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「ふうぅぅるるる」
段階を踏んだ方が盛り上がると考えて『竜血』を解き、赤と青の『深度・参』だけで戦端に臨んだのは、流石に軽率だったか。
まあ俺の場合、そもそも人生に於ける選択の多くが軽率と言えるけれど。
具体的には七割前後。ごめんサバ読んだ、本当は八割……九割かもしれん。
「『断式・仏鉢』」
赫夜の一部を大剣へと転じさせ、力任せに叩き下ろす。
北半球を消し飛ばすくらいの気持ちで、ズドン。
「ハッ!」
反動に耐えかね、半ばから折れる剣身。
向こうさんはノーダメージ。単純な頑丈さは全形態随一の断式も形無しとは、大ウケ。
間髪容れず身を翻し、トんだ半分を掴み取る。
「ハハッ!」
そのまま『番式・龍顎』に移行。
鋸刃の双剣で以て、超光速の斬撃悉くを全く同じ一本の太刀筋として重ね合わせる。
「ハハッハァ!」
体表を覆う鱗に薄らと残る痕。
ハガネから奪い、我が物へと昇華させた窮極の術理を駆使し、漸く掠り傷か。
いいね。
「『水式・羽衣』」
次なる一刀は、液状化させた樹鉄を剣の形に留めた鉄鞭。
受けた衝撃を余さず呑み、表面を波打たせ、流動と共に吐き出す奇剣。
「発破ァァァァアアアアアアアアッッ!!」
思惑は内部破壊。
切っ尖より注ぎ込んだ運動エネルギーを滞留させ、臓腑を掻き毟る──つもりだった。
「ン」
手応えは微小。
誤差程度、体勢を崩させるのみで、有効打にも届かない。
ディ・モールト。
「っとォ!」
鬱陶しげな薙ぎ払い。
ひどく粗雑な、しかし直撃すれば樹鉄と女隷の護りも『鉄血』の硬化も紙切れ同然に貫き、五体がバラバラとなるだろう威力。
──強度といい、膂力といい。基本的なスペックが、シンプルにかけ離れている。
物理法則を超越した『深度・参』状態で、ここまで差が出るとは。
妖狐との戦闘経験が無ければ、既に二度は致命傷を負ってた筈。
「くくっ」
正直な話、あの中では三番手と見定めていたコイツに当たる運びとなり落胆を覚えなかったかと言えば、何故かジャンケンに負けた己を呪わなかったかと言えば、嘘になる。
しかし。いざ手を合わせてみれば、よもやよもやだ。
「ワケの分からんギミックも、ややこしい権能も持ってねぇ、純粋な力の化身」
そんな意味合いでは、コイツこそが一番のアタリか。
「ハハハハハッ。今んとこ勝てるビジョン、これっぱかしも浮かばねぇわ」
古今東西の伝承にて、しばしば『最強』の代名詞とされる存在。
城砦と見紛うほどの巨躯。堅牢強固な鱗で覆われた強靭極まる肉体。
万物を裂く爪牙。天空を闊歩する翼。視線を重ねただけで心臓が潰れそうな眼光。
「どーすっかな」
イギリス最強の難度十ダンジョン、アヴァロン。
その九十階層フロアボス──ドラゴンを前に、こみ上げる笑いが止まらなかった。
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