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「ぅううるるるるるるるる」


 四色の光芒が奔り、血管を突き抜けて樹鉄に絡み付くや否や、細胞ひとつに至るまでを軋ませる夥しい重圧。

 暴れ狂う埒外な熱量に耐えかね、四肢五臓六腑が悲鳴じみた音を立てて崩れ始める。


 致死確定のデッドゾーンまで、およそ四秒前後のペース。

 まじまじ見ていた右手が、瞬く間に形を失った。

 …………。


「なんだ、この程度か」


 存外、大したことねぇな。


 一帯からエネルギーを吸い上げ、崩壊と等速で再構築を実施。

 イカレる端から治しちまえば、少なくとも戦闘に支障は無い。つまり何の問題も無い。


〈……悍マシイモノダナ〉


 声が響いた。


 低く静かで鮮明な、淡々と震える音色。

 そいつが耳に触れ──鼓膜が爆ぜる。


「あァ?」


 鼓膜だけじゃない。三半規管も持ってかれたか。

 平衡感覚が消え失せ、襲い来る猛烈な眩暈。気持ち悪っ。


〈倒レルドコロカ、ヨロメキモシナイノカ。オヨソ真面ト呼ビ難シ〉


 即時修復、からの中傷と思しき台詞。

 こんのトカゲモドキ。第一声が悪口とは、お里が知れるぞ。オラついたヤンキーは田舎者と相場が決まってるからな。


 ちなみに俺も出身地的には田舎者の部類に入る。


〈ソノ身ヲ充タス力。コノ世界ノ人間ニ赦サレタ上限ナド遥カニ超エテイル。息ノ根ヲ通ワセ続ケルダケデ、死ニモ勝ル苦痛ヲ味ワッテイル筈〉


 何言ってんだ、コイツ。


「痛みで人が死ぬかよ」

〈死ヌトモ。人ニ限ラズ、アラユル生物ニトッテ痛ミトハ苦シミ、死ニ至ラシメル毒ダ〉


 じゃあ何故、俺は死なないし苦しまないのか、教えて欲しいもんだ。

 こちとら痛みを感じてない瞬間なんぞ、覚えてる限りアラクネの粘糸を体内に張り巡らせた頃あたりから皆無だぞ。なんなら完全索敵領域も、例えば肌を撫ぜる微風が濃硫酸を浴びせ掛けられるのと変わらんくらいまで感度を上げて漸く成立するし。

 長らく『豪血』を使い続け、身体能力と併せて五感も磨かれた果ての賜物よ。


〈私ノ眼差シヲ受ケ、生キテイル。私ノ言葉ヲ受ケ、生キテイル。ソノヨウナ化ケ物、最早、人デハナイ〉


 言い切られた。月彦さん悲しい。


〈人……勇者デアレバ私ニ挑ム気概ヲ讃エ、相応ノ礼ヲ尽クシタガ……貴様ナラバ手心モ不要。魔性ヲ屠ルニハ、相応シイ作法ガアル〉

「おー、そこだけに関しちゃ完全同意」


 妙な仏心を引っ張り出されるとか、最悪もいいところ。

 怪物なら怪物らしく、頭カラッポで破壊と殺戮に傾倒したまえよ。


「縛式までじゃ出力不足も大概だったが」


 四つ足で構え、正面きってドラゴンを捉える。


 もう心臓は弾けない。耳も潰れない。

 最低限、コイツの敵に足るだけの格を得たと解釈しておこう。


「ハハッ」


 跳躍。

 横っ面に蹴りを見舞う。


「さァ」


 衝撃波。たたらを踏む巨躯。

 砕けて飛び散る鱗の破片。


 圧し折れた脚をアラクネの粘糸で固定し、もう一発。


殺し合おうあそぼうぜ」


 僅かばかり、血飛沫が舞った。





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