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「『しんど・に』」
おもむろに『豪血』の深度を上げたリシュリウが、回転斬りの要領で水面を薙ぐ。
ま、出来るだろうとは思ってたよ。
「シャアッッ!」
剣戟に巻かれ、生ずる波涛。
此方も剣を振るい、爪牙が如し飛沫を、残らず払い落とす。
その間隙を突く形で、横合いから斬り込まれた。
「『深度・弐』」
咄嗟に『鉄血』のみ深度を上げ、前腕で受け止める。
やや押し負けつつも不足分は技量で補い、拮抗を保つ。
「──ああ。ああ、ああ、××××。かわいい、かわいい、わたしの、こ」
何故か一部分、ノイズで潰れた口舌。
恐らく俺の名を呼んだのだと思われるが……。
「ハッ。寄生虫まがいの分際で母親気取りとは、笑っちまうね」
「ひどいことを、いうのですね。わたしは、こんなにも、あなたを、あいしているのに」
哀しげな表情を作り、薄っぺらい言葉を吐き出すリシュリウ。
愛情なんて抜け落ちたような精神構造のくせに、よくもまあ、いけしゃあしゃあと。
「ところで。どうしてとは、おもいませんか?」
唐突なクエスチョン。
なんのこっちゃい。
「あおいちが、しねば、そのちからが、わたしに、やどる。そう、いいましたね」
言ってたな。
「あなたは、まだしんでいない。なのに、わたしは、あなたの、ちからを、つかえる」
不思議だな。
「……どうでも、よさそう、ですね?」
「ああ」
首肯と併せ、リシュリウの下腹部へと膝蹴りを突き刺す。
幾つか内臓が弾ける感触。僅かに浮き上がる肢体。
追撃を図るも、バックステップで紙一重届かず。
「ほんとうに、いささかの、ちゅうちょも、ありませんね。このうつわとは、したしい、あいだがら、だったでしょうに」
それはそれ、これはこれ。
人間、重要なのはガワよりも中身で御座候。
「──そう。このうつわには、あなたと、ふかい、つながりがある」
押し寄せる四百の連斬。
余さず捌き、カウンターで右肩に掌底を当て、関節を砕く。
「このうつわは、あなたのすきるで、しのうんめいを、くつがえされた」
しかし、過去が差し替わる。
向こうは砕けた肩も潰した内臓も健在を取り戻し、一方で俺の身体には無数の切創。
「あなたの、からだには。このうつわが、つむいだ、いとが、かよっている」
面白い。
暖簾に腕押しとは、まさしく現状を指す言葉。
「そのつながりこそが、これを、あらたなうつわに、えらんだりゆう」
苦境、困難、理不尽、不条理。
そうした圧倒的ネガティブこそ、挑む甲斐がある。
「このうつわに、わたしがおさまることで、いっそう、つながりは、つよくなる。おかげで、あなたのしを、またずとも、あなたのすきるを、あつかえるのですよ」
あ、ゴメン。後半聞いてなかったわ。
…………。
それにしても。俺との間に深い繋がり、か。
「かろろろろろ」
不味い、よな?
そいつは不味い。実に不味い。
「ちっ」
甚だ不本意だが、どうやら速やかに決着をつける必要がありそうだ。
──何もかも、詰んでしまう前に。
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