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「こふっ」
暫しドラゴンと視線を合わせていたら、本当に心臓が潰れた。
しかも魔法の類によるものではない、単なる眼力を受けての現象。
真の怪物は目で殺す、的なノリか。まさしく根源的に位階の違う生命体ってワケだ。
「ったく、俺が死ぬまで鼓動を打ち続けるだけの簡単な労働も出来ねぇのかよ」
落雷直撃とかでも停まったし、近頃の臓器には根性が足りてない。
やる気が無いなら辞めちまえ。お前の代わりなんて幾らでも居るんだぞ。
ウチで駄目なら、どこ行っても通用しないけどな。
などと内心でブラック企業ムーブに興じつつ胸部の生ゴミを抉り出し、おやつ代わりに咀嚼しながら次の心臓を用立てる。
傷口を塞ぎ、拳を叩き付け、稼働開始。
「ぅるる」
アラクネの粘糸で繋ぎ合わせても良かったが、また壊れたら面倒ゆえ新造した。
より靭く、より剛く。差し当たり視線ひとつでオシャカは避けられるだろう。
縦しんば再三爆ぜたとしても、また作り直すだけの話。
何せ肉体の再構築に要するエネルギーなら、空間全域に有り余ってる。
「最適の環境だな、ここはよォ」
俺個人という、百キログラムにも満たぬ質量の器に収まる蓄えなど高が知れたもの。
必然、出力を維持すべく戦闘中は常に多量のエネルギーを周囲から取り込み続けているのだが……最近は密度の濃い深層でも間に合わなくなり始めていた。
仮に地上で全力など振るえば、数秒と待たず一国が砂漠と化す消耗速度。
そんな大喰らいを抱えながら、しかしこの場所は小揺るぎもしない。
無限に等しいバッテリー。
遍くダンジョンを賄う源泉って話も、成程、真実味がある。
「ハハッハァ」
尤も、調子に乗ってベタ踏みで突っ走れば、俺自身が過負荷で御陀仏まっしぐら。
取り分け未知数なのが『竜血』と『双血』の併用。
フォーマルハウトの血肉を食らった際、期せず得た人竜因子。
その感染を全身に広げ、生物としての階梯を押し上げる行為が『竜血』。
一方で『豪血』や『鉄血』は、素の身体能力に対する掛け算。
基礎値が増すほど、強化時の振れ幅が大きくなるスキル。
そして。振れ幅が大きければ、負荷も比例する道理。
「かろろろろろろろ」
下手を打てば発動させた瞬間、五体が弾け飛ぶかも分からんコンボ。
なんなら本能と直感が、既に小うるさく警鐘を鳴らしている始末。
試すにも及ばず、おいそれ切っていいカードではないと明らかに
もし使うなら最後の最後。他に打つ手無しと断じた窮地であるべき鬼札。
…………。
なんちゃって。
「今、使うに決まってんだろ」
女隷の背面に仕込んだヒルコを引き抜く。
どうせならオールインだ。
「竜血」
一旦『双血』を解き、入れ替わりで血管を伝う黄金の光輝。
併せ、ヒルコを赫夜に突き立てる。
「呪縛式
駄目だ。パッと名前が思い付かん。
縛式新と同じでいいか。魔人竜王態で。
「ぐぅるるるるるるるるるッッ」
人竜因子に染まった樹鉄へ巡るリゼの呪詛。
溶け崩れた後、異形の外殻を模り、牙でも突き立てるかのように俺を鎧う。
「はしゃぐな」
戯れつく樹鉄に一喝。
途端、大人しくなった得物を鼻で笑い、ひとつ息を吸う。
「豪血」
「鉄血」
「呪血」
「錬血」
「──『深度・参』──」
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