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「今のを受けても破られねぇか。流石リゼちー」


 欠いた半身を再構築しつつ、相方が作り上げた断絶領域の遮蔽能力に舌を巻く。


 設定された空間位相を正確に把握し、攻撃を届かせる手段が無ければ、どれだけのエネルギーをぶつけようと突破不可能な障壁。

 当然と言えば当然。明後日の方向へ石を投げるに等しいのだから。


「よし補修完了。ったく、ヘマやらかしちまっ──あァ?」


 樹鉄混じりの骨肉を編み直し、流れた血で女隷を修繕。

 次いで再び呪縛式を鎧う間際。違和感に気付いた。


「…………マジかよ。タイミング、ちょいと出来過ぎだろ」


 女隷を纏っただけの左手を二度三度、握っては開く。


 そして──女怪の骨肉で仕立てられた装束に、赤光を絡み付かせた。


「ハッ」


 スキル『双血』は、所持品にも効果が及ぶ『消穢』や『幽体化アストラル』とは異なり、本来であれば習得者の肉体以外には適用されない。

 けれども己の血肉を啜らせ、自身の一部と呼べるほど強固な繋がりを形成することによって、その限りではなくなる。


「漸く完成か。樹鉄刀と比べて随分長くかかったもんだ」


 女隷は食が細く、比較的少量の血で癒える上、自我も薄く、何より従順過ぎた。

 隙あらば俺の全てを奪わんと躙り寄る凶暴性、絶えず糧を求める欲深さなど持ち合わせておらず、壊れる都度チマチマと餌遣りを重ねなければならなかった。

 しかも近頃は俺に満足なダメージを与えられる相手自体、殆ど居なかったし。


「まあいいさ。苦労を重ねた分、達成感も一入ってもんだ」


 呪縛式は敢えて直さず、左右非対称な姿のまま前傾で構える。

 このアンバランスこそ、今の俺には似つかわしい。


「……『呪血』は、やめといた方が良さそうだな」


 ふと浮かんだ、太陽系全域がビー玉サイズにまで捻り潰れるビジョン。


 そんな済し崩しの共倒れじみたヤケクソな決着、興醒め極まれりだ。

 こちとら勝ち負けなぞ、元より二の次。


「かろろろろろろろ」


 女隷にも『双血』の効力が及んだことで大きく分散される負荷。

 加えて根源的な肉体強度も人竜因子への感染を受け、飛躍的に向上している。


 ……これなら多分いける。保つ筈。

 もし駄目だったら、残念でした的な。


「豪血──」

〈ッッ!?〉


 吐息と共に『呪血』だけ解いた。

 戒めが失せたドラゴンは何か気取ったのか、目を見開く。


「鉄血──」


 顎門を開き、熱量を収斂させる。


「錬血──」


 指の先に触れただけで骨さえ残らず灼け尽きるような極光が、迫る。


「あからさまなパワーアップの前に叩く。判断は悪くねぇ」


 しかし残念。時既に遅し。






 ドラゴンよ。最強の具象よ。力の化身よ。

 ひとつだけ貴様に希う。


 頼むから、あっさり死んでくれるなよ。






「──『深度・肆』──」





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