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どこか腰が引けた空気の中、ネクストチャレンジャーを待つ。
はよ。
「能無しのサイモンは兎も角、エイハ嬢まで一撃か。噂以上の化け物だな」
「あァ?」
やがて臨戦態勢で歩み出たのは、初老と壮年の中間あたりな年頃のオッサン。
手練れと見込んだ残る二人の片割れ。体格、重心、視線、息遣いなどの諸々から察するに、ガチガチなインファイター。
今度はテメェか。つーか纏めて来いや、こちとら時間押してんだ。何度も言わせるな。
あとエイハって誰。どれ。
「──エイハ・ルルワ・ロクボネ。今し方、ツキヒコが蹴り壊した女だよ」
小首を傾げて困る俺に、ふわりと隣へ降り立ったヒルダが助け船。
珍しく気が利く。後で飴ちゃんをやろう。イチゴ味のやつ。
「僕達と同じ『十三の牙』。肉体の大半を機械化させたサイボーグ。総勢百人以上の主力戦闘員を擁するブラックマリアの中でも『三使徒』という特別な地位に立つ一人」
天津飯の中身は白米派。
炒飯は炒飯だけで食いたい。
「ついでに言えばエイハは、あの陰湿性悪ババアの側近。僕も昔ボコボコにされて……ねえツキヒコ、聞いてる?」
聞いてない。説明パート飽きた。
三使徒でも山椒味噌でも、呼び方なんぞ知ったことか。
「『破界』」
再び光帯を放つ。
今度は八人、存在が掻き消えた。
「チッ」
ちゃんと対応しろよ。つくづく、すっとろい奴等だ。
距離も範囲も絞った上、敢えて大仰に予備動作を晒し、エネルギーの収束と放出にも余分な空白を挟んだのに、回避出来んとは。
「そもそも戦うタイミングが遅過ぎたな」
半年、いや一年前の俺となら、まだ死闘を演じられたろう。
実に勿体ない。何故もっと早く来なかったんだ、アホどもめ。
「ッ、理不尽な……斯様にも巫山戯た技を立て続け撃てるとは……ノア! アズラ! エイハ嬢の治療を急げ!」
怒号を飛ばすオッサン。
そう焦るなよ、別に邪魔しねぇって。なんなら十秒待とう。ごゆっくり。
「オイ、動きが鈍ったぞ! やはり相当な負荷を受けてるんだ!」
「え」
ガラにもなく親切心など垣間見せたところ、妙な勘違いを招いてしまった。
コミュニケーションって難しい。
「『曲式・火皮』」
樹鉄が肌を突き破り、薄剣を模る。
そのまま軽く手首をしならせ、太刀筋を編む。
攻勢に転じた七人は無数の正六面体にバラけ、骨と肉の違いも分からなくなった。
「そう言えば、なんだかんだ初めてだな。人を殺すのは」
たぶん。記憶の限り。無かったことにしたのを除いて。
まあ、どうでもいい。生きていようと死んでいようと。そこまで他人に関心無いし。
「『穿式・燕貝』」
剣身に螺旋を刻んだ細剣。
逆手で振りかぶり、回転を加え、投擲。
射線上には傾いたビル。その要を貫き、倒壊させる。
瓦礫の津波に四人巻き込まれ、生き埋め。
「いや避けろよノロマ共」
えいやー、といやー、そいやー。
などと雑に攻撃を重ねたところ、瞬く間に半分前後まで減ってしまった。
悲しい。
「……嘗て闘り合った際も大概だったが……なんの生き物だ、あれは」
お。治療終わったのか、エイハ・ルルなんちゃら。
千切った義手は無いままだし、スーツもボロボロだが。
「戦えるか、エイハ嬢」
「当然。しかし今の我々では、束になったところで敵うまい」
今の自分で敵わんなら、より上のステージに進めば済む話だろ。
そう難しい理屈でもなかろうに。
「同意見だ。やむを得んか」
「ああ──『門』を開く」
どうやら何か奥の手を切るらしい。
いいぞ。そうでなくっちゃな。
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