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以前の姿とは明らかに違う、確と焦点の合った眼差し。
およそ温度を感じられない無機質な視線。まだ昆虫の方が感情乗せられるぞオイ。
〈王ヨ。畏レナガラ、彼奴ノ言ハ真デアルト奏上サセテ頂キマス〉
フォーマルハウトが恭しく水面に跪き、述べ立てる。
〈嘗テ妾ノ治メテイタ地モマタ、コノ世界ト同様ニ侵略ヲ受ケ、捕食ノ末路ヲ辿ッタユエ〉
世界丸ごとか。そいつは随分と規模のデカい話だな。
別に驚きはせんが。結構な説得力を感じる程度には、ワケの分からん存在だし。
〈三千世界ヲ渡ル
ほーん。
〈アレハ人ノ形ヲシタ門。王ノ御言葉デ語ルトコロノ『ダンジョン』ニ等シキ者〉
成程。ちょいとカラクリが見えてきた。
つまり、リシュリウ・ラベルという千番目のダンジョンが、此度に於けるカタストロフの引鉄となった寸法か。
併せて、その過程は兎も角、俺の母親が奴であることの意味も、なんとはなし悟る。
「アレがダンジョンなら、差し詰め俺はクリーチャーか」
スロット移植するまでゲート通れなかったし、何かが決定的に違うのだろうけれど。
ただ、どちらにせよ出自の時点でイカレてたらしい。
ウケる。
〈送リ込マレタ世界ノ理ヲ侵シ、果実ヲ育テルノガ端末ノ役割〉
そこまで告げた後、巨木を指すフォーマルハウト。
より正しくは、巨木の幹から伸びる一本きりの捻れた枝。
その先端に生る、ひどく青褪めた、林檎に似た果物を。
〈育ッタ実ヲ端末ガ食スコトデ、主上──本体ノ降臨ガ成サレマス〉
「成されると、どうなるんだ」
暫時の空白。
不愉快な記憶を掘り返すかのように顔を伏せ、端の震えた声音が返る。
〈本体ノ降臨ハ……世界ノ嚥下ト同義〉
問答無用で終いか。
そいつは、つまらん。
〈呑マレタ世界ハ主上ノ一部トナリ、ソノ断片ノ集合体コソ〉
「ダンジョン、か」
〈然リ。嘗テ王ヤ神ト呼バレシ覇者達含む精兵ヲ己ガ指先トシテ従エルベク仮初ノ命ヲ吹キ込ミ、ソレゾレガ君臨シタ地ヲ再現シ、作リ上ゲタ食器〉
食い散らかされた挙句、ナイフやフォークの代わりに扱き使われる、と。
益々つまらんな。誰かの下であくせく働くなんざ御免被る。
──ならば取るべき行動は、考えるにも及ばない。
「竜血」
黄金の光輝を血流に伝わす。
全身に感染する人竜因子。
生物としての階梯そのものを、一段押し上げる。
「リゼ。あと三歩下がってろ」
骨肉を内側から抉る蔦。
女隷を突き破り、体表へと絡む樹鉄。
…………。
ところで月彦さん、ちょっと思い付いたんだよな。
竜のチカラを得れど、ビジュアル的には何ら変化の無い身体。
であれば。せめて樹鉄刀くらいはバージョンアップを図るべきでは、と。
「ぅぅううるるるるるるるる」
織り合わさる鱗状の装甲。より鋭利さに特化させたフォルム。
尾や翼を作ろうかとも考えたが、普通に邪魔なのでやめた。
「『縛式
ともあれ完成。
ヒルコを用いた呪縛式とは異なる、第二の派生。
「『纏刀赫夜
「ちょっとは捻りなさいよ」
喧しい。
「ハハッハァ」
馬鹿げた密度で階層に充満したエネルギーを拝借。全細胞にて吸い上げる。
ざっと『破界』の十倍超。
「竜の代名詞と言えば、やっぱコレだろ」
余さずを喉に収斂。
深く息を吸い、肺腑を満たす。
「――るぅおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」
咆哮と共に、ドラゴンブレスを解き放った。
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