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「せかいとは、ひどく、もろいのです」


 斬られる度、斬り返す。


「うかつに、ほんたいで、のりこめば。たいらげるまえに、こわれてしまう」


 突かれる度、突き返す。


「ゆえに。わたしという、たんまつが、さきんじる」


 が。斬っても突いても、負債を重ねるのは俺ばかり。


「だんじょんを、ばらまき。ことわりを、うばい。かじつを、そだてる」


 此方が与えたダメージは、紙を剥がすかのように無かったものとなる。


「あの、かじつは。このせかいの、ことわり」


 致命傷を避けるだけで手一杯の現状。


「じゅくした、かじつを、くらい、ことわりを、りかいし──ほんたいを、いざなう」


 視覚さえ潰しちまえば、魔眼も『ウルドの愛人』も纏めて封じちまえるんだが。


「そのための、こうていこそが、かたすとろふ」


 とは言え、そんなもん向こうとて百も承知。

 現に先程の一撃以降、眼球への攻撃だけは徹底して捌かれる。


「……しょうじき。めんどう、なのですよ。とても、とても」


 肺が片方やられた。

 呼吸法を変え、対応する。


「こんかいは、とくに、じゃまが、おおかった」


 左脚の腱と神経が死んだ。

 考えるより先に削ぎ落とし、その分だけ身を軽くする。


「みらいの、ちしきを、もたらした、ふぇりぱ・ふぇれす」


 傷が腐る。

 腐肉を毟る。


「わたしを、いちど、ころしかけた……きるがみね、ほうじ」


 血が腐る。

 腐血を棄てる。


「やつらさえ、いなければ。にじゅうねんで、ことたりたものを」


 心臓が停まる。

 胸に拳を叩き付け、再起させる。


「ほんとうに、めんどうでした」


 いやはや、参るぜ。

 一瞬で構わんから邪視を断てれば、幾らか打つ手もあるんだが。


「けれど。あなたの、かんぜんさくてきりょういきが、てにはいれば、はなしもかわる」


 死の息遣いが耳元で聞こえ始めた。

 バックミュージックには丁度良い。


「せかいの、ことわりすら、しょうあくする、しきかくが、てにはいれば──もう、かたすとろふを、もよおす、ひつようなど、なくなる」


 しかしペラペラと口数の多い女だ。

 悪いが俺ぁ全く聞いちゃいないぞ。


「あのとき、たべこぼした、すべてを。すぐにでも、たいらげられる」


 左半身が動かん。

 ま、どうせ腕も脚もトんでるし、そんな変わんねぇか。


「けっして、いえない、この、うえも。きっと、みたされる」


 十三手。

 あとそれくらいで、たぶん死ぬ。


「××××。かわいい、かわいい、わたしの、こ」


 そうなる前に、リシュリウを仕留める。


「あなたこそ、さいごの、きょうえんの、ひきがね」


 成功率は……甘く見積もってコンマ五パー前後、てとこか。


「わたしの、ために、ありがとう」


 上等、上等。


「ははの、たもとに、かえりなさい」


 最終局面と洒落込もうぜ。






「──あァ?」


 跳躍間際で、足を止める。


「くそっ、マジかよ」


 いざクライマックスって盤面だったのに。


「時間切れか」


 概算よりも、だいぶ早い。

 どうやら急ぎ足で向かって来た模様。


「残念至極」


 あと少し、ゆっくりしてれば良かったものを。






「詰みだ」


 俺とリシュリウの間に──飛来する斬撃が、割り込んだ。





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