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 五爪を振るい、仰ぎ見る巨躯を断つ。


 避けられることも防がれることも無かった。

 やたら硬かったのは毛皮だけで、あとは砂糖菓子同然に脆い、悲惨な有様。


「……チッ」


 軌跡のまま引き裂かれた骨肉。流血が如く霧散する闇の属性エレメンタル


 海底にでも立つかの如き重々しい空気が、嘘のように軽くなる。

 断末魔さえ残さず、妖狐は死んだ。


「潔し。マジで悔やまれる」


 u-aの奴。難度十なら何処でも同じと那須殺生石異界を推したのは、これが理由か。

 くそったれめ。覚えてやがれ。


「帰ったらネジの一本まで分解バラす」


 腹立ち紛れ、深く静かに吐息する。


「お?」


 炎とも雷ともつかない、謎の息吹ブレスが出た。

 ウケる。






「体格だの風貌だのは、特に変わらんのな」


 爪の先で軽く寸断した石畳。

 つるりと滑らかな断面を鏡替わりに覗き込み、己の姿を検める。


「もっとこう、化け物じみたビジュアルを期待したんだが」


 翼や尾が生えたり、皮膚が鱗になったり、身長十メートルになったり。

 ちょい肩透かし。つまんね。


「そんなことが出来るとか、完全に初耳なんですけど」


 横合いからリゼの視線が刺さる。

 なんなら頬を人差し指でぐりぐりされてる。


「そりゃそうだろ。ついさっきまで俺も知らなかった」


 そも出来るようになったの自体、ほんの数分前っぽい。


「……アンタ、戦闘中に唐突な思い付きを試す悪癖ホントどうにかならないワケ?」

「はっはっは」


 笑って誤魔化し──『竜血』を解く。


「ふぅむ」


 金色の燐光が消え失せ、再び不活性となる体内の蟠り。


 明らかに竜種、もっと言えば人竜の因子。

 恐らくフォーマルハウトの血肉を喰った際、樹鉄刀が勝手に取り込んだのだろう。


 人竜のチカラを手に入れれば、俺に反旗を翻せるとでも考えたか。


「結構結構。その意気や良し」


 女隷も少しは見習いたまえよ。ちょっと従順過ぎるぞ。

 まあ樹鉄刀も樹鉄刀で、だいぶ浅はかだが。


「気概は買う。しかし残念」


 下剋上を果たすには粗末が過ぎた。

 現状の主従を引っ繰り返すには、俺を貪り尽くすには、何もかも足りていない。


「オマケにオマケを重ねて、四十点ちょいって塩梅か」


 勿論、九九〇点満点で。






 ちなみに当のフォーマルハウトは、と言うと。


「なあ。何やってんの、お前」


 何故か俺の足元にて、殆ど這い蹲るように跪いていた。

 しかも雪鎧を脱ぎ去り、裸身を晒した格好で。


 ……こちとら裸の女に土下座させる趣味とか、微塵も無いんですけど。

 正直やめて欲しい。週刊誌にすっぱ抜かれて要らぬ誤解を招きかねん。





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