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 推し量れない。掌握出来ない。

 完全索敵領域の内側に立ちながら、薄皮一枚隔てた先を、何ひとつ読み取れない。


 まるで世界に人型の穴が穿たれたかの如し、極めて異質な感覚。

 ……或いは、俺自身が理解を拒んでいるのか。


 意味不明さだけなら討伐不可能指定クリーチャーをも凌ぐ、掛け値無しのアンノウン。

 斯様な生物、一人しか知らん。識覚の精度を客観的に鑑みれば、他に居るとも思えん。


 即ち眼前の少女は、リシュリウ・ラベルに相違非ず。

 だが。にも拘らず、その容姿は別人の、しかも知己のそれ。


 …………。

 ま、いいか。そこら辺は別に重要じゃねーし。

 ひとまずイメチェンってことにしとこう。アンチエイジング的な。


 がりがりと頭を掻き、暫し思考を整理。

 リゼを背後に隠すよう位置取りを移しつつ、質問を変える。


「お前か?」

「はい?」


 尤も、敢えて問うてはみたものの、これは腹に抱えた断定ありきの、半ば確認作業。

 そもそもの話、シンギュラリティ・ガールズの排除にブラックマリア総勢が大挙し訪れた時点で、既に宣告を受けているも同然。


 故に一種の様式美として、投げ掛ける。

 かったるい問答なんぞ、さっさと終わらせるに限るってな。


「お前が、このカタストロフの首謀者か?」






 リシュリウ・ラベルが、手中の如雨露を足元に放る。

 とぽんと小さな水飛沫を上げ、逆さまに沈んで行った。


「あたらずとも、とおからず、ですね」


 やがて返ったのは、声紡ぐ喉より奥を、まるで窺えぬ語り口。


「わたしが、しゅぼうしゃ。それは、とうぜん、そう」


 平坦な肯定。

 白杖を両手で握り直し、手慰みにか水面を掻き回す。


「けれど。かたすとろふ。そんな、せまいくくりの、ではありません」


 緩やかな否定。

 異形の双眸を軽く伏せ、数拍の思量を挟む。


「……ああ。めんどうですし、かんけつに、もうしあげましょう」


 そして。次に語られたのは、些か以上に理外な台詞だった。


「もとより。このせかいに、だんじょんをもちこんだのは、わたしです」





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