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「……それに、かんしては。わたしも、いささか、ふしぎに、おもっていました」
リゼの言葉を受けたリシュリウ・ラベルが、首を捻る。
「なぜ、あなただけ、とくべつ、なのでしょう。そこまで、びじんには、みえませんが」
「アンタの目玉と脳味噌と美的感覚、腐ってんじゃないの?」
客観的に、間違い無くリゼは美人だ。
そして、改まって聞かれても困るな。声高に語るほど御大層な理由とか、全くねぇし。
強いて挙げるならフィーリング? あとアレだ、日々の細かい積み重ね。
つーか普通そういうもんだろ。男女の関係なんて。
縦しんばアクション映画みたいな劇的シチュエーションが切っ掛けで一緒になったとしても、大抵長続きしないぞ。実際問題、続編で別れてるパターンかなり多いし。
「ほんとうは。あなたの、からだを、もらおうかとも、かんがえていたの、ですよ。いろいろ、かんがえて、こちらに、しましたが」
おお。実行に移さなかったのは英断だな。百億パー不可能なプランに時間を割いたところで、要らん徒労を背負うだけだ。
賢い賢い、チンパンジー並みには賢い。褒めてやるよ。
「ふふふ……さて」
薄っぺらく微笑み、巨木へと視線を流すリシュリウ・ラベル。
「にんぎょうたちの、わるあがきで、そだちがすこし、とどこおっています、ね」
トントンと、白杖を指先で叩く。
「ふぇりぱ・ふぇれす。ほんとうに、いまいましい、ばかおんな」
フェリパ? 誰?
知ってるような、知らんような。
「であれば、わたしも。いくらか、てをくわえると、いたしましょう」
その宣言と併せ、小気味良い音色で、細く真っ白な指が鳴らされる。
「ここは、すべての、なんどじゅう、だんじょんの、おくそこ」
直後。鼓膜を掻き毟るような、けたたましい不快音。
「ゆえに。こういうことも、できるのですよ」
激しく波打つ水面。
「このこたちは。いままで、くらった、せかいの、なかでも、とくに、おおきな、ちからを、もっていた、そんざい」
周囲に昇り立つ、四本の水柱。
「あなたたちが、くだしたのは。ごとうせいの、ようこ、でした、ね」
息すら止まるほどの重圧感が、全身に降り注いだ。
「よんとうせい、しゆう」
「さんとうせい、どらごん」
「にとうせい、ぜうす」
「いっとうせい、よぐ=そとーす」
マジか。
マジかよ、オイ。
「はらい。くだき。つぶし。けちらしなさい」
ふと気付く。
本能的な恐怖で震える口の端が、しかし独りでに笑みの形を作っていた。
「つくづく俺ァ、どうしようもねぇな」
尋常ならざる狂気の沙汰ほど──ああ。面白くて面白くて、仕方がない。
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