766・閑話45






 今は亡き、全能たる造物主が犯した唯一の過ち。

 原初の楽園リンゴを喰らい、その食べ零しである三千世界をも喰らい続ける、青い血の女。


 満たされぬ飢えに苛まれし餓者。

 万象含みし生態ピラミッドの最高位に坐す、真なる頂点捕食者。


 ──だが彼女は、一万五千年ほど昔、一度だけ殺されている。


 ジャイアントキリングを成し遂げたのは、ひと振りの剣。

 平時に於いては鞘から抜くこと能わぬ、僅かに残った造物主の欠片が自ら蒐まり、武器としてのカタチを持った、終焉の具現。


 六趣會『畜生道』ハガネ、雪代萵苣が擁す『エンドギフト』と根源を同じくする異能。

 ただし密度と出力は、彼女の比ではない。


 銘は空白。

 便宜上、聖剣と呼ばれる機会が、幾度かあったのみ。


 ──不抜の剣が鞘を離れるための条件は、三つ。


 所有者が、封を破るほど強い一念に駆られていること。

 対となるべく創られた石が、多くの血を啜っていること。


 そして──既にであること。


 …………。

 楽園リンゴの残骸に過ぎぬ三千世界の存在では認知すら不可能な、絶対上位者たる造物主。

 そのチカラを片鱗程度にでも振るうとなれば、九山八海に傾く負荷は計り知れない。


 最早、敗北を免れぬ一切衆生に、せめて一矢報いさせるための諸刃。

 捕食の後も隷下と使われ、永劫に頭を垂れ続ける轍から抜け出るための、慈悲。


 早い話。聖剣の解放とは、即ちの証明。






 世界が滅ぶまで、あと──





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