750・Glass






 凶星からの拝命を遂げるべく、封を解いた。


 外気に触れ、光を掴む右目。

 尋常たる左とはイロもカタチも視え方も違う、黄金の瞳。


 この眼窩こそ、我が最たる異彩。


 ──私は、父母が持つ異能ゴスペルの断片を継承し、世界に産まれ落ちた。


 父、雪代七々八からは、生命に死を刻む『カウントダウン』を。

 母、雪代萵苣からは、万象に終焉を齎す『エンドギフト』を。


 それらはスロットの一枠へと宿り、スキルに程近い形態を得た。


 敬愛する師、ジャッカル・ジャルクジャンヌより授かりし銘を『ミスティルテイン』。

 北欧神話にて不死の神バルドルを弑逆せしめたヤドリギの意を冠す魔眼。

 安易に日本の創作界隈で一般的な発音のミストルティンにしなかったあたり、師匠の拘りを感じる名付け。


 そんなチカラを、兄弟姉妹の中で、私だけが持った。


 何故? 理由は?

 二千人に一人の割合で発現するスロット?

 数百万から数千万人に一人とされる希少血液、タイプ・ブルー?


 否。恐らく他にも数多の偶然が作用した、ほぼ奇跡に等しい産物なのだろう。

 なんにせよ気に入ってはいる。見た目とか格好いいし。


 ──『ミスティルテイン』が有する特性は、大きく分けて三つ。


 最先端の天体望遠鏡や電子顕微鏡をも遥かに凌ぐ視力。

 膨大な情報量を余さず捌くための処理能力。


 そして──


 私の右瞳が捉える間、あらゆるチカラは空白と帰す。

 無敵の加護も、理不尽な権能も、単なる熱量の塊へと変わり果てる。


 さて。そこに『黄泉比良坂』を、即ち『死』の概念を叩き込めば、どうなるか。


 ゲームで例えるなら、破壊不能オブジェクトにHPバーを与えた上での、各種耐性と防御力を完全無視した即死攻撃。

 とどのつまり、如何なモノでも殺めることが可能となる道理。


 勿論、過度なエネルギーHPを備えた存在が標的の場合、仕留めるには多くの弾数が要る。


 しかし、撃ち続ければ確実に死ぬようになるのだ。

 そも死なぬモノ、そも滅ぼせぬモノに、終焉の一線を書き記すことが出来るのだ。


 私にとっては、十分過ぎる。


「ダイスロール」


 リボルバーに一発だけ弾丸を篭め、シリンダーを回す。


 からから鳴り渡る耳触り良い響き。

 適当な塩梅で、腰だめに構える。


「不死に死を。不滅に滅びを。千変万化は最たる美徳」


 撃鉄を起こす。


「メビウスは途絶え、クラインは砕け散る。儚さこそ至上と知れ」


 後半は少し巻いて口上を述べる。

 目が乾きそう。


「──フォイア」


 突き抜ける閃光。駆け抜ける弾頭。

 何かを包み隠す空間の表層を貫き、死という終焉を染み込ませる。


 波紋する、ガラスの破砕に似た音色。

 衝立を取り払うかの如く、視界に映る新たな輪郭。






 一本の樹と──真っ白な、女の背中。





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