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 一番槍を逃した以上、次点を競っても詮無いので、ヒルダと五十鈴を先に向かわせた。


 残った俺は、楚々と傅くフォーマルハウトを振り返る。


「ここまで済し崩しで連れて来たが、どうするよ。一緒に来るか?」

〈王ガ裁可ヲ下サルノデアレバ、何処ヘデモ〉


 もうコイツのキャラクターが全く分からん。

 不遜な女王、男を惑わす魔性、隷属を望む人竜。

 目まぐるしい多面性。何が何やらって感じ。


 ……ま、着いて来たいなら好きにすればいい。

 どちらでもいい。どうでもいい。


「お前なら、このカタストロフについても、色々と知ってるんだろうな」

〈御望ミトアラバ、全テ詳ラカニ〉


 さいですか。

 つっても要か不要かで言うと、当然。


「要らね」

〈承知〉


 だいぶ長話になりそうだし。


 そも、こうしてカタストロフの沈静化に動いてる理由の大半は、u-a曰くのとやらに対する極めてシンプルな好奇心だ。

 世界を滅ぼす災禍の中心で一体何が起こるのか。特等席で拝みたいのが人情。

 そうでもなければ、こんな七面倒に付き合うかよ。


 とどのつまりネタバレ厳禁。

 それに、どのみち終点は目と鼻の先。このタイミングで、わざわざ尋ねる必要も無い。


「行くぞ」

〈ッ……アァッ……有難キ幸セ……〉


 また静かに泣き始めるフォーマルハウト。

 情緒不安定か、と内心で呟きつつ、真円の境界を通り抜ける。


「がぼがぼがぼがぼ」


 ヒルダが水に落ちて溺れてた。

 何やってんだ、コイツ。





「ぶへっ、ふえぇ……あー死ぬかと思った。迂闊に力場を解くもんじゃないね、全く」


 引っ張り上げた後『空想イマジナリー力学ストレングス』で浮遊、ぐしょ濡れの髪を絞るアホ。


「いっそ探索者シーカー辞めて芸人に転職したらどうだ」

「どしたの急に? そりゃ僕は人類最高峰の美女だし、芸人タレントなんかになっちゃったら話題も人気も独り占めだけどさー」


 自己肯定感の化身かよ。

 俺が言ったのは芸人コメディアンの方だぞ。


 …………。

 しかし。


「なんだァ、こりゃ」


 ──天を仰ぐ。


 雲ひとつ、斑ひとつ無い蒼穹。


 ──地を眇める。


 微風ひとつ、細波ひとつ無い水平線。


 ただ、それだけ。

 茫漠たる景色が遥か彼方まで続くだけの、ひどく静かで清涼とした、虚ろなセカイ。


「ここが百階層だァ?」


 なんと言うか。かんと言うか。


「だだっ広いばっかりで殺風景ね」

「すごい地味。ラスベガスみたいなの期待してたのに」

「酷か手抜きばい」


 口々に語るリゼ、ヒルダ、五十鈴。

 容赦無いな、お前ら。俺も概ね同意見だが。





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