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「こんなもんか」
肉体の再構築終了。
やっつけ仕事で中身テキトーだが、細かい部分は後で構わんだろ。
肺が四つあっても胃が三回転半ばかり捩れてても、人間そうそう死なない。
「……つーきーひーこー」
俺の名を呼び、よたよた寄って来るリゼ。
水面を歩く体力すら危ういのか、膝近く浸かった状態で抱き着かれた。
「お腹すいた。喉かわいた。お風呂入りたい。つかれたつかれたつかれたつかれた」
「あーあー分かった分かった」
圧縮鞄から
ちょうど最後の一本。運の良い奴め。
「豪血」
リゼを姫抱きで支えつつ識覚を広げ、五十鈴とヒルダの様子を検める。
あっちもあっちで二人ともボロボロだが、命に別状は無さそうだ。
「しかし四人揃って大金星とは、流石に出来過ぎじゃねぇか? 思い返せば全員、妙に相性の良さそうな組み合わせで分かれた気がするぞ」
「そ」
俺に気付かせずイカサマを敢行、か。
腕の中の第一容疑者を見下ろすと、隠す気も無いらしく、ちろっと舌を出された。
こいつめ。別に責めたりせんけども。
ドラゴンとの戦いは実に楽しかったし、そもそも悪いのは見抜けなかった俺の方だし。
閑話休題。
「……祭りも終い、か」
寂しいもんだ。
それに、こう、ちょっぴり不完全燃焼。
「良い映画もエンディングが尻窄みだと、読後感がなぁ」
殺風景な階層を唯一彩る、飾り気ゼロな巨木の根本に臥したリシュリウ。
不抜の剣が持つ異能なのか、あまりに鋭利な切り口を起点とし、崩れて行く肢体。
息も絶え絶えで、ここからの巻き返しを望むのは流石に酷か。
「窮余の一策。花火大会ラストの四尺玉みたいなやつが、ドカンと欲しかったんだが」
「アンタも割と死にかけなのに、よく言えるわね……」
呆れた様子で、リゼが溜息。
何を仰る。災難てのは畳み掛けるもんだろうよ。
「はでな、さいごが……おのぞみ、ですか?」
掠れた呟きが鳴り渡ったのは、そんな頃合。
「で、あれば……りくえすとに……こたえて、あげましょうとも」
半ば崩れたリシュリウの腕が伸ばされる。
その手指が向かうのは、巨木の幹から一本だけ伸びる枝の先。
世界の理とやらが詰まった、シンギュラリティ・ガールズの奮闘により未だ完熟を遂げていない、青褪めた果実。
──フォーマルハウトの言葉を、思い出す。
「っ嘘、アイツまだ……!!」
リゼが咄嗟に
俺も立ち位置が悪く、リシュリウの首根っこを押さえるには、一歩だけ遠い。
ぽとりと、奴の掌上に果実が落ちる。
そして。ひと口、齧り取った。
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