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「豪血──鉄血──『深度・参』──」


 動脈に灯る赤。静脈に灯る青。


 血管を溢れ、樹鉄へ絡む二色の光芒。

 時空の整合性を破壊、蹂躙する域まで高まる身体能力と反応速度。

 精度、範囲が次元違いに増したことでノイズを払い、鮮明となる完全索敵領域。


 ──疾駆。


 物理法則、世界の課すルールに縛られた生物や機械機器では捕捉不可能な軌跡。

 尤も俺自身の認識としては、単なる直進に過ぎないのだが。


「『月輪』」


 己を砲弾に見立て、上空から叩き付ける『落月』の水平撃ちバージョン。

 身も蓋も無く言ってしまえば体当たり。せめて名前くらいは格好良く行こう。


〈ヌ、グ、ォォッ……!!〉


 衝波。衝突。衝撃。

 妖狐の巨体が数歩、退く。


「あァ?」


 またも違和感。


 相手は尾八本だった前回よりも格段に力を高めた、正真正銘の九尾の妖狐。

 にも拘らず、たたらを踏ませる程度とは言え、突き飛ばした。

 単なる当て身で。


 …………。


「ああ。そうか。そういうことか」


 至る正答。氷解する疑念。

 ちらと視線を右手へ向け遣る。


「成程」


 色々なことに合点が通った。

 となれば、少し段取りを変えても良かろう。


〈オノレ……虫ケラ風情ガ、マタモオレニ土埃ヲ……!!〉


 ぎりぎりと牙を軋ませ、階層全域が罅割れるほどの怒気を噴き散らす妖狐。


 ──当初の予定では以前と同様、シキ組の総勢で以て斃しに掛かる手筈だった。


 タイマン上等な月彦さん的には、正直なところ不本意極まるプラン。

 しかし諸々の都合を考えると、そうする他に仕方なかった妥協案。


 だが。どうやら無用らしい。


「リゼ」


 臨月呪母を構え『次元斬』の溜めに入りかけていた連れ合いを呼ぶ。


「取り敢えず手出し無用で頼む」

「…………りょ」


 幾許かの沈黙を挟んだ後、溜息混じりに返る了承。

 話が早くて助かり申す。なんやかんや俺を立ててくれるあたりマジお嬢様。


「ン」


 目配せで謝意を伝え──『双血』を解いた。





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