石に可哀想だな。
メッセージを送ってやろうにも、腕輪型端末はスクラップになったし。
「んー」
…………。
もしアレが殴り合える相手だったら、きっと何があっても使わなかった。
が。どう足掻こうと戦いにもならん輩になら……構わんか。
「ハハッハァ」
或いは一生、隠し球のままかとも思っていたが、どうやら大一番で訪れたみたいだ。
「豪血──『深度・参』──」
とっておきの裏技を、御披露する時が。
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