772・Glass






 生命の危機を感じるような鉄火場に立った時は、決まって胎が疼く。

 私の感性的な部分は父に、嗜好的な部分はジャッカル師に似たが、こういう本能的な部分は母に似てしまった。


「『リロードツール』」


 空間に充満するエネルギーを雷の属性エレメンタルへ変換し、圧し固める。

 固形の素材無しに、こうも容易く弾を造れるとは。なんて密度。


「『加速アクセル』『加速アクセル』『加速アクセル』『加速アクセル』『加速アクセル』『加速アクセル』『加速アクセル』『加速アクセル』」


 速度強化を八乗に重ねる。

 スイングアウトさせた四丁拳銃の全チャンバーで、弾丸を掬う。


 そのまま四方八方に乱射。紫電をバラ撒いた。


「『アカシンゴウ』」


 私自身の速度に対し、光が遅過ぎて周囲の景色こそ視えずとも、弾道くらい分かる。


 思い描いた通りの配置で、二十四発を一瞬だけ宙に固定。

 同時、凝縮させた属性エレメンタルを解放。


「付和雷同……稲魂は共鳴せり……」


 千分の一秒でもタイミングを誤れば水泡と帰す、刹那の盾。

 しかし、それを外すほど私は不器用に非ず。


 ──降り注ぐ雷霆ケラウノスを、同じ雷で以て十六方へと逸らす。


「『リロードツール』」


 再度二十四発を生成。潤沢なエネルギーのお陰で材料に事欠かない。

 今度は炎の属性エレメンタル。ガンプレイの所作に織り交ぜる形で排莢、装填。


「『ロックオン』」


 五感を振り切る速度の只中だろうと逃さぬ、正確無比な対象捕捉。

 スキルの起点を右瞳、遍くチカラを不活性と為す黄金の魔眼『ミスティルテイン』に据え、あらゆる加護、権能、特質を、単なる熱量へと貶める。


「『黄泉比良坂』」


 燃え盛る弾頭へ『死』を付与。

 此方の出力が対手の生命力を上回れば、問答無用で確殺と至る魔弾。


 形ある地獄の業火インフェルノと知れ。


「フォー・オブ・ア・カインド」


 四丁拳銃を放り投げ、撃鉄を蹴り付け、発砲。

 間髪容れずスペードを掴み、五連のファニングショット。

 ダイヤ、クラブ、ハートのシリンダーに残る十五発も、余さず撃ち抜く。


「『アカシンゴウ』」


 うち七発のみ、慣性を保ったまま停止。

 それぞれに別の弾丸が突き当たり、双方とも射線を変えた先でまた突き当たり、同じ光景を幾度も幾度も繰り返し、跳弾の檻を編む。


 更には其処彼処で跳ねる都度、炎の属性エレメンタルが微量ずつ弾け、ブースターの役割を担い、速度を増して行く。


 ……凶星曰く、光速を超えると事象の順序が滅茶苦茶になるらしいが、特異な識覚を持たぬ私に、それを認識することは出来ない。


 ただ。己が手で造り、己が銃に篭めた弾丸の行く末は、撃つ前から掌握している。


「二秒後、炸裂」


 駆け抜ける青い炎の軌跡が、澄んだ白色へと移り変わる。

 厳密には、白く見えるほど眩い光を放つ。


 臨界だ。


「爆ぜよ」


 口遊んだ呟きと併せ、天をも衝かんばかりに立ち上る火柱。

 死の獄炎が、空間を灼いた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る