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「楔を打て!」


 未だ残るブラックマリアのうち何人かが、エイハ某の号令を受けて八方に散開。


 次いで各々引き抜いたのは、奇怪な気配を漂わせた揃いの短剣。

 恐らく呪詛の類を練り混ぜて造った、明らかに尋常を外れた代物。

 生憎そっち系はリゼの領分だ。如何な性質を抱えているかまでは、よく分からん。


 ──ただ。ひとつだけ確信めいた予感がある。


「ねえツキヒコ。だいぶマズいよアレ」

「だな。止めに入ったら殺すぞヒルダ」

「文脈おかしい! 翻訳機の故障かな! いい加減、日本語覚えるよ!」


 ここからは、少しばかり面白くなりそうだ。






 楔と名指された短剣が九本、直径一キロあまりの円を描く形で地へ突き立つ。


「痛ったぁ!? 何これ静電気!?」

「二千ギガジュールってとこか」


 逆巻く熱量の奔流。荒々しく大気を伝う紫電。

 躍る雷は幾何学的な三次元の紋様を描き、更に出力を膨れ上がらせる。


「指先の人工皮膚が焦げちゃった……なんて性格の悪い嫌がらせを……!」


 纏う『空想イマジナリー力学ストレングス』を四重フィーアから六重ゼクスまで増やし、毒づくヒルダ。


 好都合だ。二度の『破界』で削った分を頂いておこう。

 シンギュラの歌が絶えず活力を与えてはくれるものの、流石に即座回復とは行かんし。


「──総員! 決戦兵装、起動ッ!!」


 雷鳴を切り裂き、またもエイハ某の叫びが響き渡る。


「?」


 すん、と鼻を鳴らす。


 完全索敵領域の圏内に、異物が潜り込んで来た。


「なんだ?」


 周囲を染め上げて行く違和感。

 カタストロフによる侵食と程近い、しかし微妙な差異を孕んだ現象。


 まるで、そう。

 ダンジョンの抱える無限に等しいエネルギーを濾し取り、抽出しているかのような。


「まるでと言うか、そのものズバリか」


 一瞬『豪血』を発動させ、全容を掌握する。


 とどのつまりは短剣で囲んだ内側の空間を捻じ曲げ、近隣に位置するゲートと力任せに繋ぎ合わせ、強制的にのだ。


「ダンジョンから直接、搾取する技術だと?」


 見たことも聞いたことも無い。

 当たり前だ。そんな芸当が可能なら魔石に値などつかん。

 俺達の、探索者シーカーの存在意義を大きく損なわせるほどのブレイクスルー。


 ──更に奴等は、それを体内へ取り込み始めた。


 スーツの下、肉体に半ば癒着させた装備。エイハ某曰くの決戦兵装とやら。

 吸い上げられたエネルギーを喰らい、着用者に注ぎ、急激な強化を施している。


「がっ、あ、あがァァァァァァァァッ!?」

「痛い痛い痛い痛いィィィィッ!? な、こんな、聞いてなっ……!!」

「リシュリウ様、りしゅりうさまァ……」


 其処彼処で劈く苦悶と絶叫。

 泣き喚き、転げ回り、身を焼き焦がし、次々と自滅するブラックマリアの面々。


 どうも齎される負荷に耐えかねた模様。

 骨粗鬆症かよ。カルシウム摂取を怠るからだぞ。


「へえ」


 その代わり、長らえた奴は優に数倍強くなってる。

 ざっと二十人。レベル的には平均で難度九のダンジョンボスくらいか。


「一気に粒が揃ったな」

「うえぇ、めんどくさ。だからマズいって言ったのにぃ」


 なかなか期待感の高まる演出。

 代償も踏まえ、まさしく奥の手と呼ぶに相応しい。月彦ポイントを五点進呈しよう。

 百点貯まったら、ラーメン屋の替え玉無料クーポンと交換可能。


 …………。

 それだけに、残念だ。


も考えず、やらかしやがって」


 深々と溜息を吐く。






 直後。骨髄の奥底まで響き渡る、寒々しい高音。

 見渡せる限りの一帯が──白く凍りついた。





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