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攻撃は軽い。
防御は脆い。
遅さと速さを両立させた厄介極まる剣技に至っては、見る影も無い。
完全索敵領域ですら看破能わぬ得体の知れなさこそ健在なれど、そも今のリシュリウからは、以前のような本能を揺さぶる恐怖も寒気も感じられない。
正味、どうやってフォーマルハウトを降せたかの時点で分からん。
あ、いや。そうか『ウルドの愛人』か。
にしたって、この異様な弱体化ぶりは一体……。
「ふふっ」
脳髄を引っ掻く、薄気味悪い音色の含み笑い。
細められた異彩の眼差しが、俺を見遣る。
「よわいのは、とうぜん、でしょう? このうつわは、しょせん、ただの、しょうじょ、なのですよ?」
それに、と滑舌が続く。
「いぜんの、うつわには。かこ、せんねんちかくで、たいらげた、すうひゃくの、せかいで、かきあつめた、すうまんにんぶんの、ちからが、やどっていましたから」
……数万人分の力?
「わたしという、たんまつは。あらたな、せかいに、おりたったさい、ななじゅうななにんに、あおいちを、うえつけられる」
青い血。
事象革命以降、ごく稀に生まれるようになった特異な血液型、タイプ・ブルー。
「せいご、なのかいないの、とくべつな、さいのうを、もった、あかごたち。えらびに、えらびぬいて、わたしの、いとしごに、そめあげ、つながりを、つくる」
タイプ・ブルーには才人が多いって話は、折に触れて聞く。
だが、どうやら前提が逆だったらしい。才ある者の血を青く染めていたのか。
「あおいちが、しねば。あおいちの、もつ、すべての、ちからが、たんまつに、やどる」
随分、気の長いプラン。
少なくとも、俺は真似しようとは思わん。あらゆる意味で。
「けれど。ひとつの、うつわに、おさまる、ちからは、げんかいが、ある。けいねんれっかも、あわせて、ていきてきに、とりかえなければ、ならない」
気も長けりゃ話も長いな、コイツ。
「そして。うつわを、とりかえたら、それまでの、ちくせきは、りせっと、される」
「あァ?」
待て。ちょっと待て。リセット?
流石に今のは聞き捨てならんぞ。
「そんなザマで俺の前に立つなんざ、舐め腐ってんのかテメェ」
返答次第ではキレるかも知れん。
「……ふっ、ふふっ……ふふふふふっ……あははははははははっ!」
唐突な爆笑。
キレそう。
「く、ふふっ、ふふふっ……ああ、ああ、ごめんなさい、ね? あなたを、ばかにしている、わけじゃ、ないの」
暫く笑い転げた後、目尻に浮かんだ涙を拭い、そう告げるリシュリウ。
馬鹿にしてなきゃ、なんだと仰るのか。
「あなたを、ころす、さんだんも、もたず、うつわを、とりかえたり、しませんよ」
「……ほう?」
つまり何かしらの策、或いは奥の手があると。
成程成程、それはそれは。
「いいね」
そう来なくっちゃな。
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