778・Rize
ヨグ=ソトースの姿こそ見定められずとも、滲み出る力の多寡は大凡掴める。
馬鹿げた熱量。地球全土のエネルギーを掻き集めようと、足元にも及ばない筈。
加えて、性質も極めて異彩。
肉体なのか霊体なのかさえ曖昧。あれでは真っ当な手段で攻撃を当てることも難しい。
奴に対する認知そのものを脳が拒むなら、恐らく五十鈴の魔眼も無効化されてしまう。
「下調べしといて良かった」
討伐不可能指定クリーチャー達の情報は、前々から調べられる範囲で仕入れてた。
幸いにして、クレス大叔母様というツテもあったし。
「てか普通、こんなのやって当然なのよね」
徒党を組み、倒すほど残兵が強化される蚩尤には、戦闘手段の多いヒルデガルドを。
純粋な膂力と生命力で怪物の頂点へと立つドラゴンには、同ジャンルで抗える月彦を。
無数の異能を操るゼウスには、その大半が封殺出来る五十鈴を。
そして。一撃を受けるまで動かないヨグ=ソトースには、一撃で斃せる私を。
……とは言え、半ば焼け石に水。相手は生きた恒星にも等しい、怪物中の怪物揃い。
ジャンケンに際してイカサマを組み、口八丁で上手く適材適所へ振り分けても未だ死ぬ確率の方が遥かに勝る、ゲームバランス崩壊した無理ゲー。
や。そも相性云々以前の話、ごく僅かでも勝算を弾き出せる時点で異常なんだけど。
ヒルデガルドも五十鈴も、月彦とは別の意味で人間やめ過ぎ。
呪詛を注ぐに連れ、酷い貧血に似た強烈な目眩と吐き気、倦怠感が纏わり付く。
「しんど……」
四ヶ所に断絶領域を張るべく、立て続け四度『呪胎告知』を使った。
空間歪曲で食事の消化吸収を早め、幾らか補填したものの、体力までは戻らない。
正直かなりギリギリ。栄養失調起こしそう。
立ってるのも辛い。こんなことなら、もう少し積んでおけば良かったかも。
でも五キロ以上増やすと体形崩れるし。骨が細い所為で余分な脂肪とか目立つのよね。
うん、ナシ。死んだ方がマシ。
「はァッ」
風切り音を奏でる臨月呪母。
鎖の長さを、六メートル前後まで伸ばす。
一足飛びに増す遠心力。
ただ大鎌を振るうだけでは決して至れぬ速度で、切っ尖が廻る。
「地を断つ。海を断つ。天を断つ。過去を断つ。
咥えた飴を噛み砕く。
鈍い指先に喝を入れ、鎖を握り直す。
断続的だった風を切る音色が、ひと繋ぎとなる。
「ハチツキ、コノツキ──トツキ」
注ぎ終えた呪詛が、歪みの内で刃を脈打たせる。
早く解き放てとばかり、高笑いに似た響きを撒き散らし、暴れ狂う。
「『次元斬・
トップスピードに至ると同時、振り抜いた。
「――――ああぁぁぁぁああぁぁっっ!!」
良人の名を冠した、私にとって最大最強の一撃を。
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