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大気圏の遥か先、ヴァン・アレン帯の彼方まで及んだ切っ尖。
雲も、空も、全てを貫いた虚から降り注ぐ、地球生物にとって極めて有害な宇宙放射線。
──だが、それすらも凍結する。時間と諸共に静止する。
「ぅるる」
基本的に放射線が凍る、況して時が凍るなどという現象は、決して起こり得ない。
しかし、スキル。魔法。元々は地球に存在しなかったチカラ。
そうした異能が何らかの形で度を越えた出力を持った際、本来の在り方を著しく外れ、果ては此方側の物理法則を完全に覆し、独自の性質やルールを世界に押し付けるのだ。
例えば、俺の『深度・参』による時間と空間の整合性破壊。
例えば、リゼの『次元斬』による有相無相を厭わぬ万物両断。
乱暴な表現を用いるならば、一個体という新たな宇宙の確立。
未来を知るu-a曰く、超越者。
更に曰く、事象革命以降の百年間でこの域に到達可能な人類は、僅か八人。
俺、リゼ、ヒルダ、五十鈴。
六趣會のハガネ、シンゲン。
斬ヶ嶺鳳慈。
あとは、クソッタレのリシュリウ・ラベル。
他に
大陸消滅規模の危険度を有する難度九ダンジョンボスさえ路傍の小石に等しく蹴散す、人として生まれながら人を超えた怪物。
──とどのつまり。
〈クフッ……クフフフフッ……〉
そんな俺達と同類項の、世界相手に我を押し通せるだけの力を備えた存在もまた、理を外れていると言えるだろう。
停止した時の中、虹色に照り返す氷翼を羽搏かせ、眼前へ降り立つフォーマルハウト。
〈ハァッ……〉
胸元に手を添え、上目遣いで俺を見る。
濡れた双眸。唇を舐める赤い舌先。鮫に似た鋸状の歯列。
その悉くが『
が。残念。
「もう効かねぇよ、そいつは」
スロット移植手術の後遺症、魂への亀裂。
それを埋め立てる形で流れ込み、心身共々の融合を遂げた樹鉄刀が、干渉を押し返す。
前みたく脳を穿り回すにも及ばない。
俺を魅了したければ、出力を千倍にでも上げるんだな。
「わお超美人! お姉さん、良かったら僕と食事でも──」
〈……妾ニ触レルナ、下郎〉
「おおうっ」
ヒルダの義手が凍てつき、砕けた。
核兵器の直撃も遮る
この距離。樹鉄が混ざっていなければ、スキル無しでは凍結を防げなかったろう。
〈アア……〉
今し方の塩対応とは対極、蕩けるような笑みを絡み付かせて来るフォーマルハウト。
男どころか女でさえ情欲を抱くような美貌。その随所に鏤められた、竜の因子。
〈妾ノ、王……〉
強靭な爪を帯び、鋭利な鱗で鎧った、しかし厳つさよりも流麗が先立つ手。
俺の頬を撫でようと、ゆっくり伸ばされる。
取り敢えず指を一本、へし折った。
全てが停まった空間に、甘ったるい嬌声が木霊した。
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