775・Glass






「『リロードツール』」


 心臓が一拍を打つより先に空となったマガジンを排出。

 素早く掴み取り、内部へ直接弾丸を生成し、再装填。


 ──オートマチックの何が嫌いかって、理由を語らせれば軽く一夜明かせるけど、まずこのマグチェンジという不粋極まるリロード方法。


 弾が詰め込まれた箱を予めストックし、それを付け替えることでの大幅な簡略化。

 しかも現代では空間圧縮技術の発展に伴い、金さえ惜しまなければ小型拳銃でも一度に百発単位の装弾が可能。


 お陰で凡そ四半世紀前、私が初めて銃を握った砌、既にリボルバーはアンティーク同然の扱い。実戦で使う者など皆無に等しい玩具と成り下がっていた。


 勿論理屈は分かる。

 そして装弾方法に留まらず、性能面の多くでオートマチックがリボルバーに優る要素を備えるのは、紛れも無い事実。


 けれども風雅が無い。美しくない。


「ちっ」


 要は、醜過ぎるのだ。

 私にとって、自動拳銃という代物は。






「『アカシンゴウ』」


 光の属性弾エレメンタルバレットを六十六発、ゼウスの全方位に展開。


 それを薙ぎ払うべく放たれる雷霆ケラウノス

 この雷は奴の根幹的なチカラらしく『ミスティルテイン』で不活性化が出来ない。


 ただ、数多の権能を封じた影響で苛立ってるのか、或いは真っ当な戦闘経験が乏しいのか、規模こそ莫大なれど、ひどく粗い。


「招雷」


 すかさず追加で撃ち込んだ、三十三発の雷弾。

 出力差が桁違いゆえ相殺こそ能わずとも、電気の通り道を拵えることで軌跡を逸らし、設置した光弾への被害を防ぐ。


「ふうぅっ」


 毛先ほどでも気を抜けば足元を掬われる綱渡り。

 一挙手一投足の悉くがヤスリのように神経を削り、疲弊を呼ぶ。


 勿論『加速アクセル』の負荷とて相当きつい。何せ消耗速度も乗算されるのだ。


 そもスキルの重ね掛けなど、本来多用するものではない。

 延いて深化に至っては数日間、満足に身すら起こせぬほどの反動が襲い来るとか。


 肉体の半分を機械に差し替えたヒルデガルド・アインホルンは兎も角、どうして凶星は深化をポンポンと繰り返し、眉ひとつ歪めずにいられるのだろう。

 自由意思で発動出来る無二の特異性を傍へと置いても、あまりに埒外。


 すごい。流石凶星。さすせい。


「涅槃寂静、無明の帳。瞼を鎖し、暗く昏く」


 闇の属性弾エレメンタルバレットを光弾と同じく六十六発、フルオートで撒く。


「滅せ」


 ほぼ同時、六十六ヶ所にて衝突する光と闇。

 完全な等量の反属性が重なり、引き起こる対消滅。


 その際に生ずる虚数波動が、ゼウスを呑む。


「……惑星滅亡級の怪物程度やったら、これで片付くっちゃけど」


 生憎そう簡単な手合いに非ず。

 万策尽くしたくらいで打ち勝てるなら、討伐不可能の冠など戴くまい。


 しかし隙は作った。

 どうしても必要だった、リボルバーだけでは手数が足りず用立てられなかった、数秒間の完全な空白を。


「ぐ、ぅっ」


 胸元に五爪を立てる。

 心臓へと蟠る熱を血管に乗せ、全身へ流し──借り受けたチカラの、蓋を開く。


「竜血」





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