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〈貴様ァ……ナンノ真似ダ……!!〉
ごりごりと首を回す此方に対し、裂帛の勢いで吼え立てる妖狐。
仰りたいことは分かる。
このタイミングでの『双血』解除。謂わば剣を鞘へ収めるに等しい、僅か千分の一秒が趨勢を動かす只中に於いて致命的な隙を晒す所業。
もし逆の立場だったら俺もキレる。やる気あんのかテメェみたいな。
が。月彦さん、気付いてしまったのだ。
──コイツ。ハリボテだわ。
全ての傷が綺麗さっぱり消えたどころか、尾の数まで九つ揃った妖狐を見て、おかしいとは感じたんだよ。
何せ奴が内包するエネルギーは、八尾の時点で惑星数個分にも匹敵する域だった。
もし外界へと解き放たれれば、天地が崩壊を始めるレベルの熱量。
紙皿に巨岩を叩き付けるようなもの。地球を以て尚、受け止める器として不十分。
そういう存在の総称なのだ。九十階層フロアボス、討伐不可能指定クリーチャーとは。
故にこそ、損傷を受けた際の回復にも時が要る。
元よりボス連中は、深部に巣食う個体ほどリポップまでの期間が長い。
八十階層を塒とする難度九ダンジョンボスなら軽く数年。難度八でさえ一年は掛かる。
妖狐の場合、死こそ免れたとは言え、その寸前だったことは間違い無い。
いくらカタストロフ発生に伴う暴走じみた出力上昇の後押しを受けようと、十年かけても尾一本すら取り戻せなかった事実を鑑みるに、容易く補填分が賄えるとは考え難い。
そも仮に莫大なエネルギーをすぐさま用立てる手段があったところで、そんなものを半死半生のズタボロ状態で啜れば自壊は必至。
どう足掻いても、欠落を埋めるには時間が足りていない。
然らば、辿り着く結論はひとつ。
──
全容が捉え辛い闇の
流石フォックス。化かしの技は芸術クラス。
とどのつまり、見掛け倒しの羊質虎皮。
実態は目もロクに視えぬほど、耳もロクに聴こえぬほど弱り切っている。
「ぅるる」
が。敢えて言葉には出すまい。
睨む先を焼き焦がすが如し六つの目玉を見返せば、茶化す気も失せる。
論ずるに及ばず。
致命傷を隠し万全を装うのは、偏に絶対強者ゆえのプライドだ。
野暮を口走り、要らぬ恥をかかせるのは、ちょいと憚られる。
スキルを解いた理由も、断じて死にかけの妖狐を軽んじたからではない。
つか、この有様でさえ難度九のボスより余程に強いだろうし。片手間気分に挑んで返り討ちとか、そんなワースト一位も狙えるダサい最期は御免だ。
「ぅるるるるるるるる」
数秒前、妖狐の実態と併せて気付いたこと。
身体の内に蟠る、ほんの数分前まで無かったモノ。
そいつを試そうと思ったのだ。
「侮辱と誤解させたなら謝る。ごめんなソーリー」
低頭。
次いで右手を強く握り込む。
その拳を起点に──動脈と静脈が、揃って金色の光輝を帯びた。
「おー」
ノリで適当にやってみたが、上手く行くもんだ。
名前は……そうだな。
「──
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