774・Glass






 平時に於いて、私が装う銃は四丁。


 後ろ腰にグリップ・ダイヤとグリップ・ハート。

 左脇腹にグリップ・クラブ。

 右脹脛にグリップ・スペード。


 いずれもスイングアウト方式、シングルアクションの六連装リボルバー。

 銃身は青薔薇の彫刻エングレーブを施した純聖銀製。銃把は銘と同じ記号マークを埋め込んだトネリコ。


 チャンバーと銃身内部に空間圧縮機構を設けており、概ねの弾種と口径に対応可能。

 ライフリングはハートとダイヤが右六条、クラブとスペードが左六条。こういう数字は左右対称で揃えた方が気持ち良い。

 

 また、引鉄を絞らず、直に撃鉄を蹴り付けても問題無く撃つことが出来る仕様。

 荒っぽいガンプレイを受けようと微塵もフレームが歪まない、美しくも強い銃。


 空位に達せし剣魔たる母と違い、私は刀剣に心を奪われなかった。

 代わりに銃、リボルバーにこそ陶酔し、物心ついた頃より研鑽に明け暮れ、技を磨き、スキルを選び、居並ぶ敵を蹴散らし続けた。


 全ては、そう。


 ──時代遅れの骨董品など使っているから。


 そんな誹謗を誰にも吐かせるものかという、虚仮の一念。


 …………。

 故にこそ、この五丁目を抜くことは心情的に看過し難い行為。

 余程手段を選べぬ状況でなくば、手入れ以外で触れる機会すら非じ代物。


「他に誰もおらんで、良かった」


 均一なシルエットを持つ四丁拳銃。

 立て続け、技を切り替えつつのジャグリングに、全く異なる輪郭をひとつ加える。


 決して小ぶりとは呼べぬリボルバーを、ふた回りほど凌ぐ大型。

 彫刻も装飾も無い、余さず漆黒の外観。


「ほんなこつ、不細工ばい」


 マガジンは捌型圧縮弾倉。装弾数は二百十五発。

 ハンマーの無いストライカー方式。フルオート射撃可能な全自動拳銃マシンピストル


 とどのつまり、オートマチック。

 自己嫌悪を篭め、与えた銘を──『ジョーカー』。


「穴があったら入りたか」


 世に『リボルバー・グラス』の名で知られた私の切り札ジョーカーが、よりにもよって。


 なんという厚顔。なんという醜聞。

 全世界に虚飾を撒き散らした、愚かな道化ジョーカー


「こげなと、二度と使いとうなかったとに」


 もしも凶星に見られ「お前、異名がリボルバーなのにオートマ使うのかよ。ウケる」などと笑われたら、きっと私は舌を噛んで死ぬ。


 しかし使わねば、億が一にもゼウスを斃せまい。

 必ず仕留めると大見得切った以上、敗北は赦されざる大罪。


 例え流儀を曲げてでも、私は勝たなければならないのだ。


「……死者に語る口舌は非ず……我が恥辱、貴様の血で洗い流さん……」


 リボルバー四丁を宙に蹴り上げ、右手にジョーカーを構える。


 六十八口径、氷の属性弾エレメンタルバレット

 銃身の強度限界ギリギリまで炸薬を詰めた、常人なら一発で両腕が千切れ飛ぶパワー。


「往け。騒乱の猟犬達」


 スキル『加速アクセル』を多重発動。


 二百十五の氷雪を、瀑布が如く叩き込んだ。





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