761・Hildegard
「リゼってホント多芸」
赤いような黒いような色のドームで以て、一分の隙間も無く封鎖された空間。
ざっと都市ひとつ分。しかも同等のサイズを四つ。
私も近いことは『アリィス・トラオム』で出来るけど、思考のリソースを少なからず持って行かれるから、展開中は相応に戦闘能力が落ちる。
想像を現実に持ち出すスキルと同等以上の汎用性とか、リゼも大概オバケ。
「にしても、これ逃げらんないじゃん。僕、絶体絶命」
しかも敗けたらドームが縮んで諸共に刻み潰す、みたいなこと言ってたし。
つまり、せめて相討ちが狙える程度には弱らせろ的な話。
「酷いブラック企業。労基に凸しちゃおっかな」
でも警察や軍隊にシキ組を取り締まれるのか、甚だ疑問。
国くらい片手間で吹き飛ばせる暴力の前には、秩序って殆ど無意味。
「あーヤダヤダ。石器時代じゃあるまいし、理知を備えた現代人らしく振る舞うべきだよ」
──キミも、そう思わない?
最後に添えたその言葉は、しかし掻き消えてしまった。
私が創り、私が落とした、きっかり直径五キロの巨大隕石によって。
「わぷっ」
轟音。衝撃波。大津波。ドーム内を吹き荒ぶ暴威。
たぶん『
「……ちょっと控えめ過ぎた?」
ダンジョン外なら確実に地球丸ごと砕ける強度、速度、角度。
脳に直接埋め込んだ演算装置のお陰で、そこら辺の計算は随分ラクになってて助かる。
「おかわりだ。友達の技を御馳走しよう」
ツキヒコの『破界』と、リゼの『宙絶』。
性質や精度は置いといて、威力だけなら真に迫ると自負するコピー。
全方位から二百ずつ、一点集中で乱れ撃った。
「あははははっ! 射線を集めた分、さっきより局所的な熱量は──ぎゃぽー!?」
怒号。咆哮。滅茶苦茶なノイズ。
数百メートル吹き飛ばされ、想像が途切れて、その産物も掻き消える。
「うえっ、三半規管おかしくなりそう……あーあーあーあー」
特に意味も無く、手慰みで石剣の切っ尖同士を打ち合わす。
併せ、機械義眼のズーム機能と補正処理で、十三キロ先の標的を捉える。
「分かってたけどさ。勘弁してよ、無傷とか」
それぞれ異なる武器を握った六本の腕。獣の身体、金属の頭。
体躯こそ、あの九尾の妖狐には随分と劣るも、纏う威圧感はアレと同等かそれ以上。
「えぇ……ホントにコイツ、四番手……?」
難度十ダンジョン、十六神凶桃源郷。
その九十階層フロアボス、名を『
中国神話に於いて悪名高き魔神の姿を象った、討伐不可能指定クリーチャー。
こんな輩とタイマンとか、およそ正気の沙汰じゃない。
「あーもー。僕が強敵と戦いたいのは、あくまで金と名声と衝動の発散が目的なのに」
ツキヒコみたいなサイコパスと同じ括りで扱わないで欲しい。
もう少し分別あるもん。
──兎にも角にも。
「死んだら絶対、リゼが入ってる時の風呂場とかに化けて出てやる」
うらめしや。
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