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俺達の現在位置は、東京都港区。
その近辺。即ち二十三区内に、ゲートは述べ四ヶ所。
渋谷区の難度一ダンジョン、渋谷宝物館。
品川区の難度五ダンジョン、品川大聖堂。
墨田区の難度七ダンジョン、スカイツリー。
そして──新宿区の難度八ダンジョン、魔界都庁。
となれば、これも当然の帰結だろう。
他は兎も角、アイツが己の領域を喰い漁られ、ただ黙っているとは思えない。
ブラックマリアの脳足りん連中は、正しく踏み付けてしまったのだ。
文字通りの、竜の逆鱗を。
夥しい冷気が、一帯の分子運動を悉く停止させる。
体表へと纏わりつく氷を払い、リゼ達を振り返った。
「……ま。この程度、心配にも及ばねぇか」
超高層ビル一棟丸ごと覆い尽くす、赤黒い断絶領域。
流石、俺の嫁。
「寒い! 風邪引く!」
黒鎧と『
心配するな。ナントカは感冒なぞ罹らん。
…………。
「さて」
凍った雷という世にも珍しい代物を仰ぎながら、暫し待つ。
エネルギー簒奪のため構築されたパスを逆手に取り、向こう側から抉じ開けられる横道。
有り得ない、と言わんばかりな表情を浮かべるエイハ某達を見るに、こうならぬよう何かしら対策は打っていたのであろうが、だとすれば詰めの甘い。
〈──鬱陶シイ小蝿ドモガ。ヨクモ妾ノ玉体ニ齧リツイテクレタナ〉
僅かな隙間を力尽くで押し広げ、降臨を果たしたのは、最強の氷竜にして唯一の人竜。
魔界都庁を統べる女王、絶凍竜妃フォーマルハウト。
〈羽虫ニ肌ヲ這ワレル心地ナド、知リトウナカッタワ〉
氷細工の翼と尾、馬鹿みたいにエロい裸身を包む雪の鎧。
カタストロフの影響か、完全に力を取り戻した姿。
「ま、待て絶凍竜妃! 我々はリシュリウ様の──」
〈妾ノ名ヲ気安ク呼ブナ、塵芥〉
静止の統馭とでも称すべき、謂わば権能級のチカラ。
漏れ出る冷気だけで時空すら凍結させるフォーマルハウトの視線を受け、一人残らず氷像と化すブラックマリアの面々。
難度八どころか難度九の範疇にも全く収まり切らない、やもすれば九十階層フロアボスにさえ迫る、埒外な出力。
〈……ム? 此奴等……ソウカ、ソウイウコトカ。我ガ主上ハ本当ニ、ロクデナシダヨ〉
くるりとくるりと宙を舞い、何か得心したように独りごちる人竜。
〈トモアレ、饗宴ノ時ハ来タレリ。ジキ、コノ世界モ主上ノ食卓ニ並ブ〉
くるりくるり。くるりくるり。
〈ソウナル前ニ妾ノ王ヲ、ツキヒコヲ居城ニ迎エネバ──〉
「呼んだか?」
声をかける。
動きを止めたフォーマルハウトが、緩やかな所作で俺を見た。
「久しいな、ドラゴンクイーン。人の獲物を横取りたぁ、行儀が悪いじゃねぇか」
その意趣返しってワケでもないが、まずは一献。
「『破々界々』」
空中に陣取ってるお陰で、あれこれと加減に気を回さず済む。
コンマ一秒足らずの消滅波を、全開で叩き込んでやった。
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